01_邂逅01後_ヘッダ

神影鎧装レツオウガ 第一話 【後編】

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Chapter01 邂逅 01 【後編】

 みし、と震える空気。
 たったそれだけで、世界は影色に沈んだ。
「……なに、これ」
 つぶやく風葉。
 一直線の廊下。朝日が差し込む窓。向かいに見える北校舎。並んでいる教室の扉。歩いて来る担任の先生方、等々。
 風葉の目に映っている全てのモノから、精彩が失われていた。
 比喩ではない。本当に、あらゆる色が、薄墨色のベールの向こうにあるのだ。
 まるでフィルターでもかけられているかのような日乃栄高校は、しかしまったく変わらない日常を過ごしている。現に今も、先生方が各々の教室へ入っていくところだ。
 きっとこれからいつもと同じ朝のホームルームが始まるのだろう。視界を埋め尽くす薄墨色の存在に、少しも気付くこと無く。
「なんなの、これ」
 もう一度つぶやいて、風葉は自分の声の大きさにぞっとした。
 今四つあるはずの風葉の耳には、今まで当たり前にあったざわめきが、少しも届かないのだ。
 喧騒は、確かにそこにあったはずなのに。
 まるで、全てが幻だったかのようだ。
 だが、どちらが? こっちか? それとも向こうか? そもそもなぜこうなった? それに辰巳はどうしている――?
「そ、そうだ! 五辻くん!?」
 脳裏を過ぎる不安が、風葉を弾かれたように振り向かせる。
「千客万来だな、今日は。てか次の客はどこだよ?」
 だが風葉の予想に反し、辰巳はまったく精彩を失っていなかった。薄墨に溶けない髪をかきながら、辰巳はすたすたと窓際に歩み寄っている。
 だったら、と思った風葉も制服を見下ろす。やはり、風葉の身体もフィルターがかかっていない。
 少しだけホッとする風葉。だが、状況はまったく変わっていない。
「ちょ、ちょっと五辻くん!? 聞きたいことが――」
 そうして一歩踏み出しかけた矢先、風葉の前に白髪頭の先生が現れた。奇しくも二年二組の担任である温井《ぬくい》先生だ。
 年々増して来る腹の丸みを隠しもしない温井先生は、プリントの束を脇に抱えながらすたすたと歩く。まるで、風葉が見えていないかのように。
「わ、わ、ちょっと待って先生!?」
 避け切れず、思わず先生の肩に手を伸ばす風葉。
 そうして肩を叩こうとした手は、しかし何の感触も残さずにすり抜けた。頭の犬耳と同じように。
「え、えぇっ!?」
 足を止め、自分の手と先生を交互に見つめる風葉。だが、変わった様子はどちらにもない。
 途方に暮れる風葉だったが、状況はそんな彼女に構うこと無く加速しはじめる。
「やれやれ、ここかよ。参ったな」
 耳に飛び込む辰巳のぼやき。その刺激で我に返った風葉は、現状で唯一意思疎通ができる相手のそばへと急いで駆け寄る。
「ねぇ五辻くん! これって――!?」
 かくして視界に飛び込んで来た窓の外、北校舎に挟まれた物置を見下ろす中庭に、風葉は今度こそ言葉を失った。
 光の柱が、一直線に立ち上っていたのだ。
 噴出元は中庭にある物置、打ち出しコンクリートの素っ気ない屋根の真ん中。
 白から赤、赤から緑と、目まぐるしく変わり続ける光柱。一秒ごとにじわじわと直径を広げていくその様は、さながら虹色の万華鏡だ。
 一メートル。三メートル。五メートル。物置そのものを飲み込みながらもなお拡大する光の柱は、やがて根本にいた誰かの姿を照らし出す。
 物置の影から現れた誰かは、やはり辰巳達と同様に薄墨のフィルターがかかっていない。
 距離が遠い上、光柱の逆光が強いせいでよく分からないが、線の細さから女性らしいことは見て取れた。それも若い。
 ひょっとすると二人と同じ学生なのかもしれないが、なぜか彼女は制服ではなくジャージを着ていた。
 小豆色で、胸元のファスナーが上がり切らないジャージを。
「……え、えっ!?」
 思わず窓枠に張り付き、中庭を注視する風葉。
 その視線を感じたのか、彼女もまた南校舎を見上げる。
 目が、合った。
 今朝方、洗面所で別れた時のままの格好をしている友人と。
「いず、み」
 呆然とつぶやく風葉。
 それが聞こえたのか、聞こえなかったのか。光柱の前に立つ泉は、風葉を見つめながらにたりと笑う。
 いつもからは到底考えられない、粘着くような愉悦がそこにあった。
「う、そ。あれは――」
 反射的に後ずさる風葉。
 そんな風葉と入れ替わるように、辰巳は中庭の泉を見下ろす。
「友達かい?」
「そう、なん、だけど」
 確かに、泉のはずなのに。
 泉では、ない。絶対に違う。
 根拠はない、けれども間違いなく断定できる違和感に、頭を抱える風葉。
 その混乱を、当の泉が悪意とともに助長させる。
「さぁて、小手調べといってみましょうか?」
 相変わらずタールのような笑みを浮かべながら、泉は不意に指を鳴らした。
 ぱきり。
 不自然なくらいに響き渡るその音は、彼女の背後で立ち上る光柱に波紋を生む。
 波紋は波となり、するすると光柱を登って行き、風葉達がいる窓の正面で停止する。
「こ、今度はなに?」
 身構える風葉の眼前で、波は風船のように膨れ上がり、窓に触れる。
 そして、そのまますり抜けた。
 音を立てず、何も壊さず、さながら幽霊のように。
「な、何で!? 窓開いてないのに!?」
「そりゃ幻燈結界《げんとうけっかい》が動いてるからな。それよりも、もっと下がってくれ」
 言いつつ、風葉をかばうように前へ出る辰巳。その横顔は、近付くだけで肌を切りそうな鋭さをたたえている。
 まるで、別人だ。
「う、ん」
 聞きたいことはまだまだ山盛りだが、思わず後ろに下がる風葉。
 そうする合間にも伸び続けていた光の塊は、既に天井を突くまでに膨れ上がっていた。辛うじて廊下の向こう側が透けて見えるが、通れそうな隙間はどこにもない。もはや壁だ。
 そんな虹色の壁の向こうから、異形が姿を現した。
 びぢゃり、と水音に似た異音が響く。三本ヅメの生えている緑色の右足が、廊下へと踏み出したのだ。
 次に出たのは、ひょろりと前方に突き出た細長い緑色の顔。口は大きく裂けており、赤い眼が無機質に二人を捉えている。
 どう見ても人間ではない。トカゲ、としか言いようのない異形の頭を晒す怪物どもは、虹色の向こう側から当たり前のように歩いて来る。
 一匹。二匹。三匹。四匹。横に並びながらじりじりと近付いて来るトカゲ人間達は、全員が鎧と剣で武装している。
 そして、明らかにこちらを狙っている。
「は、は」
 たまらず、風葉は乾いた笑いをこぼした。
 無理もあるまい。モノクロに塗り込められた日常の中を、極彩色の非常識が、敵意というオマケ付きで歩いて来るとあれば。
 思わず頭を押さえ、下を向いてしまう風葉。
 その萎縮を、先頭のトカゲ人間は見逃さない。
「GRAAAAAAAッ!」
「ひぁあう!?」
 世に存在するどんな人語とも違う咆哮に、身を竦ませてしまう風葉。そうして足が止まった隙を突き、トカゲ人間は突貫する。
 振り上げられる長剣。虹色を反射して怪しく輝くその刃は、明らかに風葉を狙っている。
「ち、ぃ」
 そんな風葉を庇う辰巳は、刃を迎え撃つように左手を振り上げた。
 直後、大上段から振り下ろされる長剣。
 辰巳の左掌を目がけるトカゲ人間の刃は、斬、という肉を裂く音を、立てなかった。
 代わりに響き渡ったのは、がぎり、という鉄と鉄の咬み合う音だ。
「GA!?」
 明らかにおかしな音と手応えに、すぐさまバックステップで間合いを取るトカゲ人間。仲間達も同様に足を止めた。
 そして今度は辰巳へ注意を向けながら、トカゲ人間は仲間と共に自分の剣を検分する。
 ほんの少しだが、刀身の先が欠けていた。辰巳の左手とぶつかった箇所だ。
 対する辰巳も、顔をしかめながら左掌を見下ろす。
「い、五辻くん!? 大丈夫なの!?」
 おずおずと近づいた風葉は、肩越しに辰巳の手を覗きこみ、絶句した。
 辰巳の左掌は、確かに切れていた。人差し指の根本から斜めに走る傷が、掌を一直線に横断している。
 だが、それだけだ。骨は断たれていない。血もまったく流れていない。
 ただ銀色の鋼が、傷口から顔を見せていただけだ。
「いつつじ、くん。それ、って」
「ん、ああ。リザードマンだな。RPGとかでよく出てくるだろ?」
「いや、あのトカゲ人間達の名前じゃなくて。そりゃそっちも気になるけどさ」
 思わずツッコミを返した後、風葉は改めて辰巳の左手を見る。
「その。五辻くんの、手が……」
「ああ、そういや言ってなかったっけ。俺、実は改造人間なんだ。主に左腕が」
「嘘!?」
「うんうん。嘘だと良かったんだけどなホント」
 しれりととんでもないことを言いつつ、辰巳は左腕を突き出す。
「ま、とりあえず着替えるから下がっといて」
 言いつつ、辰巳は左袖を軽くまくる。
 トカゲ人間――もとい、リザードマン達へ宣戦布告するかのごとく、まっすぐに突き出される手刀。手首には、鍔のようにごつい腕時計が輝いている。
 色は銀。傷口から見えた色も同じだったような――と訝しむ風葉を背に、辰巳は肘を基点に左腕を翻し、握った拳を天井へと向ける。
 丁度リザードマン達の方へ文字盤を向ける腕時計。辰巳はその文字盤に手をかけ、下方へスライドさせる。
 カシン、と響く鉄の音。
 中から現れたのは、青い光をたたえる小さな石。
 直径三センチほどだろうか。宝石のように透き通ったその青が、煌々とした光を灯す。
 淡い、けれども確かな存在感を発するその青色に、先頭のリザードマンはいきなり吼えた。
「GAッ!? GARAAAAAA!!」
 見開かれた赤い瞳に何故か驚愕をたたえながら、リザードマン達は辰巳へ向けて走り出した。
「い、五辻くん!?」
「心配ないさ」
 ぼそりと。
 振り向きもせず、吐き捨てるようにつぶやく辰巳。
「これが俺の、存在意義だからな」
 ため息よりも小さい、どこか悲しげな独白。
 それは一体どういう意味なのかを、しかし考えている暇はなかった。
 予想だにしない響きが、風葉の疑問を消し飛ばしたからだ。
 それは――
「セット、プロテクター」
『Roger Get Set Ready』
 ――辰巳の腕時計が立てた電子音声であった。
「なんか喋った!?」
 あるシステムの起動を知らせる、唐突かつ流暢な発音の英語に、思わずツッコむ風葉。
 それを背中で聞き流しながら、辰巳は叫ぶ。
「ファントム4! 鎧装展開《がいそうてんかい》ッ!」
 瞬間、光が走った。
 辰巳の左手首に隠れていた青石が、強烈な輝きを閃かせたのだ。
「きゃっ!?」
「GRAッ!?」
 外の光柱とはまったく異なる、ひたすら強い青色の奔流が、一面に叩きつける。
 反射的に目を閉じ、あるいは顔を背けるリザードマン達。
 唯一辰巳の影がかぶったおかげで閃光が和らいだ風葉は、細めた視界にその光景を見た。
 左手首の青石から伸びる光の線が、機械の回路のように分岐しながら、辰巳の服の上を走っていくのを。
 そして、風葉に見えたのはそこまでだ。
 爆発的に勢いを増す光の噴出に耐えかね、さすがに目を閉じる風葉。
 目蓋の裏でさえ強烈な残光を刻む青色は、しかし数秒で唐突に途切れた。
 念のため手でひさしを作りつつ、おずおずと目を開ける風葉。
「GRAA……!!」
 丁度同じタイミングで唸りを上げるリザードマン達。低くくぐもるその声は、明らかに何かを警戒している。
 けど、何を――と、思う暇もなく風葉はそれを見た。
 真正面。それまで日乃栄高校の指定制服だった辰巳の服装が、まったく別のものに置き換わっているのを。
 身体の筋肉を浮き彫りにするボディスーツ。身体各所を守るプロテクターとヘッドギア。腕と足の上を一直線に走る青いライン。武骨な装甲に覆われたため、一回り巨大になって見える鋼の左腕。
 特に銀色の左腕は、装甲の隙間から何かの機械部品を覗かせており、先ほどの改造人間宣言を裏打ちしている。
 そうした異様な服装を、さも当然のごとく着こなしている辰巳に、風葉は目を丸めた。
「なんか変わってる!?」
 更にツッコんだ。だが対する辰巳は振り返りもせず、ただ淡々と言い放つ。
「ファントム4、着装完了」
 組んでいた両腕を解き、半歩踏み出しながら辰巳は構えた。
 黒と銀。二色の拳を、辰巳は正面のリザードマン達へ向ける。
「さぁて、来て見ろ禍《まがつ》ども」
 今までのトボけた雰囲気を一変させる、硬く鋭い宣告。それを敵性と判断したリザードマン達は、一斉に辰巳へと襲いかかった。
「GRAAAAAA!!」
 まずは先頭のリザードマンによる、力任せの大上段。構えも何もないシンプルな一撃を、辰巳は踏み込みつつ左の鉄拳で迎撃。
「しッ!」
 肉を打つ鈍い音。同時に、振り下ろされていた筈の片手剣が宙を舞う。カウンターで突き出した辰巳の鉄拳が、リザードマンの手首を打ち据えたのだ。
「GRA!?」
 したたかな打撃に片手剣を弾き飛ばされ、たたらを踏むリザードマン。その眼前へ落下して来た片手剣ごと、辰巳は右掌底を叩き込む。
「もひとつ!」
「GAAA!?」
 図ったように柄尻を捉えていた掌底は、即席の槍となってリザードマンの喉笛を突き抜いた。
 後ろに吹き飛ぶリザードマン。だがその身体が廊下へ落ちるよりも先に、左右から別の二匹が辰巳へと襲いかかった。
「GRAAAAッ!」
 やられた仲間を迂回しつつ、同時に斬撃を繰り出す二匹のリザードマン。
 振り下ろし、水平斬り。十字に交差する白刃を、辰巳はバックステップで回避。
 対するリザードマン達は返す刀で更なる連撃を狙うが、辰巳はそれに先んじてしゃがみ込み、床に手を突く。
 頭上で刃が空を切る音を聞きながら、身体ごと回転して足払いを放つ辰巳。左のリザードマンが大きく飛び退いてそれを回避し、右のリザードマンには間合いが遠くて当たらない。だがそれで十分だ。
 左が離れた隙を突き、辰巳は立ち上がりながら右のリザードマンに拳を叩き込んだ。
「はあッ!」
「GRA!?」
 顎を力点に脳を揺らされ、がくりと膝をつく右のリザードマン。そんな同胞を救うべく、左のトカゲ頭が辰巳目がけて再び踏み込む。
「GRAAAAAA!!」
 唸り声とともに振り回される片手剣が、縦、横、斜めに孤を描く。
 対する辰巳は眉一つ動かすことなく刃の腹を払い、逸らし、打ち据えながら徐々に踏み込む。
 そしてリザードマンの手首を捉え、密着状態に持ち込む。
「GRRA!?」
「遅いっ!」
 振り払おうとするリザードマンの姿勢を難なく崩し、辰巳はその巨体を投げ飛ばす。
 大外刈りである。
「奮ッ!」
「GAAA!?」
 気絶していた同胞へ叩き付けられ、まとめて転がっていく二匹のリザードマン。残った最後の一匹は、背後にある虹の壁に、何故か手招きをしていた。
「GRA! GRAッ!」
 人語ではないその呼び声に応え、更なるリザードマン達がびぢゃり、びぢゃりと日乃栄高校の廊下を踏む。
 二匹、四匹、六匹。まだまだ出て来る。
「雁首揃えてゾロゾロと……転校手続きくらいして欲しいもんだな」
 ぼやきつつ、辰巳は左手首の腕時計を口元に寄せる。
 そして、告げた。
「セット。モード・ヴォルテック」
『Roger Vortek Buster Ready』
 辰巳の指令に応じ、腕時計が更なるシステムを起動させる。
 両手足に刻まれた青いラインがにわかに輝き、左拳へと収束。手首から先をすっぽりと覆う青い光が、竜巻のような渦を巻き始める。
 同時に、リザードマン達もまた更なる突撃を敢行した。
「GRAAAAAAAッッッ!!」
 廊下を埋め尽くすほどの横隊を組んだリザードマンの群れが、たった一人の辰巳目がけて一直線に迫って来る。
 もはや緑色の津波と化した密集陣形に対し、辰巳もまた正面突撃で迎え撃った。
 目指すは先頭を走っている、虹色の壁から仲間を呼び出した、あのリザードマンだ。
「GRAAAAッ!」
 辰巳を捉え、振り上げられる剣。だがその刃が空を切るよりも先に、辰巳は間合いを詰めていた。
「遅いっ!」
 叩き込まれる鉄拳。骨を鎧ごと折り砕かれたリザードマンは、しかし苦悶に喘ぐことすらなく消滅した。
「ヴォルテックッ! バスターッ!」
 烈風が、突き抜けたからだ。
 叩きこまれた辰巳の鉄拳。それを包み込んでいた青色のエネルギーが、巨大な竜巻となって前方の全てを揉み潰したのだ。
 断末魔を上げることすら許さないその青は、尚も勢いを止めること無く廊下を直進し、光柱から伸びていた虹色の壁へと直撃。
 鍔迫り合いは、しかし一瞬。混ざりあい、反発しあう光の渦は、やがて巨大な爆発となって辺りに砕け散った。
「うわ、わ、ぁ」
 叫びかけた風葉の前に、粉雪のような光の粒がきらきらと舞い落ちる。光柱から伸びた虹色の壁、だったものだ。
 地面に落ちるどころか、空中を流れるうちに消えてしまう儚いきらめきは、雪と言うより爆ぜ散る火の粉に似ていた。
 だからだろうか。その爆発を真っ向から見つめている辰巳の背中が、どこかもの悲しく見えたのは。
「すぅ――」
 どうあれ、辰巳は残心する。
 そして、姿が変わってから初めて風葉の方へと振り向いた。
「い、五辻、くん……?」
 ほぼ反射的に、風葉は辰巳の名を呼んだ。
 感謝するためではない。心配していたからでもない。
 眼前の人物が本当にあの五辻辰巳なのか、確かめるためだ。
 異様な力。物々しい服装。それらを行使していたことも勿論ある。
 だがそれ以上に、風葉の知っている辰巳とは、眼差しが違い過ぎていたからだ。
 ガラスか、それともプラスチックか。
 そんな錯覚を抱いてしまうくらい、その眼には表情というもののが無かった。
 まるで、機械だ。
「心配ないさ。すぐに終わらせる」
 淡々と言う辰巳。きっとその通りになるのだろう。
 だが、今風葉が知りたいのは、そんな事ではない。
「何なの……」
 後ずさりながらも、風葉は瞳の形をした機械を見つめる。
「どうして、そんな……?」
 その色は、どうしようもなく強くて、ひたすらに悲しく見えた。


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【神影鎧装レツオウガ 人物名鑑】
02.霧宮 風葉 (きりみや かざは)

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