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クレープシュゼットの思い出

皆クレープが大好き。そう言えば原宿名物でもホイップクリームやバナナ、チョコレートソースのクレープ売ってたし。ああいう店、実はパリのマレ地区にも進出していた事があったっけ。パリジャンや パリジェンヌにも結構人気だった。勿論フランスにはフランスのクレープがあるから、やはり私はそちらの少々もっちりした食べごたえのある生地の方が好きだけど。使用する粉が違うし牛乳、バターも違うし。

何故急にクレープを思い出したかと言うと、原因はシャンドルー(La chandeleur, シャンドルールとするべきか迷ったが、最後の「ル」を強く発音してしまうとまったく違うものに聞こえてしまうので敢えてシャンドルーにしてみた。また、シャンドラーと言っても近いかなと思うけれど、いずれにしてもフランス人が発音するような言い方にはならない)。  シャンドルーは聖母マリアのおきよめの為に毎年 クリスマスの40日後にあたる2月2日にクレープを 食べると言うキリスト教の習慣だが、小麦粉に  牛乳、溶かしバター、卵、砂糖、塩(意外とリッチなのでダイエットには向かないと言うのが明らかで ある)を合わせ薄〜くて丸く伸ばした生地を焼き、 あとは好みでジャム、蜂蜜、ヌテラ、マロンクリーム、または塩バターキャラメル…、などなどのいずれかをを上にのせて最後は4つに折りたたんで食べるのである。栄養価が高いせいか、体を動かした後などに無性に食べたくなる(私だけ?)し、特に子供は皆 喜んで食べると思う。

甘くない食事クレープもある。ガレットと言って、蕎麦粉を生地に加えたもので、これがチーズ、  ハム、卵やサーモン、ソーセージなどと合う。クレープ専門レストランの事を<クレープリー>と言うが、そういうところには必ずある。パリだったら モンパルナス、サンジェルマン・デ・プレ、モンマルトルあたりに小さなクレープリーのかたまりが 並んでいる地区がある。私は各地区に必ず一軒は美味しいクレープリーを知っているがパリに住むものとしては当然である。たいていは狭い所にギッチリテーブルが並んでいて、ピンクとホワイトのチェックのテーブルクロスがかかっていて、その上にシードル用ボウルがセットされているが、別にシードルを飲まないといけないわけではない。ただしシードルはブルターニュやノルマンディー地方の名物の発泡酒(と言ってもアルコールは2〜5%位で私にとってはスパークリング林檎ジュースといったところか?)として知られているので是非オススメで、地元の スペシャリティ同士、クレープと合うと言われている。シードルには辛口も甘口もあるが、意外に(すみません)甘口もいけるということと、林檎以外に洋梨のシードルも好評というところは抑えておきたい。

クレープリーでの食事は予算的にもお財布にやさしいし、お得なセットもあるのでオススメである。 また、マルシェでもクレープの屋台はよく見かける。パリのバスティーユのマルシェでも常連の、 ブルターニュの旗マークが目印のクレープ屋さんではなんと言ってもソーセージのガレットが人気である。分厚くてボリューム満点のソーセージはグリルするのでそれだけ食べても美味しいが、焼いたクレープにソーセージをのせ、チーズものせ、私はオニオンコンフィも追加する。あとマスタードは好みで。これは他ではなかなか売ってないのでわざわざ遠くから買いに来る人がいるほどである。

私に関しては、今より若くてクラシックやジャズなどのダンスのレッスンに励んでいた時はよくクレープ屋さんで立ち食いをしていた。今はシンブルな ジャム、或いは砂糖、バターに粉シナモンをかけてよく食べるが、当時はヌッテラ入りを買う事が多かった。レッスン前に食べてもパワーもつくし、何より精神的にやる気満々になるのだ。クレープは私にとっては日常当たり前のものであり、特別なものと言う印象が今まではなかった。

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ところが話はころっと変わって、かれこれ15年以上前の事になるが、フィットネスのチャンピオンシップ地区大会の為にサンマロまで出かけた。そこで思いがけない出会いがあるとは夢にも思わず。

サンマロ(Saint -Malo)はフランス北西部のブルターニュ(Bretagne)地方にある人口およそ4万5千人ほどの港町で、観光地としても人気なところ。

何故そこでフィットネスの競技大会かと言うと、 そこでFISAF(フィザフ、フランスのフィットネス 連合)が毎年開催していた(今はもう無いと思う)チャンピオンシップの予選大会を予定していたから。私はその時はパリに住んでいたのでパリで参加しても良かったのだが、パリは参加人数も多いイコール決勝に進出する確率低しと読み、また、以前からミニ旅行とフィットネスを組み合わせて楽しめたらいいだろうなあと考えていたので良いチャンスかも、と言う事で早速パリからそう遠くなく、空気も良くて食べ物も美味しい、出来れば海の近くを探し始めた。

あった。3月にサンマロ。まだまだ肌寒いので海で泳ぐ事はできないが、直ぐにインターネットで参加申し込みをした。昔から一人ででもひょこひょこ出かけてしまう方なのでこういう時すべき事は自動的に出てくる。乗り物の切符の手配をして、あとは宿を一泊分じっくりと探して安くて清潔感があるところを選ぶ。大会までに数カ月あったので全て余裕。で、あとは観光の簡単な下調べ、と言うか主に何を食べるかの計画を立てるだけであった。知人がブルターニュはシーフードが美味しいと言っていたのを覚えていたのと、日本にいた時から名前だけは知っていたけど特に美味しいものと言う記憶がなかったクレープシュゼット。その名前の可愛らしさに惹かれて、また本場のブルターニュで味わうのを楽しみにしていた。

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さていよいよ出発当日、私はまず雰囲気良さそうでシーフードがあって、クレープシュゼットをフランベしてくれるレストランをガイドブックやインターネットで探した。予習したところ、クレープシュゼットはかの有名なフランスのシェフ、オーギュスト・エスコフィエ(1846-1935)がレシピを著述して世に広めたものと言う事がわかった。しかしシュゼットと言う名前は何処から来たのかなど、色々な説があったりするので少々曖昧な点がある。おそらくそうではないかと思われるのがアンリ・シャルパンティエと言う日本では洋菓子ブランドで有名であるが、実はエスコフィエの弟子であったシャルパンティエがモンテカルロ(モナコ)のレストランで働いていたある日、未来のエドワード7世と同伴の女性の接待を担当した。その時クレープのコニャックがけの注文を受けたのだが、つい手がすべってフライパンに火が入り、炎が燃え上がってしまった。意外に王子はそれを気に入ってしまったのでシャルパンティエはこのデザートに名前をつけることにした。王子は同伴の女性の名前をつける事を望み、<クレープシュゼット>が誕生したそうだ。

実際に現地を歩いてみて色々と決めようと思ったので昼過ぎにはパリを出発、電車を乗り継いで3時間位かかったと思う。ホテルにチェックインしてシャワーを浴びたら直ぐに出かける。フランスでは日本みたいに早めに夕食をとることはしない。19時からと貼り紙してあってもその時間にはまだスタッフは賄いの最中だったりする事が多い。食事の時間迄に2..3時間は余裕であったのでウォーミングアップを兼ねて街歩きをした。

結局たいして観光はせずにレストラン探し、しかしおかげで良いところが見つかった。予算の関係で カジュアルな雰囲気のクレープリーに決定したのだが、外に貼ってあったメニューは種類豊富でかなりメインで迷った。結局じっくりと研究してやっと注文も決まった。まだ19時前だったので周辺を一回りして、19時30分位を目指して来直すことに決定。

クレープリーは意外と広々としていて木の内装が3月のまだまだ肌寒さが残る夜に暖かみを演出してくれる。店のスタッフは皆感じよく、居心地良かった。前菜に生牡蠣をとってもよかったが、デザートの為に今回はパス。予定通りシードルを飲みながら、 メインにシーフードのガレット、クリームソースがこってりだったけれど海老や帆立が大きくて食べごたえ満点!パリにはこんな凄いの無いなあと思いながらペロリと平らげてしまった。そしてデザートは迷う事なくクレープシュゼットを選んだ。メニューには<フランベ、flambée.>と記載されていたので疑いの気持ちもなく、スタッフに確認する事もしなかった。

私のこの確認しないスタイルは時に失敗を招くのだが、その時は大あたりであった。男性のスタッフがワゴンを押しながら私の横にやって来てコンロの上の予め用意されたフライパンの中のクレープに火をつけた。クレープは砂糖、オレンジジュースやバターのソースで軽く煮込まれており、そこにリキュールを回しかけながら軽く火を付けていった。燃えるクレープなんて初めて見たので驚いてしまってあまり美しいとかその様なたぐいの感想はなかった。 圧倒された。私はエドワード7世にはなれないな。

サーヴィスしてくれた男性は常に笑顔で愛想良い方だったけれど、お喋りでもなかった。つい最近、You tubeで日本のアンリ・シャルパンティエて黒服の サーヴィスの方がクレープシュゼットを客の前で フランベする動画を見たけれど、動作がエレガントて、火をつける準備をしながら名前の由来の説明など丁寧にしていて、私の体験したクレープシュゼットとまったく別物であった。(値段も違うだろうけれど) フランスの、例えば三ツ星レストランなどでもこんな感じなのであろうか。レストランでのディナーのデザートはやはりこういう盛り上がりも良いなと思った。特に何かの記念日とか…、ところが、がっかりする記事を見つけた。なんとエスコフィエ自身の著書、<オーギュスト・エスコフィエの料理ガイド>の中で「決してクレープシュゼットはフランベしない様に。」と語っている。さらに、「クレープシュゼットとクレープフランベを混同しない様に。」と付け加えている。

ショックである。それってまったく私の思っていたことと違うではないか。あんなにいいと思ったのに…。しかも、クレープシュゼットをフランベすると演出の面だけでなく、味も抜群になるのだ。マーマレードジャムのクレープも勿論好きだけれど、フランベされたクレープシュゼットはより素晴らしい発案だと思うのであるが…。

実はクレープシュゼットのフランベ付きをサンマロで食べたおかげで私の身に奇跡か起こった。だが、これはクレープシュゼットとかけ離して、また別の記事でまとめてみたい。今回は、クレープシュゼットひとすじでいきたかったから。この続きはまた近いうちに。




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