初夏のお葉見会
先日から投稿してきた人形劇について、
続きを以下、記載したいと思います。
本作は、
オープニング
↓
メインキャラ4人のコーナー
↓
エンディング
という形で、1つの回を構成していく前提で考えています。
今回は、エンディングをお送りしたいと思います。
<人形劇 登場人物>
・もんじゃ姫
→本作の主人公。
頭の上にもんじゃ焼きが乗った、ぼんやりしてて空想好きな女の子。
・さばみそ博士
→頭の上にさばの味噌煮が乗った、
語りたがりで、ついウィットに富んだことを言おうとする男の子。
・ハバネロ姉さん
→メインキャラで唯一の突っ込み役。唐辛子の髪飾りを着けていて、
ピリッとした性格で、行動的な姉御肌。
・ブルーハワイ兄貴
→頭の上にブルーハワイのかき氷が乗った、
きれいなお姉さんが大好きな、能天気で自由な大柄の兄ちゃん。
~エンディング~
昼休みのチャイムが鳴り、弁当を開く男子高校生。
「おっ、今日のメシも旨そうだな」と、
躊躇なくその弁当を取り上げる、前の席のラガーマン、辻村。
それを見て、「全部、…食べていいよ」という男子。
辻村「何、お前。今日昼飯いらねぇの?」
男子「あ、今日は、あんまり食欲無いから…」
そういう彼の頬をビンタする辻村。
辻村「部活やってねぇから、そんなヒョロっちぃんだよ。お前は」
男子「はぁ…、すいません」
そうこう言っている間に、もう完食してしまう辻村。
ここまで勢い良く平らげられたら、むしろ逆に、
母親も弁当の作り甲斐があるのかもしれない。
運動部仲間達に「メシ行こうぜ」と誘われると、
「あー、腹減ったぜーっ」と言いながら、食堂へと消えていく辻村。
モリモリ食べて、ガンガンスポーツに打ち込む運動部。
一見して、爽やかで健康的な感じを受けるが、
彼は、そういう人間が総じて苦手だった。
力の強さも、声の大きさも、旺盛な食欲も、
ひ弱な彼にとっては、どれも自分に降りかかる暴力へと変わるからだ。
6限の終わりを告げるチャイムが鳴る。
また、「お前、部活やれよ」とか何とか、
辻村にごちゃごちゃ説教されるのを恐れた彼は、
やや小走りになりながら、教室を出て、校門に向かった。
知っている人間から見られるのを避けるために、
メインストリートを外した自分だけの通学路を、
彼はすっかり、自分の中に定着させつつあった。
少し遠回りの道をしばらく歩くと、
美味しそうな匂いが、どこからともなく漂ってくる。
しかし、いつぞやタダ飯をご馳走になったおにぎり屋に近付くと、
何と、その扉は閉ざされていた。
「あれっ…、今日休業かな?」
そう思い、扉に近づいてみると、
"すぐ隣の公園で、美味しいおにぎりと新緑を楽しむ、
当店恒例、『初夏のお葉見会』を開催中~っ!!!!"
という、可愛い文字の貼り紙がされていた。
先日、昼飯没収の憂き目に遭い、空腹に喘いでいた自分に、
美味しいおにぎりを、惜しみなく無料提供してくれた、
あの"もんじゃ焼"頭の、優しい女性の顔が浮かんでくるようだった。
郊外ということもあり、この一帯はやたらと緑が多い。
貼り紙の言う公園は、すぐそこにでっかく広がっていた。
高校から歩いて行ける距離なのに、その存在すら知らなかった彼。
足を踏み入れてみると、すぐさま「こんにちはー」と言って、
例の女性店員が駆け寄ってくる。
店員「あっ、こないだお腹を空かせてた、学生さんですよねっ!」
男子「あぁ、はい…」
"その節はお気遣い頂き、誠にありがとうございました"
このような挨拶文が、頭にチラチラと点灯したのだが、
喉を越えて、口から発することが、どうしてだか出来なかった彼。
しかし、そんなことは全くとお構いなしに、
「こちらで、おにぎりとお味噌汁、その他諸々食べ放題の、
"初夏のお葉見会"をやってまーす!!」と、彼を誘導する店員。
常に、胃袋も財布もスカンピンな男子高校生にとっては、
聞いただけで、よだれが出るような楽園の宴に思える会だが、
促されて歩くと、意外にも参加者は10数人程度のようだ。
店員「この人達が、学生さんとおしゃべりしたいそうなので」
そう、店員に言われるがままにレジャーシートに座ると、
同じシートには、頭にさばの味噌煮を乗せた優しそうな男性(博士)と、
唐辛子の髪飾りをした、気の強そうな女性(姉さん)、
そして、頭にブルーハワイのかき氷を乗せた、
何というか、人生の楽しそうな男性(兄貴)が迎えてくれた。
兄貴「よう少年、学校帰りかい」
男子「は、はい…」
姉さん「部活もやらずに、こんな所でピクニックとは、良い根性だな小僧」
男子「ひっ、す、すみません…」
初対面の女性に、辻村のようなことを言われ、
つい反射的に、頭を下げてしまう彼。
兄貴「まぁ、このスケバン刑事は、そもそも授業すら出てなかったけどな」
姉さん「余計なこと言うんじゃねぇ!」
割り箸で兄貴をぴしゃりと叩く姉さんに、ビクッと戦慄する彼。
博士「勉強もスポーツも大事ですが、まずは一にも二にも食事から。
ご飯を美味しく食べられて初めて、その先があるというものです」
打って変わって、穏やかな口調で話す博士。
店員「さぁ、学生さん。ここは遠慮せず、たーんとおあがりよ!」
そう言って、色とりどりのおにぎりが乗った大皿を持ってくる店員。
男子「お、…お気遣い頂き、誠にありがとうございます…」
今度は、言うことが出来た彼。
あまりのぎこちない丁寧語に、思わずプッと笑ってしまう店員。
その後、ありとあらゆるおにぎりから、
暖かい味噌汁、ご飯の進むおかず類に舌鼓を打ち、
初対面の3人との、大分遅めのランチを楽しんだ彼。
色々と話した後、何かに気が付いた姉さん。
「ちょっと、一人呼んでくるわ」と言って席を立つと、
私服姿の男の子を、同じシートに連れてきて言った。
姉さん「この子、神谷くんて言うんだけどさ。
彼もね、実は君と同じ高校の同級生なんだよ」
兄貴「へぇー。(彼を見て)神谷くんのこと、知ってんの?」
その顔を見て、特に記憶にない彼は首を横に振る。
神谷「それも、そのはずだよ。
俺、GW以降、一回も学校行ってないから」
男子「えっ…」
まだ、高校1年生の彼は、
よもや、既に同級生で不登校のヤツがいることなど、知りもしなかった。
姉さん「入学1か月で不登校とは、随分と殊勝な心掛けだな」
兄貴「まぁ、この人は入学初日で、担任の頭を…」
姉さん「おにぎり、足りないんじゃねぇか?」
口におにぎりを突っ込まれ、ホガホガと悶えている兄貴。
神谷「君は、今も毎日あの高校に通ってるの?」
男子「は、はい…、一応」
神谷「凄いねぇ。
俺なんかより、よっぽど根性あるよ。
男子「はぁ、…そうでしょうか」
神谷「あの教室にいるだけで、俺は窒息死するかと思ったよ。
常に、何か目指してる振りして、努力してる振りをしてないと、
まるで生きている価値もないかのような、そんな世界だった」
博士「それは…、神谷さんもさぞお辛い1か月でしたね」
神谷「通ってた時は地獄だったけど、行くの辞めてからは、
家でゲームしたり、こうやって地域の人と交流したりして楽しいよ」
屈託なく笑う神谷の表情を見て、
自分にはないものを持っているようで、何だか羨ましく感じた彼。
羨ましい人間を見たせいか、より食欲が加速してしまい、
ここに来て、もうおにぎりを10個以上は腹に収めたが、
一向に、食欲の底が見える気配はない。
姉さん「しかし、高1男子の食欲は青天井だな」
男子「す、すみません…。
あんまりに美味しくて…、手が止まらないです」
よく、"空腹は最高の調味料"などと言われたりするが、
だからと言って、かけ過ぎも考え物である。
神谷「部活動とかはやってるの?」
男子「いえ、…特に、何も」
神谷「じゃぁ、そしたらさ。
時々で良いから、またここで会おうよ」
男子「…へっ!?」
突然の、神谷からのよく分からない申し出に、思わず変な声を発した彼。
神谷「学校行ってないもんで、当然クラスに友達なんて一人もいないのよ。
で、誰か一人でも、もしクラスに友達がいたら、
その、何ていうか、…安心するっていうかさ」
そう、少し恥ずかしそうに言う神谷を見て、
何だか、嬉しいやら戸惑うやらの彼の横っ腹を、軽く肘で突く姉さん。
男子「あ、…ありがとうございます。
そ、そのお気持ち、大変有難く…頂戴します。
…是非、今後とも、何卒よ…よろしくお願い致します」
店員「まじめ過ぎる…」
兄貴「少年、カッチカチに固すぎるぜ」
入学3か月にして、初めて出来たクラスメイトは、
学校から少し離れた、静かな新緑の中に、ひっそりと溶け込んでいた。
~エンディング 終わり~
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