2018年9月6日に発生した北海道胆振東部地震 現地調査速報

2018年9月8日
※メディア向け報告書(一部日経XTech記事化)をnoteに転記したもの
横山 芳春 博士(理学)

 ①地震と被害の概要
 2018年9月6日3時8分に、北海道胆振地方中東部を震源とする、胆振東部地震(Mj6.7)が発生しました。被害にあわれた方々には心よりお見舞いを申し上げます。
 本報告の著者である横山芳春は、9月6日は千歳市内のホテルで宿泊中に地震に見舞われました。地震発生を受けてすぐにレンタカーを確保して現地被害調査を試みました。調査道具などは持参しておらず、調査は目視中心で著者1名にて行いました。6日は千歳市から安平町、札幌市北区、東区、清田区の調査を行い、7日は苫小牧市、厚真町から、再度札幌市清田区の調査を行い、合間にメディア対応などを行いながら調査を実施しました。

 札幌市清田区付近では、「液状化」とされる家屋の沈下や路面の陥没等の被害が発生しておりました。清田区の地質は、台地を構成する第四紀の火山砕屑物を中心としており、谷あいの谷底低地や斜面を含む多くが造成されて住宅地となっています。清田区美しが丘2条で路面の陥没やがけ際の作業場の斜面側への傾斜被害や道路の陥没、空洞化がみられました。

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 里塚1条月寒通の国道36号線沿いでは、路面の湾曲や店舗の基礎抜けあがり、斜面崩落により車が落下する被害がみられました。

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 美しが丘では、液状化(または液状化に加えて路面への水道管破裂等)の影響かとも考えられる、砂と水の流出がみられました。

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 清田区里塚1条1丁目付近では、多くの報道等で紹介された「液状化」の被害がみられ、集中的な調査を行いました。その結果、限られた箇所において集中的な住宅の沈下や陥没がみられました。過去の地図情報と照合すると、従来谷であった地点を埋めたと考えられる地点で被害が集中していました。かつ、谷の上流側では谷の中心地ないし下流側へ向けた住宅の沈下や道路の陥没等、また下流側では大量の土砂が流出することが見受けられたので、調査結果について報告いたします。

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②清田区里塚1条1丁目「液状化」被害の特徴について
 里塚における、目視による建物の沈下方向(赤矢印)と、路面などの陥没・沈下方向(緑矢印)の被害状況に、かつて存在した谷の位置を図示すると、家屋・路面の被害は、青色および茶色で示した、かつての谷の中心側ないし、谷の下流側(北東側)に向いていることがわかります。
 また、黄色で示した砂の堆積範囲は顕著な被害を受けている地点より谷の下流側に目立っており、上流部の地表面下の土砂が流動化、大量の水とともに路面の大きな陥没孔から下流側に流出し、下流部に流れ下って堆積した可能性が考えられます。大量の水の供給には、大雨の影響のほか近隣で見られたものと同様な、水道管破損による影響がある可能性も考えられます。
 平野や埋め立て地で発生した液状化と異なり、斜面の谷あいにある造成地で発生したことから、局所的に激しい被害が生じたことが想定されます。また、折からの台風による大雨の雨水が谷に集約し、地下水位の上昇を促進したことで、甚大な液状化が発生しやすかった条件があった可能性も示唆されます。

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「液状化」により流出した土砂について
 今回の「液状化」による被害の特徴は、噴出した土砂が直上地盤面に丘状に噴出する「噴砂丘」をつくらず、谷の下流側に流れ込んだことです。かなりの水分を含んだ土砂が流出し、草の上を流れ下った跡や、低いところに流れ込んで停止した様子が至る所で見受けられました。物流会社の駐車場では、取材スタッフの救出に半日以上を要したという様子もみられました(左上)。
 土砂は水分が多く下流側まで流れ下った地点ではやや水分と泥分が多く、上流側ではやや砂分が多い傾向もありました。火山灰混じりで水分が抜けると固く固結するようで、早期に撤去できた路上以外では、復旧の妨げとなることも考えられます。

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 ③「液状化」被害地点の土地変遷履歴
 古地図(旧版地形図)および航空写真から、火山砕屑物からなる台地の広がる当地付近には、かつて細長い谷地形が存在したことが読み取れます。
 1936年の旧版地形図から読み取れる谷を茶色で示す。田のみられる谷が、北東から南西側に伸びていることがわかり、1974-78年の航空写真では谷に水田とみられる方形の区画が見え、その範囲を青色で着色しました。1984-86年の航空写真では谷が造成され、現在とほぼ同様の区画整理がなされ、多くの住宅が建て始められていることがわかります。
 日本では、同様な台地沿いの谷を埋めた造成地は各地に存在します。このような旧版地形図、航空写真などで土地の成り立ちを確認することが望ましいと考えられます。
 

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④まとめと解説
 液状化は、緩い砂の地盤で、地下にある地下水の水位が高く(地表近くに)にある場所で、強い地震が起こると発生することがある。埋め立て地や旧河道などで多く発生しますが、谷を埋めた造成地では、造成条件によっては緩い砂が存在することがあります。
 谷だった場所の造成地は水が集まりやすい場所ですが、殊に台風21号により、9月5日夜の札幌の天気は暴風雨、1日の降水量が35mmに達する雨(気象庁HPを確認)により、さらに水は集まっており、造成地の地下水位は非常に上昇していた可能性も考えられます。
 そこに震度5強とされる大地震が発生しました。近隣では水道管等の破損による漏水とみられる現象も発生しており、地盤変状があった地点から下流側に多量の砂と水の流出がみられることから、当地においても同様の事象が発生することで、大量の水が地盤中にもたらされた可能性も考えられます。

 土砂と水の混合物が、建物・路面の被害があった地点から下流方向に流動・流下、下流側の道路面の破孔から水と土砂が一挙に流出し、上流側では家屋の基礎部分にある土砂が失われることで、家屋も谷側に沈下するなどの被害が生じたことが示唆されます。
 札幌市による情報では、「大規模盛土造成地マップ」では対象外となっていたが、液状化危険度図では「液状化の可能性が高い」または「液状化の可能性がある」とされており、適切な注意喚起と考えられる一方、大規模盛土マップでは、盛土造成地としての区分はなされておりませんでした。

 安心・安全な土地選びや住宅づくりについては、ハザードマップ閲覧に加え、過去の地形図や航空写真で土地利用履歴を確認し、リスクのある谷埋め盛土地や、旧池沼、水田地帯などの土地については十分に注意し、個別の宅地建築においては適切な地耐力、液状化、地盤の揺れやすさ等の調査をもとに、地盤や建築の専門家と相談することが望ましいと考えます。

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 ※この報告書は、2018年9月6日、7日に横山芳春が実施した調査によるものであり、家屋や路面の被害等の調査結果、またそれに基づく結果は速報としての概略です。とくにプロットした位置や沈下などの方向は目安となるものです。今後詳しい専門家陣の調査により、詳細が明らかになるものと考えます。また、このレポートの見解は速報の性格上、地質学を専門とする横山芳春個人の現時点での解釈である点、ご了承ください。

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