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工芸館の最後の日

2020年2月28日、東京国立近代美術館の工芸館が東京での活動に幕を閉じた。その最後の一日は全くもって突然訪れた。

1.東京国立近代美術館工芸館

工芸館の建物は、旧近衛師団司令部庁舎を保存活用したものです。この建物は、明治43(1910)年3月、陸軍技師田村鎮(やすし)の設計により、近衛師団司令部庁舎として建築されました。2階建煉瓦造で、正面中央の玄関部に小さな八角形の塔屋をのせ、両翼部に張り出しがある簡素なゴシック様式の建物です。丸の内や霞ヶ関の明治洋風煉瓦造の建物が急速に消滅していくなかで、官庁建築の旧規をよく残しており、日本人技術者が設計した現存する数少ない遺構として重要な文化財です。(工芸館HPより)

工芸館は、もともと金沢への移転が決まっており、この3月8日(日)を以て東京での活動を終える予定だった。しかし、新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、政府が文化・スポーツイベントの自粛要請を受け、東京国立近代美術館も2月29日(土)より3月15日(日)まで臨時休館となることを2月27日(木)に発表した。したがって8日までの予定だった工芸館の展示は、実質28日が最終日となり、それはつまり工芸館の最後の日となったのだ。

「もしも明日地球が滅ぶとしたら何をする?」

小学生の頃、そんな他愛のない「もしも話」をしたことがあるだろう。絶対に起きない、ということが前提で尋ねられる「もしも明日で世界が終わるなら…」が、工芸館において起きてしまった。

実は私はこれまで工芸館に足を運んだことがなかった。東京国立近代美術館(東近美)に行くことはあっても工芸館はスルーしていたので、工芸館に個人的な思い入れがあった訳ではないが、twitterで東近美の保坂学芸員のツイートで工芸館のことを知り、これは行くしかないのではと思い立った。”ずっとある”と思っているものがずっとあり続けてくれる保証などない。分かっていてもいつも安心しきってしまう。「あの時観とけばよかった…」となど思ってきたことか。これまで何度もしてきた後悔をしてはいけないと思い、急遽翌日に午後休を取った。

2.初めまして、工芸館

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煉瓦造りの建物はレトロな雰囲気を漂わせている。煉瓦だけでなく、窓やポイントポイントで白がアクセントとなっていて、全体の印象としては可愛らしい。行った時には見過ごしていたが、玄関のアーチの柱はギリシャ建築のコリント様式みたいになっていたのか。

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静かに時間を蓄積してきた工芸館の内装。階段の手すりは艶やかに光り、しなやかな曲線を描くランプが出迎える。丁寧に織られた裂によるカーテンによって、窓から射す光は柔かく屈折していく。

3.「パッション20 今みておきたい工芸の想い」

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東京での活動の最後となる展覧会は「パッション20」。工芸作品の展覧会のタイトルとしてはキャッチーな言葉である。展覧会では工芸の世界において重要な出来事や作者の言葉から抽出した20のキーワードから、工芸作品のうちにあるパッションを伝える。

収蔵作品から、鈴木長吉《十二の鷹》をはじめ、染織、金工、陶芸、、、あらゆるジャンルから珠玉の作品が並ぶ。《十二の鷹》は、まさに立体「架鷹図」。生々しささえ感じるほどの鷹12羽のギラギラとした迫力。老若男女が嘗め回すように見つめ、カメラに収める撮影会と化してました。

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十二の鷹ー1

鈴木長吉「十二の鷹」(部分)※私の推し鷹

木村雨山

木村雨山「華布壁掛」(左)「縮緬地友禅訪問着 路地の石敷き」(右)

個人的のベスト作品は木村雨山の着物。路地の石敷きをモチーフにした大胆なデザイン。渋い色と斜めに配された石敷きの路地。カッコイイ!!そして多分私、似合う!!織部の片身替りのデザインを彷彿させる。

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松井康成「練上嘯裂文大壺 西遊記」


何層にも重なる土の襞。まるで地層のような表面。カラフルなのに土埃が舞っている乾燥した広大な土地を想起させ、「西遊記」というタイトルに壮大な浪漫を感じさせる作品。

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柳宗理「バタフライチェア」

プロダクトデザイン関係の本などでよく見るバタフライチェアに実際に座って鑑賞可能。人生初のバタフライチェア体験。


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床の間に飾られている作品。重い金属のような重量感だが、実際は紙と墨でできているらしい。(…これはまさか千利休の「強気は弱く軽く重かれ」の言葉に通じているのかしら?作品名を控えておくべきだった…)

4.さらば。工芸館

静かに時間を蓄積した建物の中で、工芸家たちの想いがほとばしってた。もっと早くに工芸館の魅力に気づいていれば…と思う気持ちもあるけれど、それでも最後となる一日にここに来ることができて良かった。

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