出会いはいつでもそこに。「出会いがない」と嘆くあなたへ
出会いがない。そう、嘆く人は多い。それが「白馬に乗った王子様限定」と言うのなら、私も、それはもう嘆くしかないのかもしれない。
サマーソニックの会場でY君と出会った。
2015年のことだ。幕張メッセから移動するマリンスタジアムの入り口横で。Y君は、一心不乱にヘッドライナーのアーティストを大きなキャンバスに描いていた。
私は何気なくその後ろ姿を写真に撮った。何回か会場を行き来しているうちに、Y君の絵画は完成に近づいていた。それを、また、撮影した。
声はかけていない。
だから、厳密に言えば、Y君だと私が認識する前のY君を私は頭の片隅に記憶した、ということだ。
そして、その翌年のサマーソニック。Y君は再びほぼ同じ場所でヘッドライナーのアーティストを描いていた。絵のタッチで、すぐにわかった。
「あっ、去年の人だ」
会場の行き来をしながら、絵が完成していく様子を再び写真に撮った。
ある時、Y君は絵を描く手を止めて、その傍で自分の描いた絵をただ見つめていた。
「去年もここで描いていましたよね?」
私は声をかけた。前年撮影したiPhoneのフォトギャラリーの中にあった写真を見せると、Y君は本当に喜んでくれた。「自分が描いている最中の写真は意外に持ってないんですよ」というものだから、2年分の写真をメールをしてあげることにした。そのためにY君のSNSアカウントを表示して驚いた。
同郷だった。
さらに驚いたのは、その日サマーソニックから自宅へ帰りテレビをつけると、Y君と私の地元にある高校が甲子園で優勝したニュースが流れていたことだ。
Y君にその日に撮った写真をメールしながら、互いに優勝を祝うやりとりをした。
そして、その次の年もY君はいつもの場所でヘッドライナーのアーティストを描いていた。「サマーソニックの常連さんに声をかけられることが多くなった」と嬉しそうに言った。そこを通る度に後ろ姿と作品の途中経過を撮り、その夜、それを時系列にメールした。
今年、私はサマーソニックには行かないので、会場で会うことは叶わない。でも、来月、Y君は仕事の関係で、地元から東京に越してくるのだという。乾杯の約束をした。
出会いは、いつでもそこにある。
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