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「男はつらいよ 寅次郎紅の花」(日本映画、1995年、山田洋二監督)


「男はつらいよ」シリーズの終盤、40作目以降はすっかり満男こと吉岡秀隆さんが主人公だった。寅さんの年齢や、寅さんがすでにこれまで積み上げた恋愛話の数々、それから吉岡さんがどんどん役者として素晴らしくなっていくなど、多くの要因が重なってそんな風になったんだと思う。満男が主人公になったからつまんなくなっちゃった、ではなく、幼いころに「こんな大人になるなよ」と言って育てられた満男が見事に寅さんの二の轍を踏みながら、また新たに寅さん自身も自分が踏んだ轍を踏みなおしていて新たな面白さが詰まっていた。


男はつらいよシリーズの最終回はご存じのとおり48作目の「男はつらいよ 寅次郎紅の花」で、この映画は本当に泣かせることばかりだった。40作目以降、泉に自分の思いを伝えられずにもじもじへにゃへにゃし続けた満男が泉の結婚式をぶち壊して人生最大に凹みつつも人生を懸けた大告白を行う。寅さんと結婚するならこの人しかいない大賞(個人的には10作目の八千草薫だったんじゃないのとか思うこともある)であるリリーこと浅丘ルリ子の名演と、結婚はしてないけれどリリーはやっぱり別格に扱う寅さんの不器用さが爆発していた。あとは、この時期一番扱いにくかったであろう阪神大震災を扱って寅さんに映画の中で「みなさまお疲れ様でございました」と言わしめた監督の趣向。それから、みんな大好き大花師匠。


そして本作を最後にこの世を去った渥美清、その人。今までの寅さんの好きなところ全部を詰め込んだ48作目が公開された翌年、お亡くなりになられました。自分のような時代遅れの単なる映画好きが1作目からひとつずつ追っていっただけで最後の作品をみて号泣してしまったわけで、当時の人々のショックたるや想像ができません。観客の期待とこれまでの歴史と役者としての矜持と様々なことをその肩にしょって、癌におかされた身体ながら最後の作品を撮っていらっしゃったのかと思うと、時代を超えてその出来事を受け止められず悲しみにくれております。感情が時空のねじれを起こしています。



2年前からゆっくりかみしめるように全作品を見進めて、あぁこの映画シリーズは最も好きな日本映画シリーズになるなぁと思っていて、まんまとそうなりました。今でも全作品みれるのはうれしいし、本当に日本の宝のような映画群だと思っています。あと2作、おいしいおまけをもらったような気持ちでハイビスカスの花の特別編、それからお帰り寅さん、この2つを眺めながらまた泣くんだろうなぁ。



と、「男はつらいよ 寅次郎紅の花」をみての感想をつらつらと書きました。



今になって観ても、響き続ける映画ってすごいですねぇ

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