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【連載】服部半蔵 天地造化(4)第一巻 神託編 八章、九章

第八章 恋

   一

 現将軍の足利義晴はまだ十代の若さである。管領、細川高国が実権を握り、政を行なっているものの、長年、世は定まらず、室町幕府の支配は揺らいでいた。
 この時代、諸国を治めるのは幕府が任命した守護大名だ。しかし、その力は充分に行き届いていない。大名などの高貴な武家は、都で将軍に仕えることもあり、公家や寺社衆との付き合いにも忙しい。そのため領国の統治は、守護代などと呼ばれる重臣に任せる場合もあった。
 代わりの重臣が実質、国を支配する形が続くと、彼らが大名のようになり始める。この守護代が力を持ち過ぎるのは脅威だ。とはいえ、弱過ぎても困る。土地土地に多数いる豪族達が武威を示し、相争って国が乱れるのだ。
 こうした危うさを嫌う守護大名は、自ら領国に腰を落ち着け、支配を固めた。言い換えれば、幕府を軽んじ、将軍や都のことは放置する傾向が出始めるということだ。国主として半ば独立し、新しい国づくりを行なう大名も現れた。
 様々な理由で、幕府は権威も武力も失ってきた。遠国に目が届かないのは致し方ないが、畿内でも、皆が足利将軍家に従うわけではない。幕府の意向に忠実な武将は限られており、安定している国など稀だ。
 そもそも幕府が、将軍の護衛を行なうだけで精一杯の情勢である。狭い都も守れるか否かの瀬戸際で戦う中、諸大名の統制にまで、とても手が回らない。

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