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エスプレッソと白檀

 私のくつろぎのために欠かせないのがエスプレッソと白檀の香りで、この組み合わせはもう15年ほどになる。何も香りを組み合わせて好んでいるのではなく、部屋に絶えずいずれかの香りをくゆらせていることで、どこの世界にも見出し得ない居心地の良さとリラックスが実現する。

 この1年ほど、コーヒーを「好き」という理由以上に「無理やり覚醒している」ために胃に流し込んできたために、すきまのような今の期間には時折飲みたくないと思う日がある。そうはいっても3杯ほどは飲んでいて、これまでのように12杯ほどガソリンのようにして飲まない、というだけなのだけど。
 そして時折無性にエスプレッソが飲みたくなるのだけど、外で買うと(仕方ないけれど)ひと口のためだけに300円以上もかかるので、こんなときやっぱり過去にエスプレッソマシンを買っておいて本当によかったと思う。けれど半年ほどこのマシンが稼働されることはなくなっていて、ただただガソリン飲みをして頭を意識を、この場につなぎとめるだけにあの黒い液体を準備していたなぁ。かわいそうな私の胃、そしてそんなふうに消費されてきた夥しい量のコーヒーたち。

 白檀、サンダルウッドとも呼ばれる香木の、オリエンタルで神秘的、それなのにあたたかみのある甘い香調が本当に好きだ。自室ではお香として焚きしめている(まさしくそんな具合)のでゆらゆらとたちのぼる白い煙が部屋にたなびいている様を見るのも心が和む。外出して部屋に戻ると慣れ親しんだ白檀が名残のようにふわと香ると「帰ってきたんだ、これからは私のためだけの時間」という気持ちになれる。以前、お線香売り場で数本1万円以上もする高級白檀線香をサンプルでいただいたのだが、信じられない素晴らしさだった。自分で買うことはなさそうだけれど、あの香りの世界に住んだわずかな時間は夢のようでいつも脳内に憧れを呼び戻すほどだ。

 エスプレッソマシンに電気を通し、スタンバイを待つ。一度通電させてお湯を放出させてから、満を持して圧力をかけられすさまじい音を出して抽出されると、部屋中にやわらかな香気が満ちる。コーヒーの香りにリラックス効果があることは科学的に証明されている…なんて、味気ない話はどうでもいいと思うほどに、この香りが部屋を満たしていると文句なしにカームダウンされてしまう。それはもう、猫にまたたびのように(ちょっと違うか)。

 成人してからは親のではなく自分の責任による人生だと言うが、そういう意味でこの二つの嗜好は自分が生きてきて見つけた、自然の成り行きだと思う。私の場合、一人で暮らしている時間が長くなったので誰に遠慮することなくこの部屋では王様のように自ら愛するものを取り立てて自堕落化にまっしぐらであるが、残り香のエスプレッソと白檀だけはちょっとうれしく誇らしいめっけものなのであった。

 

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