『ツナグ 想い人の心得』辻村深月さんの選ぶ3冊とは
ベストセラーズインタビュー第107回では辻村深月さんに『ツナグ 想い人の心得』(新潮社刊)についてインタビューを行いました。ここでは、その中から「人生で影響を受けた本を3冊ほどご紹介ください」という質問の部分を抜粋して掲載します。(取材・構成:山田洋介、写真:金井元貴)
―― 辻村さんが人生で影響を受けた本を3冊ほどご紹介いただきたいです。
辻村: 藤子・F・不二雄先生の『ドラえもん』と、綾辻行人さんの『十角館の殺人』、あとは岡崎京子さんの『リバーズ・エッジ』かな?
―― 劇場版の『ドラえもん』でどれが一番好きですか?
辻村: それは一つ選ぶのが難しい……。どれを答えても「ああっ、でもあの作品も!」となりそうで。でも子どもの頃に一番繰り返し見たということで『ドラえもん のび太の宇宙開拓史』と答えたら悔いは残りません(笑)。
―― 先ほどのミステリのお話と似ているところがありますが、『ドラえもん』もいつの間にか見ていて、いつの間にか好きになっている類の作品かもしれません。
辻村: そうですね。だから、『ドラえもん』のひみつ道具で何が好きかとか、さっきみたいにどの映画が好きかという話題で初対面の人同士であっても盛り上がれる。みんなが『ドラえもん』にまつわる何かの思い出を持っていて、そういうところにも国民的漫画の凄さを感じます。
『ツナグ』も実際にはあり得ない不思議な設定の話ですが、そうした設定を書くのに抵抗がないのも、自分が『ドラえもん』で育った影響が大きいと思っています。『ドラえもん』の中に出てくる「スコシ・フシギ」はあくまで日常と地続きな場所にある。非日常的な設定にきちんとルールがあって、私たちが自分の身近に不思議な世界を感じられるようになっているんですよね。
―― 『十角館の殺人』についてはいかがですか?
辻村: さっきお話ししたように、子どもの頃はジャンルに無自覚に本を読んでいたのですが、はっきりと自分がミステリ好きだと自覚したのはこの本がきっかけだったと思います。
小説でしかできない表現のミステリに出会ったことで、「なんてすごいものを読んだんだろう!」と興奮して、読後、自分の部屋の中をうろうろしたのを覚えています(笑)。綾辻さんの本に出会っていなければ、今のような形で自分が小説を書いていることはなかったでしょうね。
この本に出会ったことをきっかけに、綾辻さんが薦めているミステリを読むようになり、自分の中に『十角館の殺人』を中心にした読書の地図みたいなものが一気にできていった。今回の『ツナグ』にしても、何か大きな事件が起きるわけじゃなくても、どの話にも誰かの秘密や著者としての企みがあります。ミステリ以外のジャンルのものを書く時でも、これまで読んできたミステリで培われた文法で自分は小説を書いていると感じるんです。私がかろうじてミステリ作家を名乗れるのは、『十角館』と綾辻さんのおかげだと思っています。
―― 『リバーズ・エッジ』についてもお願いいたします。
辻村: 高校生の時に読んだのですが、いつも寄り道するコンビニになぜか置いてあって、少し開いただけで、その圧倒的な表現や言語感覚に胸を撃ち抜かれました。当時の自分に刺さる言葉も多く、「私たちのための本」だと感じたんです。最後まで少しずつ立ち読みして、すべてを読み終えた頃にようやくレジに持って行ったのですが、そうした出会いの思い出まで含めて大好きな作品です。自分が少年少女を書くことが多いのは、『リバーズ・エッジ』の影響かもしれませんし、いつかこんな物語を書いてみたいと思いながら、今も小説を書いている気がします。
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