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夜更けに猛る植物の思惑

夜更けに降り込める激しい雨、布団にくるまった身をさらに小さく縮めていると、不思議なことに生命の息遣いを勢いを、外の世界に強く感じることがある。騒々しくて汚すことしか知らぬ人間どもが深く眠りに就いた頃、花や樹や草などは我今を盛りと猛々しく躍動している気がしてならない。

太陽の下で彼らに出会うとき、よもや感じることのない不気味な力である。

そういえば、芥川が昔、微風が吹いただけで樹の枝が全体に波及して揺れることを「植物というもののいやらしさ!」と書いた記憶がおぼろにある。なんとなくこの感覚がわかる。そして自分の生命体として生き延びる力の弱さに絶望していた彼が、これを見て激しく嫉妬したであろうことも。

もうひとつ、智恵子抄でも確か、嵐の夜に光太郎と千恵子が不思議に肉欲を目ざまされるとした詩があった気がする。もしかしたら、精神がよほど自然に近しい人間の方が嵐に野生の本能を呼び起こされるのだろうか。

しかしながらこれがまことに不可思議なのだが、いったん日が昇り夜気が払われると植物はおとなしくなってしまう。あの、いつも目にする人畜無害な様子で楚々とたたずんでいるだけだ。物言わぬ従順さで地球と共生している。

そんなわけで、夜更けの嵐のときにだけ感じる、植物の猛る野生がわたしはちょぴりすきなのであった。


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