月について

まえおき読み飛ばしてもOK、見出し見て興味持ったとこだけ読んでもわかるようになっているので適当にどうぞ!

コロナウイルスで大騒ぎの巷を満月が照らしている。三月に入ってからというもの明るい話題を聞くことがほとんどなくなった。暗いニュースが増えすぎて差し引き暗い、というだけかもしれないが、それにしても四月という比較的めでたく元気な月にあってこんな様子では先が思いやられるというもので、こんな時こそ我が専攻するところの学問・天文学にできることはないかと考えた。毒にもクスリにもならぬ、いや税金食いつぶしてどちらかというと毒っぽい、不要不急の極みみたいな学問をやってる天文学者に一体何ができはるのっつう話ですが、身近なあれこれで気が滅入ってしまうような時こそ!思いっきり埒外な宇宙のこととかを考えることでなんか救われるということはままあると思うんすよ。都合のいいことに今日は満月だそうではないですか(※書いているうちにベストタイミングを逃しました)。暗い世間の頭上に燦然と輝く月の話題を提供することこそ、今やるべきことなのではないか!というわけで今日は必要緊急月の話をします。

実はわたくしは某所でほそぼそと「観望会」という星を見るイベントのスタッフをやっていまして、三月の観望会では卒業に伴う引退前最後の解説を担当するはずだったのですが、それもCOVID-19 crisisの煽りを受けて中止になり、不完全燃焼で引退を迎えていました。そこで話す予定だったことを書こうかとも思ったけど、せっかく満月だのスーパームーンだのと言われているので、2013年に始めて人前で解説したときにした月の話をしようと思います。反応があれば別の話題もやっていきます。幅広い年代に対応するためだいぶやさしめ。普段からなにげなく見ているであろうお月さまにも、実はたくさんのふしぎがひそんでいます。月にちょっと詳しくなれば、これから空に月を見つけたときにきっといつもと違って見えるようになるはずです。以下自分が過去に作った資料からの引用と新しく書いたとこが混ざってるのでですます含む文体がちぐはぐに感じられるかもしれませんがご容赦願います。全部読まなくても見出し見て興味持ったとこだけ読んでもらえれば大丈夫です!ではどうぞ↓↓

地球のただひとつの衛星

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太陽系の惑星は八つありますが、そのうち水星と金星以外の惑星はすべて"衛星"とよばれるおともの星を持っています。衛星とは惑星のまわりをまわっている星のことで、火星には2つ、木星にはなんと70を超える数の衛星が見つかっていますが、地球の衛星は月ひとつだけ。"人工衛星"という言葉もありますが、こちらは人間がロケットで打ち上げた機械です(地球を回る人工衛星は4400個以上もあると言われており、これを含めれば地球は衛星の数で太陽系のチャンピオンになれるかもしれません)。そして月は地球から38万キロメートルという人間からするととてつもなく遠い所にありますが、宇宙の中では地球に最も近いおとなりさんの天体であり、人類が地球以外に足あとをつけた、宇宙でたったひとつの存在です。月は、果てしない宇宙のほんの入口の入口なのです。

満ち欠けのふしぎ

月は毎日形が変わります。三日月から満月になったかと思えばまた小さくなってゆき、29.5日ほどでもとに戻ります。この性質のため、月は世界各地でカレンダーの役割を担ってきました。では、この満ち欠けはなぜ起こるのでしょうか? その答えは月の動きにあります。図のように、太陽光が左から差しているとすると、月の左側だけが照らされて明るくなります。それを真ん中にある地球から見ると、ふきだしの中の写真のように明るい部分が変化して見えるのです。新月からの日数を"月齢"とよび、これを使って月の大きさを表します。

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スーパームーンとは?

普段より月が地球の近くまでやってきて、ちょっとでかい満月になるときに人々がそう騒ぎます。月は上の図のように完全な円を描いて回っているわけではなく、実際にはちょっと楕円な道をゆくために近いときと遠いときができ、距離に応じて見かけの大きさも変わります。地球と月の距離はだいたい38万キロメートルで、近いときは36万キロを切り、遠いときは40万キロを超えるくらいになります。この近いときにたまたま太陽の反対側にいると、ちょっとでかい満月、いわゆるスーパームーン状態になります。まあホントのところ小さい時と比べても一割くらいの差しかないので実はそんなにスーパーじゃないし、目で見てでかいのがわかるレベルかというとまあ怪しいのですが、なんか特別感あっていいですよね。自粛で暇だしとりあえず騒いでおきましょう。ナイスムーン!

海とうさぎとクレーター

満月の表面にぼんやり見えるかたち。日本ではおもちをつくうさぎとよく言いますが、他の文化圏では「ろば」「かに」「女の人の横顔」とか、全く別のものを想像するそうです。では、この模様をつくっている色の濃い部分はなぜできるのでしょうか? この部分は、昔の人が地球の海と同じものだと考えたため今でも"海"と呼ばれています(月は空気も水もない石ころの世界で、水の海はありません)。

もっと詳しく月を調べるためには望遠鏡が必要です。これを使って初めて月の観測を行ったのは、イタリアの学者ガリレオ・ガリレイと言われています。1609年、彼は自作の望遠鏡を月に向け「月は完全な球体である」という当時の常識を打ち破りました。彼は図のようなスケッチを残しています。欠けぎわに見えるでこぼこが月が完全な球体ではない証拠です。欠けぎわは先ほどの満ち欠けの図から分かるようにちょうど太陽の光が真横から当たる部分で、地球で言うと朝方や夕方にあたります。そのため小さなでこぼこが作る影も大きく伸びて強調されて見えるのです。

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ガリレオ・ガリレイ『星界の報告』岩波文庫

望遠鏡での観測によって明らかになったでこぼこは、ガリレオによって"クレーター"と名付けられました。後にこれは、その昔いん石が落ちた時の衝撃によってできたものと分かりました。うさぎを形作っている"海"については、いん石が落ちてできた特に大きな穴を、後に月の中身が噴き出してきて埋めてできたのではないか、と推測されています。クレーターには一つ一つ科学者にちなんだ名前が付けられており、名前が付けられているものだけでも1000個以上あります。なかでもティコ、コペルニクスというクレーターが見つけやすく、"光条"という放射状の白いすじが見えます。このすじの正体は、いん石の衝撃で飛ばされた月の砂(レゴリス)です。レゴリスは時間が経つと風化されて暗くなってしまうので、このクレーターが最近できたものであることも推測できます。静かなる世界に見える月も、実はそんな激動の歴史を持っているのです。
※月の形成はもっとダイナミックだったと考えられています。参考:ジャイアント・インパクト説

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ティコはティコ・ブラーエのことで、ケプラーの法則の人の師匠。コペルニクスは地動説のおじさんです。

人間と月と星空

太陽と月は、世界中に現れたほとんどの文明のなかで天の神様としてまつられています。よくある例としては太陽が生、月が死を司ると言われます(おもしろいことに、暑い地域ではむしろ月が崇拝の対象になり、太陽は生命の敵と見られることもあるようです)。その理由の一つは、やはり明るさにあるのでしょう。人工の明かりにあふれた現代ではなかなか感じ取りにくいものですが、電球が発明される以前は月明かりが夜の生活の中心でした。日本人の先祖たちもお月見が大好きで、各地に様々な風習や歌が伝えられています。ところで月のある夜は、もちろんきれいで良いのですが、一つだけ惜しい点があります。それは、月が明るすぎて暗い星の光がかき消されてしまうという点です。

せっかくなので観望会の時に出したクイズをここにも載せておきましょう。ちょっと考えてからスクロールしてみてください。

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さてどれでしょう。この「明」という文字、改めて眺めてみるとそこはかとなくオシャレですよね。普通に考えると1番と答えたくなるところなのですが、なんと正解は2番なのでした。じゃあ左側の日はなんなの?って話ですが、実はもともとは日ではなく囧(けい)という別の形だったようです。囧は明かりとりのための窓の意です。(以上、手元の『漢字源』で確認)

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つまりこの「明」もとい「朙」のもととなった情景は、実は明るい昼間ではなく月夜の暗い部屋の中だったのです。なんとあはれなあっぱれな。みなさんは目が覚めちゃった夜に窓から差し込む月の光を明るいと思ったことがあるでしょうか。

七夕のお話のからくりの一つに、いわゆる旧暦(日本の昔のこよみ)では七夕の日には必ず上弦の月がのぼり、それがおり姫とひこ星の間に流れる天の川をかき消してくれる、というものがあります。十分に空が暗い場所に住んでいればこのことを実感できるかもしれませんが、都会では月の明るさを意識する瞬間はあまりないでしょうし、そもそも天の川が見えません。これはなぜか? 街の明かりが月と同じように空を照らしてしまっているからです。

星空が消えてゆく? "光害"について

街明かりは私たちの生活にとって便利で不可欠なものですが、近年"光害(こうがい、ひかりがい)"が問題になってきています。これは、適切でない明かりの使用によって安全や景観、周りの環境が悪い影響を受けることをいい、その中には天体観測への悪影響も含まれます。暗い夜空が失われてしまえば、満点の星を楽しむことも星座の物語をつむぐこともできなくなってしまいます。人々の想像力の源であったものが失われてしまうのです。前回の東京オリンピックのころにはまだ東京でも天の川が見えたと聞いたことがあります。このままのペースで街明かりが地球にあふれれば、今都会で見えている星座たちも結べなくなる日が来るかもしれません。星空ファンとしてこの問題に対処するためには、まずこの問題の存在をたくさんの人に知ってもらわねばなりません。みなさんもぜひこのことを周りの人に教えてあげてください。……といっても「星が見たいから明かりを消して」とだけ言ってもなかなか社会は納得してくれません。天文好きだけの問題ではなく、生態系やエネルギー問題、交通安全の問題とも深く関わっているということを理解することも大切です。「光害」とインターネットで検索するとより多くの情報を得ることができます。この文章が、夜空の明るさと星空について考えるきっかけになれば幸いです。

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宇宙から見た夜の日本周辺。非常に美しいが、それだけのエネルギーを宇宙に無駄に放出していることも見て取れる。ちなみに九州の西のほうにある直線は陸地ではなく、おそらくなんたら水域の限界まで漁に出ている漁船によるもの。

※光害についてもっと知りたい方はぜひ国際ダークスカイ協会東京支部のページをご覧ください。国際ダークスカイ協会、名前かっこよすぎか。


ちょっと長かったかな。こんな感じで他の宇宙的話題も紹介できればと思ってますので、おもしろかったらぜひ何かしら反応してやってください。コロナといえば太陽なのですがそのネタはあまりもってないです。

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