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『ラチとらいおん』を紹介! <聞かせ屋。けいたろうのおやこ絵本さんぽ>

ヨメルバ編集部がセレクトした絵本を、聞かせ屋。けいたろうさんといっしょに掘り下げます。第四回は、普遍的なテーマを描いた人気絵本『ラチとらいおん』です。

ラチとライオン(福音館書店)


今回は『ラチとライオン』です。1961年にハンガリーで出版されました。日本では1965年の発行です。

すごいロングセラーですよね。ぼくの娘は、この絵本を幼稚園の卒園記念でもらったんですよ。
もともとこの絵本自体は知ってはいましたけれど、買ってはいなかったので、娘が持ち帰って改めてじっくり読んだんです。

なぜ幼稚園ではこの絵本を卒園記念品に選んだんでしょうか?

勇気を持ってとか、何かを成し遂げるとか、人として強くあれというようなメッセージを感じますよね。
いきなり総括みたいなところから入っちゃうんですけど、この絵本のテーマは、弱い男の子がライオンと出合うことで強くなるというものですよね。何かとの出合いで、力ないしは勇気を得て、いつの間にか自分の力だけで別の何かを成し遂げるというのは、よくある流れのようにも思えますが、これ……60年前の絵本ですからね! 当時の子ども達も現代の子ども達も初めて味わう王道パターンかもしれない。
60年経った今も変わらず子供たちに勇気を与え続けているのがすごい。そして、この先も変わらないと思うんですよね。
まさに卒園記念品になる、幼稚園や保育園の先生たちが子どもたちを送り出すにあたって、手渡したいと思える絵本。

本当にそうですね。
私は、このライオンがどこから来ているのかが気になりました。本当にライオンがいたのか、ラチがライオンのぬいぐるみにイメージしているものなのか……。

ぬいぐるみが元々部屋の中にあったものだとしても、それが喋ったり、一緒に付き合ってくれる存在として見えているのは、ラチの想像の中での出来事なんじゃないかということですね。

そうなんです。それであれば、この本を読んで「心の支えになるライオンが欲しいな」って思う子には、「これが今日からあなたのライオンね」というように手渡すことができるのかもしれないと考えたんです。この本自体も勇気をくれるものですが、この本から飛び出した勇気の与え方もできるように思えて、すごくいい本だなと。

そっか。既に子供部屋にあったものだから、こんなにかわいいライオンなのかも。確かにそういう見方をすると面白いですね。僕は、このライオンは、たまたまやって来たのかと思いました。
勇気の足りない子供のところに来てくれたのかな? または、仲間外れにされちゃったり、何かつらい思いをしている子供のところに来てくれそうですよね。

なるほど。
ライオンから、想像が広がりますね。

このライオンの話し方も、すごく上からじゃないですか。「ぼくが つよく してやるよ」っていう言い方がおもしろくて。これは訳をどうするかで印象が違うはずなんですよね。「なにかしてやるよ」っていうふうに、すごく上から言うのか、「君も強くなりたいなら僕が強くするからね」って言ってあげるのか。

たしかにそうですね。1965年の日本は、もしかしたら隣に寄り添う雰囲気ではなかったかもしれないですね。

そうですね。現代、例えば僕が翻訳を担当するならば、もっと優しい感じにするとか、寄り添い上手なぬいぐるみという感じで訳すかもしれないですね。

そうですよね。

ラチとライオンが相撲をとるシーンがあるんです。「すもうをとって、 とうとう かちました!」って、ラチがライオンを超えるところがあるんですけど、心なしかこのあたりから、ラチが大きくなったように見えるんです。相撲に勝ったあたりから、背筋がピンとしてるような……。これが絵ではなくて、お話のイメージで自然とそう感じているならすごいなと思って。
絵本の序盤は、ラチが猫背なような気もするし。

猫背でちょっと不安そうな表情に見えますね。

そうなんです。最初はちょっと不安そうな顔なんですよね。相撲に勝ったあたりから、「よしきた!」みたいな顔が多いし……だから大きくなったように見えているのかな?

横目で見ていたり上目遣いで見ていたりみたいなところから、真正面から捉えられるようになって。

そんな感じですよね。

確かに、すごいですね。
けいたろうさんのお嬢さんたちは、この絵本の反応はいかがでしたか?

上の子は3年生ですけど、今でも時々、寝る前に読みますよ。

お嬢さんは、この絵本のどんなところが好きなんですか?

ラチが強くなるために、ライオンがいろいろなことを手伝うこと。ライオンが優しいところが好きらしいです。

ライオンは親でも友達でもないけど、自分のことを完全に理解してくれている完全な味方ですよね。

ちょっと隣の存在なんだなきっと。うちの娘もぬいぐるみ、めっちゃ好きですけどね。

ライオンみたいにいつでも一緒にいられる、ポケットに収まるような存在がいいのかな。子ども心にフィットする。
どんな子でも、ちょっとした不安や心配ってありますもんね。

やはり、子どもにとっての普遍的なテーマをとりあげた、すごい絵本ですね!

けいたろうさん作『ラチとらいおん』のポップ


『ラチとらいおん』
文・絵:マレーク・ベロニカ 訳:とくなが やすとも
【定価】1,210円(本体1,100円+税)
【発売日】1965年7月
【サイズ】16cm×23cm
【ISBN】978-4-8340-0045-0


※第一、二回は、「ヨメルバ」復旧後に読めます。



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