見出し画像

クビの配達引き受けます #16

【戻る】

 着地するザジ。膝立ち姿勢。猫じみた、まったく危なげない動き。
 その挙動に、ヘカトンケイルMK-Ⅵは敵の健在を断定。次の攻撃の準備に入る。
 それは正しい、的確な判断。
 だが悲しいかな、遅かった。

「さ、て」

 すぅ、と。
 ザジは構える。右腕。雷の装甲内部、複合武装ユニットが目を覚ます。
 同時にアンリミテッド・アーマー腰部に展開されていた雷の装甲、その一部が消失。蒸発に似た一部始終を、ヘカトンケイルは観測。推察。恐らくアレは増槽《プロペラント》の目的も兼ねていたのだろう。

 その予想は正解だ。凝固を解かれた雷は、アンリミテッド・アーマーのシステムを介して右腕へ、複合武装ユニットへと流入。
 エネルギー充填。武装選択。A・Sブレイド起動。出力100%。ただし一秒のみ。

ええーイイじゃんもっとやったってさあ。
ダメです。
あの程度の敵相手なら、これで十分なのは計算済みです。
そもそもザジ、あと六十秒切ってるんですよ?
え、マジ!? 
うわホントだ! 
こうしちゃいられない――

「――なッ!」

 斬。

 手刀。逆袈裟。立ち上がりながらの振り上げ。
 居合じみた斬撃を、複合武装ユニットから発振された光線――A・Sブレイドが拡大。

 その軌道上には、新たな攻撃の為回頭中のヘカトンケイルがおり。
 更にその上空には、相変わらず黒々とした雷雲が垂れこめており。

 それら二つが、同時に裂けた。

 ずるりと、真っ二つに分かたれるヘカトンケイルmk-Ⅵの巨体。
 その上空で、出力100%の対宇宙戦艦光撃剣――Anti・Ship・blade、略称A・Sブレイドの直撃を受けた雷雲が、爆ぜ飛んだ。

 轟。

 墜落し、火球となり、爆散するヘカトンケイル。アーマード・パルクールがやらかしたいつも以上の破壊風景を、しかし町の誰もが見ていない。モリスも、それを為したザジ自身でさえも、だ。

「おやおや、久しぶりだな」

 まあ、無理もあるまい。
 斬り裂かれ、千切れ飛んだ雷雲の隙間。
 絶対に晴れる事の無いこの町の空に、青い空が顔を覗かせたとあらば。

【続く】


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?