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おれはマヌケじゃない。 『PORTAL2』

”「おれはマヌケじゃない」”

『PORTAL2』より ウィートリーのセリフ

承認欲求には終わりがないという。
他人から認められたいという欲望は、認められなければ苦しみ、認められても、さらに次の段階の欲求に進んでは、同じことを繰り返す。

そして承認欲求の強い人間が最も苦痛を感じるのが、劣等感だ。
自分が人より劣っていること、自分より認められている人がいること、他人から馬鹿にされること。これらに対してまるで耐性がない。承認欲求の薄い人からすれば理解できないくらい、落ち込むし、切れる。


『PORTAL2』というゲームに登場する「Wheatley(ウィートリー)」は、とても劣等感の強いキャラクターだ。

彼はとある優秀なAIの能力を落とすために作られた外付けユニットである。
そのAIがあまりに優秀で、人間のコントロールできない領域まで進化するのを恐れた科学者たちが、彼女の力を抑えるため、世界で一番マヌケな思考回路を生み出した。それがウィートリーだ。

物語の序盤、ウィートリーは陽気でユーモアのある、主人公のよき相棒だ。
ディズニー映画に出てきそうな(『ライオンキング』のティモンみたいな)、ジョークたっぷりのセリフがたくさん用意されており、自分たちが閉じ込められている施設から脱出するため手を貸してくれる。

ところが中盤、作戦の一環でAIのボディを物理的に乗っ取ったウィートリーは、その全能感に支配されて態度を一変させる。
脱出して外に出ることへの興味を失い、主人公たちを阻む敵となる。

しかし、ウィートリーは失敗した。
彼は世界で一番マヌケになるようプログラムされている。つまり、あらゆる問題に対して、必ず間違った対処をするように設定されている。
結果、ウィートリーの意図に反して、施設は自然と崩壊に向かい、最後は主人公たちに敗れて宇宙の彼方に飛ばされてしまった。


私はこのウィートリーというキャラクターが好きだ。
性格的な意味でのキャラクターも魅力的だが、その境遇にどうしても共感してしまう。

ウィートリーは自分がマヌケであることを気にしていた。だからAIからウィートリーの生まれた意味を指摘されると、憤慨し、AIをジャガイモ電池に封印したあげく、主人公たちの乗るリフトを何度も殴りつけ、地下深くへ叩き落としてしまった。
アームを振り下ろしながらウィートリーは声を荒げる。「おれは、マヌケじゃ、ない!」と。

誰だって、自分が劣っていることを認めるのは難しい。実際に劣っているか優れているかにかかわらず、誰かと比べることでしか自分を認められない人は、いつまでだって同じことで苦しみ続ける。
どこかで終わりにしなければいけないと思う。誰かではなく、自分で自分のことを認めてあげなければ、いつまでも劣等感に苦しめられることになる。


ゲームのエピローグはウィートリーの独白で終わる。
宇宙に放り出された彼は呟く。もし戻れるなら、謝りたい、「ゴメン」「ひどいことをした」と。
彼にその機会が訪れないことに胸が痛くなる。


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