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【実話】二留の人(3)

[前回までのあらすじ]
就活留年を決めた私だったが、内定がない。あげく卒論の提出日を間違えてしまう。そして無慈悲にも二留目に突入するのであった…



 ということで二留目が確定。それでここまで来ると心が麻痺するというか、慣れるというか留年では動じなくなってくる。

 2022年10月までにやることは「卒業論文」と「就職活動」のこの2つだけ。ところがいいだけ逃げているので、この2つから逃げることに慣れてくる。

 で、個人的にこうなると何か重い腰をあげる「きっかけ」みたいなものが欲しくなる。

 私はちょうどこの時期にあるエピソードを知った。それは村上春樹がプロ野球の開幕戦に行ったときのこと。ヤクルトのデイブ・ヒルトンが二塁打を打った瞬間に彼は小説家になることを決めたという。

 私はこの話を知って、そんな「きっかけ」をひたすらバカみたいに待った。それで先に言っておくと、こんなものは私にはこれっぽっちも必要なかった。

 それに付け加えると、その前年の6月くらいの内定がなかった頃に、Kスタで阪神vs楽天の交流戦を阪神側で見に行ったときのこと。大山と佐藤輝明がマー君相手に合わせて3本か4本もホームランを打つという、村上春樹なら余裕で小説家になることを決めるであろうような出来事を目の当たりにした。しかしそれは凄かったが、なんの「きっかけ」にもならなかった。

 そんなこんなで時間は無慈悲に流れてもう3月。唯一の救いだったのはほぼ周回遅れになったおかげで23卒の院の友人と一緒に就活ができたことだった。

 3月が過ぎ去り、4月も終わろうとする頃。私はマスコミを受けるわけでもなく、どこに出すわけでもない履歴書をただ推敲していた。

 そうして何をするでもなく4月末のゴールデンウィークの直前。高校の頃の同級生から「奈良にでも旅行行かない?」と連絡が。私はバイトだけしてお金だけは多少あったので後先考えずに即OK! バカかこいつは。

 2人で車を運転し、新潟から300キロほど走ってはるばる奈良へ。このときはじめて奈良へ行ったけど本当によかった。東大寺の建物と大仏のデカさに圧倒され、「やっぱ世界遺産だわ〜」と就活と卒論そっちのけでしみじみ思った。

 そうして東大寺の本堂の中にお札やらお守りやら売っているところを発見。あんまりそういうの信じてなかったけど、ぶらぶら見ていると「就職守り」というまさに私のためにあるようなピンポイントお守りが。

 ところがこの時の私は就活が嫌すぎたのかなんなのか、その先まで見越した「仕事守り」を買おうとして、友人に冷静に止められ、しぶしぶ「就職守り」を購入。

 現実逃避ここに極まれり。

 「700円でなんかあれば儲けもんだな」と思っていたが、すがるものがあるとちょっとだけ違う気がする。面接前にちょっと見たりして心を落ち着かせたりしてました。これ書くと恥ずかしい。でも助かりました。(つづく)

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