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正解

「だからさ?正解ってなんなのよ?誰の正解?私の?理の?」

彼女は相当怒っているように見える。
見えるだけなのか本当に怒っているのかその答えがわからない。
そもそも怒るってなんなのか人に腹を立てたことがない俺にわかるわけがない。
それに、本当なんてわかり得ないだろ。本当を何で測るんだよ!

少し腹がたったことに気付く。

元子の赤に染められた髪がなびいて、彼女は玄関から飛び出して行った。

彼女の名前は元子。
元気な子どもと書いて、もとこ。
彼女の母は病気がちだったらしく、せめて娘は元気に育ってほしいと、父からの願いが込められている、と付き合いたてのころに元子は話した。

元子はその名の通りいつも元気だった。
屈託のない笑顔、が言葉だけではなく現実に存在するなら、正に元子は屈託のない笑顔の持ち主だった。
彼女の笑顔に救われた人間はおそらく俺だけじゃないだろう。
統計をとっていないから本当のところはわからないが、多分そうなのだろうと思う。
もしもそうだったら、その時はじめて、嫉妬?という感情を覚えた。
だけど、正解はわからないだろ、答え合わせができないんだから。

俺の名前は、おさむ。
興味が湧くのは物事の筋道だ。
道理や理屈や整理されたものが好きだ。
そんな俺にとっての真実を初めてぶち壊してきたのが、元子だ。

彼女の口癖は、「そんなのわかんなーい」だった。
小難しく考えるのが好きな俺にとって、彼女は邪魔ものであり実は新鮮に思っている自分も居た。
彼女と出会ったとき、俺は人生の選択肢の狭間で揺れ動いていた。
いや、正確には自分の答えは決まっていた。
それなのに今の俺は、自分の答えではない道を歩んでいる。
それもこれも、元子に出会ったせい。
元子はどちらの選択をしても変わらなかっただろう。
変わったのは俺だ。人の意見をこれまで聞いてこなかった俺の人生に風穴を開けてきやがったのはあいつだ。
それまでの俺の人生の周りにいる人間は、俺と同じ考えの人種ばかりだったから、何の不自由も感じたことがなかった。

あいつのせいだ。元子のせい。

元子、俺をよくも変えてくれたな、俺は変わったんだぜ

元子、元子に出会ってから俺は、心が踊ることを知ったんだぜ

元子、俺の正解は、元子の笑顔なんだぜ

元子、俺は元子のおかげで、、

人の感情は厄介だ。知らなければ良かった、

知ってしまった




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