【STEM教育のケーススタディ】洗顔のムダを微分で解き明かす
カーボンニュートラルという言葉が普及してきて、エコに対する世界の意識がまた一段上がったように感じる今日この頃です。
先日英国に出張した際、ロンドンからスコットランド中部まで遥々、電車移動しました。
同行した現地のパートナーに話を聞いたところ、飛行機は二酸化炭素の排出量が多く、出張で飛行機を利用して良い人数が制限されているようで、電車移動が選ばれたということです。
さて、エコといえば、昔から気になっていることがあります。それは
顔を洗うとき、流量を多くした方がいいのか、少なくした方がいいのか
ということです。
顔を洗う度に水を止めるのは面倒なので水は出しっぱなしの状態で顔を洗い続けるわけですが、水量が多いと、顔を洗っている最中に無駄になる水の量が増えます。
一方で、水をチョロチョロ出していると、圧倒的に時間がかかります。水は無駄にならないかもしれませんが、時間の無駄です。
そういうわけで、いい感じの妥協点があるはずだということで、今回はそれを試算してみることにします。
モデリング
パラメータ定義
次のように各パラメータを定義します。
水道代 cw [円/L]
流量 Q [L/sec]
洗顔に必要な水量 V [L]
一回の洗顔に使用する水量(両手に入る水の容積) v [L]
一回の洗顔にかかる時間 tw [sec]
水汲みにかかる時間 ts [sec]
洗顔回数 N [回]
洗顔間隔 T [sec]
人件費単価 cm [円/hr]
最適化の考え方
冒頭で書いたとおり、流量が多ければ水が無駄になり、流量が小さければ時間が無駄になります。
水の無駄と時間の無駄。
次元が違うので、同じ尺度でフェアに評価するために、コストの概念に落とし込みます。
水は水道代、時間は人件費として評価することにします。
水道代と人件費の合計が最小になるような流量を求めることにします。
洗顔にかかる時間
洗顔のサイクルは、手に水をため、顔を洗う、この繰り返しです。
手に水を貯める時間は
ts = v/Q [sec]
洗顔そのものにかかる時間は毎回一定でtw[sec]とします。
洗顔にかかるトータルの時間Tは
T=ts + tw [sec]
となります。
水道代
水道代の単価はcw [円/L]としました。
先程の洗顔にかかる時間T [sec]に流れる水の量はQ.T[L]なので、水道代のトータルは
Cw=cw.Q.T=cw.Q.(v/Q+tw)=cw(v+Q.tw) [円]
となります。
人件費
人件費単価はcm[円/hr]としたので、単位に気をつければ、洗顔中にかかるトータルの人件費は
Cm=cm/3600.T=cm/3600.(v/Q+tw) [円]
となります。
全体コスト
よってトータルコストは
Ct = Cw + Cm = cw(v+Q.tw) + cm/3600.(v/Q+tw) [円]…★
となります。
さてこの式ですが、文字はちょっとばかり多くても、ほとんどが定数、つまり値の決まった文字です。
実は変数は、流量Qだけです。
★式の第一項はQが大きいほど大きくなりますが、第二項はQが大きくなると小さくなります。
つまり、どこかにちょうどいいQがあって、最小値をとるのです。
アナリシス
最小コストの求め方
ここまででモデリング(モデル化)が完了したので、あとはアナリシスです。平たく言えば、計算するということです。
★式から、全体コストが最小になるのがどんな場合なのかを計算で求めます。
先ほど書いたとおり、変数は流量Qだけです。Qの値によってCtの値がどう変化するかをみたい場合には、【微分法】の出番です。
Ct(Q) = cw(v+Q.tw) + cm/3600.(v/Q+tw) とおきます。
これは、CtをQの関数、つまりQによって変化する量だと定義したことになります。
そこでCT をQで微分すると
dCt/dQ = cw.tw - cm/3600.v/Q^2
となります。
dCt/dQは単調増加し(つまり、Qが大きくなればなるほど小さくなる)、Q = √{(cm/3600cw)(v/tw)}の時にdCt/dQ = 0となります。
いわゆる、増減表というやつですね。
よって、Q = √{(cm/3600cw)(v/tw)}を境にdCt/dQが−から+に転じるので、Q = √{(cm/3600cw)(v/tw)}でCtは最小となります。
言葉で書けば、流量がQ = √{(cm/3600cw)(v/tw)}のとき、全体コストCtが一番小さくなるということです。
具体的に値を入れ込んでみましょう。
水道代 cw [円/L] = 0.022
一回の洗顔に使用する水量(両手に入る水の容積) v [L] = 0.1
一回の洗顔にかかる時間 tw [sec] = 6
人件費単価 cm [円/hr] = 1400
Q = √[{1400/(3600×0.022))(0.1/6.0)} = 0.543 [L/sec]
シンセシス
結果が求まってはい終わり!ではなく、結果を吟味、解釈してみましょう。
約0.5L/secということですが、まずこの流量はどうでしょうか。多いと感じるでしょうか、少ないと感じるでしょうか。
500mLペットボトルが1秒で満タンになるくらいの流量ということです。これ、多くないですかね。
東京都水道局の資料によると、口径13mmの蛇口の適正流量は0.1〜1.0m3/hrだそうです。1.0m3/hrは約0.28L/secです。
先ほどの約0.5L/secというのは、この適性流量からしてみてもちょっと値が大きすぎますね。
いくら0.543 [L/sec]のときに全体コストが最適化されるからといって、実際に出せない流量であったら意味がないですね。
また、先程の微分の結果から、Q = 0.543 [L/sec]までの間は流量Qに応じて全体コストは単調減少することがわかっています。
なので、蛇口を全開にして0.28L/secの流量を確保することが、全体コストの最適化につながりそうです。
028L/secはまだ現実的な気がしますが、それでもちょっと多いですね。あまり水の勢いが強いと、そもそも手にうまく水を貯められません。
そこまで考えると、手から水がこぼれ落ちない程度に水の勢いを強くするというのが、全体コスト最適の解のように思えます。
結論
手にうまく水が貯まる程度にできる限り流量を大きくすることが、水道代+人件費の全体コスト最適につながる
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