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ズボラだから懲りたのに、ズボラだから訪れたセカンドチャンス。

庭に咲く黄色い花を見つけて

私は目を疑った。


めちゃでかいラフレシアの花を
初めて見つけた人くらい
多分、目を疑った。

6月に入ると、雨の日が増え、
気温がぐんと上がる。

そうだった。
この時期になると
我が家の庭に蔓延る雑草達は
突然、生命力というものを知らしめてくる。

毎年そうだったのに忘れていた。

道路に生えている猫じゃらしと
そもそもの品種が違うよね?
と思ってしまうレベルの
ぶっといデカい猫じゃらしが
何本も生えている我が家の庭。

その横を
毎朝、毎晩、確かに横切っていたはずなのに。

時間に追われ過ぎて、
そんなモッサモサの猫じゃらしが生えていることにも
全く気付かずにいた。

ところが梅雨の合間の、ある晴れた日。
ようやく雑草達の生命力の凄まじさに
1年ぶりに気付いたタイミングで、
庭のニョキニョキ生える雑草達の隙間に
あの、黄色い花を見つけてしまったのだ。


…いや、植えてない!

今年は…
マジで植えてない!!


私の脳裏に去年の悪夢が蘇り
頭の中でトラとウマが追いかけっこをし始める。
そう。
世に言うトラウマである。


…そ…そんな…!

でも、心当たりありまくる…!!


黄色い花を見下ろし、
仕方がないので、ひとまず目をつむった。


目を開けてみる。


…いる。

…うん、いるよね。


その後、薄目で見ることも試みたが、
目を細めたり見開いたりしても、
黄色い花は、やはりそこにいる。

もうこれは現実だ。
それ以外あり得ない。

私はゴクリと喉をならし、
平静を装う。

平静を装う為に、
ブチっと近くの猫じゃらしを摘み、
次男にコショコショする。

しかし、キャッキャと笑う次男に向けて
猫じゃらしをユラユラ揺らしながらも、
目の端にチラチラと入る
黄色い花のことばかり考えてしまう。



夕方、帰ってきた旦那に

「庭で、すっげぇヤツ見つけちゃった」

テンション低めに告げる。

旦那はその言葉と私のテンションの低さから、

「ん?虫?」

と答える。


無言で首を振る私を、
怪訝そうに見つめる旦那。

私は静かに
しかし、ハッキリと告げる。



トマト


「…え?」


「…トマト生えてる…」



旦那の表情が歪む。

多分旦那の脳内でも、
トラとウマが暴れ始めたに違いない。

「え?植えた?」

「植えてない…」

「そうだよね、植えてないよね?」

「植えてない…」

「植えてない…の…に…?」


コクリ。

神妙な顔で頷く。


学校の怪談でも話しているかのような
静かに怖い感じの空気が流れているが、
私たちが話しているのは怪談ではない。
庭に生えたトマトの話だ。

トマトの確認の為に、
旦那と庭に出た。

生命力を解き放つ雑草達の中に紛れ、
間違いなくトマトの苗が育っていた。

可愛らしい黄色い花をつけて。


「なんで…」

旦那が呆然と呟く。



なんでかは分かる。
私のせいだ。

全ては、1年前の私が引き起こした
妖怪『オバケトマト』の誕生のせいだ。

(なぜ神は
私に溢れるほどのズボラな才能を与えたのか)


去年、ずーーーーっと実をつけたトマト。

食べきれないトマト。

庭を埋め尽くすトマト。

平成狸合戦ぽんぽこの如く、
トマト 対 人間の
攻防戦のアニメなんかがもしあれば
まじでただの実写版だった。

そして、何を隠そうトマトが優勢だった。

多分、近所の人達や
家の前を通る小学生に
陰で『トマトハウス』と呼ばれていたに違いない。

最終的に寒くなった頃、
トマトが弱ってきたのを見計らって
旦那が庭をキレイにした。

そして私に
低い声でこう言った。


「…もう、二度とやらないでくれ…」

普段なら
「はぁ?パパだってさぁ!」と
旦那のダメな所をすぐさま引き合いに出して盾突く私も、
この時ばかりは黙って俯き

「…ハイ。」

とだけ返事をした。




庭に出てよーく確認すると、
トマトの苗は5本生えていた。
花咲いてないの含めて5本。

去年食べきれずに放置して、
庭に落ちまくった実の中から
奇跡をくぐり抜けて生えてきたトマト。

妖怪『オバケトマト』の子孫のトマト。

私のズボラが繋いだトマト。


まだ小さな苗のトマトを眺めながら、
去年もそうだったなぁ…
油断してたらエラいことになったよなぁ…と、
夫婦揃って恐ろしいトマトとの記憶が蘇る。

そうだ。
家の前で無人の無料配付でもしようかな。

ヴィレッジヴァンガードにあるみたいなポップ作って、
ミニトマトの横にベタベタ貼って。

ミニトマトのある夏か
ミニトマトのない夏か
私の脳内で作られたポップ①
この0円の苗を持って帰ったら、
今年の夏のトマト代は0円。
私の脳内で作られたポップ②
ネコは持って帰ったら怒られるかもしれないけど、
ミニトマトなら大丈夫じゃない?
私の脳内で作られたポップ③

ほら出来た。

これを紙にセンス良く書いて、
あとは庭から根っこからトマトを掘り起こして、
植木鉢に1苗ずつ植えて家の前に並べたら、
さすがに絶対誰か持って行くでしょ。


……


………やらないだろ。私。
ズボラだから。

こんなこと段取り良く出来たら、
トマトもちゃんと育てられてるわ!


自分がズボラなせいで
もう二度と家庭菜園はやらないと心に誓ったけど、
自分がズボラなせいで
二度目の家庭菜園が始まろうとしている。

このまま行くと、
来年も苗が生え、
再来年も苗が生え、
私がズボラに生き続ける限り
オバケトマトは延々と生き続ける。
この家庭菜園のループから抜け出せない。

そして誰もいなくなった我が家に
夏になるとオバケトマトがわんさかなるのだろう。

近所の方々は私たちの住んでいた家を
『オバケトマトハウス』と呼び、

「ここに住んでた人、ほんとにズボラだったのねぇ…」

「それにしても、なんでこんなに信じられないくらい毎年トマトがなるのかしら…」

「ズボラって怖いわぁ…」

と、噂するかもしれない。

我が家のトマトが生き続ける限り、
私がズボラだという事実が、
半永久的に受け継がれていく。

怖い。
怖すぎる。


という、
怪談のような雰囲気で
この話を締めくくりたい。

こういう無駄なことを
延々と思いつく才能はいらないから、
トマトをちゃんと育てられる才能が欲しい。

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