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雪女(ショートストーリー)
わしの見た雪女は、話に聞いていたのとは違っておった。
あれはわしが若い頃、反物の行商に出ておったときのことじゃった。
昼間からちらついていた雪が、夜には猛吹雪になっての。運よく見つけた小屋で夜を越すことにしたんじゃ。
横になって目を閉じはしたものの、寒さと風の音でなかなか寝付けたものではなかった。
夜も更けた頃じゃろうか、急に戸が開いて、誰かが入ってきた。若い娘じゃった。
こんな吹雪の夜に薄い小袖一枚のおなごなぞ、妖怪のたぐいに決まっておる。雪女に違いないと思ったわしはぎゅっと目をつぶった。
雪女にこれから冷たい息を吹きかけられて凍死するんじゃ、と思うて覚悟したんじゃ。
しかし、雪女が近づく気配は一向になかった。
怪訝に思ったわしが薄目で様子を伺うと、どうじゃろう。なんと、雪女はわしの荷物の中の反物に目を奪われていたんじゃ。
妖怪だとて、やはりおなごじゃのう。あんな真っ白の味気のない小袖では心が凍るのも無理もなかろうて、とわしは内心、雪女を哀れに思った。気に入った反物があれば持っていくがよい、とも思うた。
わしの気持ちが通じたのかどうか、雪女は反物を一つ抱えるとそのまま小屋を出て行きおった。
不思議なことに、翌年の冬から雪女を見たと言う者がぱったりいなくなってのう。吹雪で命を落とす者もぐんと減ったのじゃった。
これも同じ頃じゃったろうか、春に桃の木の精を見たという者がちらほら現れるようになっての。なんでも、見覚えのない若い娘が楽しそうに満開の桃の木の下で歌っていたんじゃと。近づこうとしたら、目の前からかき消すようにいなくなったそうじゃ。
桃の花の小袖がそれは良く似合っていたそうな。
そう言えば、あの晩、雪女が持って行った反物も桃の花の柄じゃったかのう。
<終わり>
ありがたくいただきます。