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【散文詩】終わりと続き

「終わり」はいつだってこの手中にある。
結局のところ、全てはいつか終わるのだから。
何かを「続ける」ことを辞めるかどうかの差でしかない。

伝統も、人ひとりの人生も。
血脈も、人ふたりの関係も。
最期の灯は、いつしか風前に消え失せる。

「終わりにしよう」と君が言ったとき、
僕はまだ物語の続きを紡ごうとした。
それは愛着ゆえのこと。

「終わりにしよう」と僕が言ったとき、
君はまた僕に物語を予感させてくれた。
それも愛着ゆえだろうか?

――否、僕はどうやら「今」に固執しすぎていたようだ。
「今」うまくいっていないから。
「今」苦しいから。
そしてその「今」が永遠に続くと思い込んでいたから。

――しかし、君は「今」とは違う「続き」を僕に見せてくれた。
「次は」うまくいくかもしれない。
「次は」楽しいから。
苦しんでいる「今」は永遠には続かないのだから、と。

そうして、僕は君とまた物語を紡いでみたくなった。
僕が終わらせたかったのは二人の物語ではないと知った。
終わらせたかったのは「今」で、それはそもそも終わり行くものだったのだ。

再び、君と物語を紡ごう。
それは最早過ぎ去った前章への愛着でも、終末への躊躇でもない。
現在への訣別であり、来るべき次章への期待だ。

僕は「今」に別れを告げ、新たなる「続き」の旅路に立つ。


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