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2023年トルコ・シリア地震情報まとめ

トルコ・シリア地震とは?

 2023年2月6日、トルコ共和国南東部にあるガズィアンテプ付近を震源として、現地時間4時17分(日本時間10時17分)にマグニチュード7.8の地震が発生しました。その9時間後、現地時間13時24分(日本時間19時24分)に、その約120kmほど北東部に位置するカフラマンマラシュ付近でマグニチュード7.5の地震が発生したものです。被害に遭われた方にお悔やみを申し上げるとともに、ご家族や被災された方の一日も早い再建をお祈り致します。

 現地付近は複雑に「プレート」が接する地域です。南からはアラビアプレートが北上、西側の地中海でもアフリカプレートが北上し、北にあるユーラシアプレートに衝突する地域です。それらの間には、トルコ北部を東西に横断する北アナトニア断層、またトルコ・シリア国境の地中海側から北東に延びる東アナトニア断層がV字型に接しています。

 V字の西側はアナトニアプレート(小規模のためアナトニアブロックともいう)に接して、これは西側に動いています。さらに西側のエーゲ海側を、エーゲ海プレートとして分ける意見もあります。

 日本とは接し方のパターンが異なりますが、同様にプレートが複数接している地域と言えます。今回の地震は、このうち東アナトニア断層南部の地中海寄りで発生した地震であるということができます。

 地震の震源域が非常に長い(広い)範囲であることも特徴です。震源域の地図(USGS.より)に同じ縮尺の日本を重ねてみました。数百㎞に及ぶ震源域の長さであり、愛知県から群馬県くらいまでの範囲が震源域となっています。しかも、内陸ということで、明治以降で国内最大規模の内陸直下型地震である濃尾地震(M8.0)を思い起こさせる規模です。


内陸直下で起きた巨大な地震

 トルコ・シリア地震の特徴としては、内陸直下で起きた震源が浅い地震であり、立て続けに2回の巨大な地震があったことです。数多くの余震も発生しています。現地の建物の耐震性能の課題もあるとみられますが、非常に多くの建物が崩壊し、多くの方が巻き添えになったものとみられます。

 被害の全容が明らかになるとともに、今後も被害は拡大することが想定され、非常に痛ましい限りです。さらに、悪いことに雪が降る寒い時期の地震であったことから、地震から生存できても、その後に命を落としてしまう方(災害関連死)も懸念されます。

 さらに、時間経過とともに地震の発生域をプロットしていた方のアニメーションでは、最初のM7.8の地震以降は震源域の南西側、東アナトニア断層の主部とみられる付近で余震が頻発していました。M7.5の地震以降は、北側の異なる活断層沿いで余震が起こるような傾向があることがわかります。

 内陸直下で発生した大地震では、地表に断層が出現することがあります。現地では、既に大規模な断層が地表に現れていることが報告されています。この写真では、約3mの左横ずれ(断層に向かって立って、断層の向こう側が左側にずれている)がみられることから、「左横ずれ断層」であることがわかります。

 2016年4月に発生し、震度7を観測した熊本地震(本震の気象庁マグニチュード7.3)も横ずれ断層が表れていますが、断層の向こう側が右側にずれている「右横ずれ断層」であることがわかります。

熊本地震で地表に現れた活断層

※東アナトニア断層は、プレートの境界(日本のような沈み込む境界ではなく、横ずれ型で接する違い)でもあり、プレートの運動そのものが直接内陸直下の地震となったということができます。

現地のハザードマップと一致

 トルコ災害緊急事態対策庁が2018年に改定した地震ハザードマップがあります。トルコ西部と、北部の北アナトニア断層沿い、また東アナトニア断層沿いで色が赤いことがわかります。拡大しても地図の凡例が読み取れませんが、地震リスクが高いエリアを示しているものと推測されます。

 地震のあった震源域(USGSによる)と、トルコの地震ハザードマップを重ね合わせてみると、ハザードマップで赤い地域において地震が多く発生していることがわかります。今回のまったく未知の地震であったということではなく、活断層の位置と地震リスクが事前に知られており、マップに示されていたということがいえるでしょうか。

  なお、日本では「J-SHIS 地震ハザードステーション」で、日本全国の地震に関するマップを閲覧することができます。とくに、30年以内に震度6強以上の揺れに見舞われる確率、を表示して赤系の色が濃い地点は、地震が起きやすい場所で地震の時に揺れが大きくなりやすい地盤の地域と言えます。

 日本は全国地震に対する備えが必要であるといえますが、大きな地震のゆれに見舞われる可能性が高い地域では、一層地震対策を優先し、また家屋の倒壊などを防ぐことが必要であるといえます。

そのほかの被害

 地中海沿岸のハタイ県最大の都市イスケンデルンでは、沿岸部に海水が侵入していること報じられています。海水位が一定であるとすると、地盤の広域的な沈降があり、浸水したことが考えやすいと思われます。今後の情報を待ちたいところです。



数多くのデマが出現

 地震や大災害発生後のデマは、古くは100年前の関東大地震でも発生しており、近年でも熊本地震ではライオンが逃げ出した、北海道胆振東部地震では自衛隊の情報で何時くらいに大きな地震があるというもので、近年では、SNSによるデマの流布が課題になっています。昨年も、静岡県で豪雨による被害の大きかった2022年台風15号ではAIで生成された大洪水の画像がアップされるなど、新たな形でのデマが発生しているといえます。

 トルコ・シリア地震でも、残念ながら複数のデマが目撃されています。ひどいものでは、Twitterで東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)の津波が沿岸部を襲う動画などが今回の地震による津波としてアップされているケースがありました。関係ないビルの解体動画を地震による倒壊としてアップしている事例もありました。いずれも、コメントや引用RTで他の人が否定されていました。

 このほか、以前にトルコ西部で変わった形の雲が出ていたので地震雲ではないか?など、お約束ともいえるデマが流布されています。地震時に発生しやすい迷信については、以下のコラムでもまとめています。


 善かれと思って誤った情報を拡散すると、デマの片棒を担いでしまうこともありえます。誰が投稿しているのか?公的機関などの発表した裏付けはあるか、確認しましょう。公的機関が、場所と日時、規模を想定した情報を出すことは一般的にはありません

2月9日以降の情報(追記)

 この速報は日本時間で2月8日中の情報に得られて作成していますが、その後の情報を追記します。
 2月9日、6:36にアップされた動画では、イスケンデルンの港湾部で港湾火災があり、消化されている動画で、港湾部の舗装のひび割れに付近に高まりがあり、砂利などが転がっている様子がみられます。水をせき止めているものが砂である場合などは、液状化噴砂である可能性も考えられます。

2月9日確認のシリアTVで掲載されていた動画で(下記リンク先3番目の動画)で、SNS情報として典型的な液状化とみられる状況がアップされておりました。列状に分布する噴砂、噴出孔がならぶ様子は、国内各地の地震被災地でみられる液状化噴砂とよく類似しています。

オリジナル動画は下記。ウェブ上で翻訳すると、シリア北部のハレムの西にある「アル タルール」村での奇妙な現象として挙げられています。

2月10日 午前7時4分の投稿
 建物(集合住宅?)が転倒している様子が見られました。近づいた部分で見ると直接基礎であるようで、基礎底面が露出しています。基礎があった部分には水が溜まっており、地下水位が浅いまたは水が滞留している状況にあるとみられます。その周囲ははっきりしませんが、色調などから砂地盤のようにみられます。
 国内では1964年の新潟地震の液状化で集合住宅の転倒がありました。周囲に噴砂や水の噴出の明瞭な跡は見いだせませんでしたが、手前側のマンホールが突出しており(抜けあがり現象に近い)、周囲が沈み込んでいるように見えます。これが今回の地震に関連しているようでしたら、液状化に関係する可能性も疑われます。

日本に住む私たちはどうすればよいのか?

 トルコも地震が多い国ですが、日本も世界的にみて非常に地震が多い国です。トルコの地震は、決して対岸の火事ではなく、より大きな規模の地震も発生しています。プレートが沈み込む海溝付近で巨大な地震が起きる日本では津波や、日本の住まいに特有の木造住宅の倒壊、火災という被害も日本の地震被害の特徴です。

 ただし、過度に不安になる必要はないと思われますので、日々の生活をしつつ、必要な備えがについて可能なことから見直し、また実施する機会になればと思います。

 十分な耐震性のある住宅に住み、家具の固定や転倒防止を進める、備蓄品を備えておくなどハード面の対策のほか、家庭で緊急地震速報が鳴ったらどう行動するか、いざという時の連絡手段や避難滝などについて話しておくソフト面での対策も、両輪で行っておくことが望ましいと考えます。

               2023.2.8 地盤災害ドクター 横山芳春


※ご注意:この記事は、2023年2月8日までに横山芳春個人が得た情報でとりまとめたものです。この後、新たな知見や事実などが判明していくことが想定されます。予告なく内容の修正、追記等を行う場合があります。

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 さすがにおいそれと現地に行ける距離ではないですが、現地にコネクションがある方、専門家の現地派遣に関心がある方などは是非お声がけ下さい。

 また、気軽に意見を聞ける専門家のツテがない方もご相談ください。地質学を専門とする博士(理学)の研究者として、国の研究機関などで地形・地質の第一線の研究を行ってきており、活断層や津波履歴の研究などにも参加しています。

 これまで、胆振東部地震は現地で出先で被災したまま調査、熊本地震は本震当日、山形県沖の地震などは翌朝には現地入りし、メディア対応、現地調査などを行っています。詳しくは下記もご参照ください。

参考資料

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研究経歴(研究者としての論文・学会発表、特許等)


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