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舞台人・三谷幸喜の気概をみた『ショウ・マスト・ゴー・オン』

昨年末12月27日に大千秋楽を迎えた、三谷幸喜作・演出の『ショウ・マスト・ゴー・オン』。出演者やスタッフの体調不良などにより一部休演に見舞われたものの、三谷氏による代役出演の甲斐もあり、無事に終幕を迎えることができたようだ。

さて『ショウ・マスト・ゴー・オン』は1991年と94年に上演された、劇団東京サンシャインボーイズ時代に三谷氏が書き下ろしたコメディの再演。舞台裏で想定外に巻き起こるアクシデントの数々を描いた「バックステージもの」の金字塔といわれた作品だ。主人公の舞台監督が男性から女性に、座長の俳優が若返るなどの設定が変更され、”令和版”『ショウ・マスト・ゴー・オン』として、28年ぶりのリニューアル上演となった。

東京公演は世田谷パブリックシアターにて上演された

11月7日の福岡・キャナルシティ劇場公演を皮切りに、17日からの京都・京都劇場、そして25日からの東京公演につないだ。
わたしは12月10日の18時公演を観ることができたのだが、この日は、新型コロナウイルス感染で療養中の浅野和之氏に代わり、三谷氏の代役出演がすでに決まっていた。

療養中の浅野氏については残念だったが、正直なところ、上演続行となり内心ほっとしたのもある。この2年ほどのあいだ、舞台やイベントなど多くの興行が制限されてきた。まるで戦犯かのように扱われたこともあった。だがようやく、元通りとはいかないまでも劇場に足を運べるようになった。

暗い暗い夜道でぼんやり灯る明かりを見つけたときのように、ひとすじの希望を抱いて、我々は劇場までやってきたのだ。というのは大袈裟だが、この日を待ちわびて、心の底から楽しみにしていたのは嘘ではない。劇場内には「また舞台が観られる」という高揚感が観客から溢れていた。

もちろん、三谷演劇への純粋な期待感もあってのことだ。そして何より、脚本を手掛けた三谷氏自身が代役出演するというイレギュラーな出来事について、観客側に相当な衝撃が走ったのは言うまでもない。ハプニングを仕掛けられたかのような、自分たちがまるで、これから観るはずの芝居の一部にでもなったかのような錯覚を覚えた。不思議な感覚だった。

開演後は、あっという間に芝居の中へと引き込まれていった。バックヤードで怒涛のように押し寄せるトラブルに「どうなる? どうなる?」と終始ワクワクしていた。さすがは三谷脚本、ノンストップ・コメディの神髄を味わい尽くす、笑い満載の2時間だった。

東京サンシャインボーイズ伝説のノンストップ・コメディが28年ぶりに復活

芝居を観ながら、じつは、ひとつ気になっていたことがあった。
この日は土曜日。三谷氏がレギュラーを務める『情報7daysニュースキャスター』の放送日でもあった。この舞台が終わった後に、いつもどおりに出演するのだろうか、と。

パブリックシアターのある三軒茶屋から赤坂のTBSまでは、そう遠くない。たいした距離ではないとはいえ、着替えや移動時間を考慮すると、上演を終えてから放送開始となる夜10時まであまり余裕はなかったはずである。少しくらいは休憩もしたいだろう。にも関わらず、舞台で代役を果たした後に、きっちりスーツを着てテレビ画面に納まっていたのだから、もはや超人。いや、超神か?

ショウ・マスト・ゴー・オン=”何があろうと最後まで幕を降ろすな”
この言葉どおり、根っからの舞台人としての気概がそうさせるのだろうか。
三谷氏は公演中、足を負傷した小林隆、体調不良のシルビア・グラブ、浅野和之、ついには主演の鈴木京香の代役までも務め上げることになった。本作の物語さながら、バックヤードでは多くのアクシデントがあったことだろう。

いち観客としては「ショウ・マスト・ゴー・オン」を体現してみせた三谷幸喜氏に最大の賛辞と大拍手を贈りたいが、一方であまり無理をしてほしくないと、なんとも身勝手なことを思ってしまう。

いずれにしても、やり切った三谷氏と、出演者、制作陣等々『ショウ・マスト・ゴー・オン』な面々に拍手喝采である。

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