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監査法人の退職理由

嫌になったから。






というのが本音です。

 しかし、それだけで終わらせてしまうのは、監査法人に勤める方々に失礼な気がしますし、それだけを求められていないと思いますので、今回は転職活動の面接において使用できるような、それっぽい退職理由を記載していこうと思います。


積極的理由

①「目の前のクライアントに貢献したいと考えたこと」


 前提として、監査業務におけるクライアントは、目の前の監査クライアントではなく証券市場の投資家です。

 監査報酬をいただくのは監査クライアントからですが、真のクライアントは目の前の監査クライアントではないという構造が、監査の構造的な問題点として指摘されることもあります。私自身は退職する一年前くらいから、その構造に葛藤を覚えることが多くなっていました。具体的には新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う投資の評価の場面や、監査手続の厳格化に伴うクライアント負担の増加等が挙げられるでしょうか。

 必死に監査業務に励むことが、どうしても目の前の監査クライアントの負担増につながってしまうという構造に葛藤を覚えてしまい、「(どうせ頑張るのであれば、)目の前のクライアントに喜んでもらえる仕事をしたい」という思いから退職に至りました。

 念のため記載しておきますが、監査法人の会計士であっても、監査クライアントに喜んでもらえる仕事のできる方はたくさんいらっしゃいました。あくまで目の前の監査クライアントに喜んでいただけるor頼っていただけるような存在になれなかった、もしくは存在意義を感じることができなかったのは私の力不足以外の何物でもないので、その点は補足しておきます。

 蛇足ですが、書きながら考えていたのは、私の中には「目の前のクライアントに貢献したい」というよりも、「目の前のクライアントに貢献していることを実感できる環境に身を置きたい」という承認(?)欲求のようなものが根底にある気がする、ということです。

 通常、そっちの方が嬉しいと思うので、個人的には悪い性質のものではないと捉えています。しかし他者からの感謝をモチベーションにすることなく業務に励める人は、信念があってかっこいいなと思います。

 このことから、監査法人に適した方というのは、目の前のクライアントに直接的な感謝をされることがなくとも、証券市場の社会インフラとして機能することに存在意義を見出し、そのために日々の業務に当たれる方なのではないかと想像しています。


②「企業の意思決定に関わりたいと考えたこと」

 企業活動の後工程に関与するのではなく、より前工程の領域、つまり企業の意思決定に関与したいと考えたことが二つ目の積極的理由になります。
 この理由はそこまで大きな理由ではなく、それっぽくするために挙げた感じなので詳細は割愛します。


③「会計監査の(基礎中の)基礎は最低限身に着けられたと判断したこと」

 結果として私は約3年ほど監査業務に従事してきました。監査法人時代は、上場会社・非上場会社の主査を任せていただいたり、IPO監査にも多く関与させていただいたりと非常に充実した3年間でした。

 ただ、約3年という短い年月で会計監査の基礎中の基礎は身に着けたと考えてしまうのは早すぎる、ともすると、調子に乗った認識と捉えられてしまうかもしれません。(昨今の)監査法人における3年という年月を考えると、主査と呼ばれるシニアスタッフの指示のもと監査チームを円滑に回すことが求められている立場であり、年々増加する現場の監査手続をこなしていく存在にすぎず、パートナーやマネージャーからするとまだまだ監査の「か」の字も知らないペーペーだと思います(実際に上司に退職の相談をすると必ず言われるセリフなのではないのでしょうか)。

 ではなぜ3年という短い期間で退職を決めたのか。まず第一に比較的早く様々な業務を経験させていただき、パートナーや審査担当者の言わんとすることを理解できない場面がほぼなくなったこと、第二に、未経験業界への転職年齢を考慮したことが挙げられます。

 私は将来像として監査法人に戻ることを想像しておりませんでしたので、会計監査の各種論点について、パートナーの会話を一定程度理解できるレベルであれば十分だと考えていました。その観点からパートナーの言葉が理解できるようになった時点で、私が監査法人で達成するべき水準は達成したと考えました(もちろん、パートナーの方々が私に配慮して分かりやすい話し方をしてくださっていた可能性は加味すべき)。

 第二の理由として挙げた転職年齢ですが、将来どの業界に進むか決まっておらず、例えば実質的な年齢制限のある戦略コンサル業界や外資系投資銀行等へのキャリアの可能性を考慮すると、転職のタイミングは早い方がいいと考えたことが挙げられます。

 また、私生活との兼ね合いで、仮に将来的に家庭を持つことを考えると、安定した高級と、安定したキャリアである監査法人から転職しづらくなるということも考えていました。

 マネージャークラスになると、年収は約1,000万円になるようですが、仮にこの報酬水準を維持したまま転職しようとした場合、残される選択肢は外資系投資銀行やコンサルティング業界、外資系企業・金融機関もしくはテレビ局等の経理職という話を小耳に挟んだことがあります(なお、そうした職場はそうそうないのと、入社難易度は高いため現実的ではない。)。

 私は経理職への志向があまりなかったのと、投資銀行やコンサル業界に入るのであれば早めに入った方が得策と考えたことから、3年という短い期間での転職に踏み切りました。


消極的理由

①「誰のため、何のために働いているかが分からなくなったこと」

 積極的理由①「目の前のクライアントに貢献したいと考えたこと」の裏返しになりますので詳細は割愛します。


②「労働環境の悪化に伴う精神的・肉体的な限界」

 年々、現場レベルの監査手続は増加していますが、監査報酬は増額しないという環境の中で労働環境は悪化しているように見受けられます。

 公開するような内容ではないので私自身の労働時間は記載しませんが、「まあ続かないな」と思える労働時間でした。同様にシニアスタッフやマネージャー陣の働き方を見ていて、「ああはなれない」「ああなりたくない」と思ってしまったことも率直な思いです(現場で必死に頑張っている方の目に触れてしまう可能性のある本noteで言及するかは迷いましたが、率直な一意見としてご容赦ください。)。

 特に「誰のため、何のために働いているか」が分からなくなってしまった心境の中で、長時間労働を行うのは、精神的にきついものがありました。
 1-2年目の時には自分自身の成長に焦点を当てていたので、長時間労働が必ずしもネガティブな心境に結び付きませんでしたが、焦点がクライアントへの価値貢献に移ってきた3年目にはネガティブな方向に作用してしまったのかもしれません。


③「監査手続のインフレ化が続くと予想したこと」

 あるシニアマネージャーの方曰く、十数年前の監査手続と昨今の監査手続では、監査手続の分量が全く違っており、現場負担が増大しているようです。例えば入出金のテストについて、昨今の監査現場では一般に実施するものと考えていますが、数十年前は「どうやら米国で入出金の証慿突合を実施しているらしいから、一件やっておく?」というノリだったと伺いました(真偽は不明)。

 また、2015年の東芝会計不正の一件から監査業界を取り巻く環境は厳しくなっています。私は2015年以降に監査法人に入社していますので、そのあたりの肌感はありません。ただ、たしかに入社以来毎年チェックリストが追加され、私が退職する時には、チェックリストのチェックリストも出来上がっていましたので、そこまで的外れなものではないと考えています。

 監査手続の増加に伴い、監査工数が増加しているのであれば、監査クライアントに報酬の増額を要求するべきではありますが、残念ながら監査工数の増加は顧客価値の増加につながりません(orつながりにくい)ので、監査報酬を増額する対応は難しいと想像しています。

 であれば、監査工数を削減できる人間が評価されるべきですが、前職の監査法人で評価されるのは、膨大な監査手続をこなし続けることのできる人物であり、リスクを背負って監査工数を削減するという人物ではないように感じました(完全な主観です。)。

 上記のような状況があり、その状況に対する不平不満を言いながら監査法人に勤めているのは精神的に不健全と考え、退職に至りました。


おわりに

 率直な内容になるよう留意しましたが、ネガキャンのようになってしまって、後味はよくない感がありますね。

 3,500字にわたってネガキャンしているように見えて不快、ということで補足しますが、監査法人では様々な機会をいただきましたし、上司も先輩も同期も後輩も、みなさま(ほぼ)全員素晴らしい方々ばかりでした。本当に人に恵まれた3年間でしたので、監査法人に入社したこと自体に後悔はありません。

 監査法人のメリットについては別のnoteで記載していますので、良ければご参照ください。ではでは。



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