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読書体験の放浪

あの人の薦めてくれた本を数冊読み終えてみて思った。「…なんだかもしかしたら、わたしなんかよりよっぽどあの人の方がロマンチストだったのかもしれない」と。実際、「おすすめの本を教えて」と言ったら即座に10冊ほどのリストを送ってくれたとき、「果たして自分であったなら、人にそう頼まれて即座にリストアップできるものかしら」と思ってこっそりとリストをつくってみている。

これが意外と難しくて、「自分が強く愛し感銘を受けた書籍」と、他人に「おすすめできる本」は少し違う。そもそも、他人にすすめる時点で少なからず「わたしはこういうことに心動かされるタイプです」と宣言するようなきらいがある。これはまあまあ恥ずかしいことなので勇気がいる。だからこそ丹念にリストアップする必要が出てくる。わたしにおいても、数作がそういう観点からリストに名を挙げては消えていった。そんなわけで、一向に完成をみない。

それをどうだ、すぐさま著者名と共に作品名を挙げられるというのは、おそらくわたしのように小難しいことを考えていない。この人にとっては「感銘を受けた本=おすすめできる本」なのだ。そして、それらによって「自分はこんな人間」と名乗ることもさほど苦とは思っていない。なぜならそこに心動かされた自分を愛しているから。まあもちろん、薦めた後に「これらを読んで僕のことをわかったように論じないように」と釘を刺すくらいにはあわてたみたいだけれど。

彼の薦めてくれた本には、本人が「それではあえて、あなたの読まないようなものを」とことわっただけあって、まったくわたしの読書体験と傾向を異にするものばかりである。まだ4冊ほどしか手にしていないけれど、1冊をのぞいてすべて(写真の作品がその除いた1冊)、軽いユーモアと比類なき想像力を駆使して解読する労の要る作品なのだ。ビジュアライゼーションという、物事を脳内で映像にできる力がとても問われるものばかりで、かつ作者の想像世界の産物なのでわたしのような人間にはかなりきつい。彼のレコメンデーションで改めてわかったのだけれど、わたしはかなりのリアリストなんだと知った。

自分の作成途中のリストにも、多くがリアリスト目線の作品が並んでいて、ここに大きな彼との相違を発見して非常に驚嘆するのだ。つきあいが長くても知らなかったことがまだまだあるし、いったいこんなロマンチストなサガを隠しもっていて、かように過酷な世界で生きるのは大変なんじゃないかしら?とか。まあ余計なお世話なのだけど。

ひとつ、素晴らしい恩恵があった。

自分の趣味、好みと異なるこれらの作品を読んでいると、「こういう物語の書き方があるのか」という学びになった。実際とても多くの点で創作上の参考になるものばかりで、わたしが自ら手に取ることはなかったものだけに文学というものの奥の深さを知る。

大変な蛇足であるが、自分が生涯でもっとも感銘を受けたのはシェイクスピアの「ハムレット」で、人に薦めても喜ばれるかなと思うのはアーウィン・ショーの作品ならどれでも、強いて一冊あげるなら「真夜中の滑走」かな。本当は短編集が好きなんだけど、人に薦めるとなったら物語として読み応えのある方がよいのかな、と。

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