『薄明光亡』


澄み渡った日よりも
雲の多い日の方が
夕陽はきれいなんだと
君は言った。

戦地には赴きたくないと
はにかんだ表情の奥に
焦りが垣間見えたのは
どうしてなの。

神風に乗るなら
飛び降りて死にたいと。
だから結婚指輪よりも
肩たたき券の方が
ずっと愛なんだって
渡してきた紙切れに
あの時は呆れた顔をしたけど
本当はうれしかった。

なんて、
今思うのは間違っているかな。

山ひとつ越えた先
君の街が燃えている。
遠鳴りと地響きに耳を澄ませば
西の空に暗い煙が立ち
合間を縫って走る光線は
震えたまんま私の目を揺らす
かなとこ雲まで真っ赤に染まり
蝉の鳴き声が妙に馴染む。

今どうしても君の言葉を思い出してしまう。
なんて夕陽がきれいだろうって。



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