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弁護士と社会保険労務士の違い

 おはようございます。弁護士の檜山洋子です。

 昨日、社労士さん、税理士さん、コンサルの人から、いろいろお話を聞く機会がありました。

 物販の会社がインターネットでどうやって物を売っていくのかという話から、我々士業がどうやって仕事を取るのか、という話に発展していきました。

 で、胆になる部分は私のアイデアではないので、ここで無断で開陳するわけにはいかないのですがが、話の中で、弁護士が社労士とどんな違いがあるのか、を問われました。

 感覚ではわかっていても、人に説明できるほどではなかったので、ググってみたところ、神奈川県弁護士会が「弁護士と社労士の違い」をまとめてくれているのを見つけました。

弁護士の業務範囲

 弁護士がどんな業務を扱うことができるか、については、弁護士法3条が規定しています。

(弁護士の職務)
第3条 弁護士は、当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱によつて、訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件に関する行為その他一般の法律事務を行うことを職務とする。
2 弁護士は、当然、弁理士及び税理士の事務を行うことができる。

 つまり、①訴訟事件に関する行為、②非訟事件に関する行為、③審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件に関する行為、④その他一般の法律事務です。つまり、法律に関する事務なら何でもできる、ということです。

 ちなみに、弁理士と税理士の業務も、弁理士試験や税理士試験に別途合格しなくても、弁理士会や税理士会に登録さえすればすることができます(「弁護士・弁理士」とか「弁護士・税理士」という肩書きを付けていく弁護士のほとんどは、司法試験と弁理士や税理士の試験にダブルで合格したのではなく、登録手続きを行っているだけです。とはいえ、私も一時期税理士登録をしていたことがあるのですが、義務研修なんかがあってその資格を維持するのは結構大変です。)。
 また、社会保険労務士法では、弁護士資格を有する者は社会保険労務士となる資格を有する、と定められていますので、弁護士は社労士試験を受けなくても社労士になることもできます。

 弁護士は、このように法律に関する業務であればなんでもできますので、労働問題についても、社会保険分野を含んだ法律事務全般を取り扱う資格を持っています。

社会保険労務士の業務範囲

 一方、社会保険労務士(社労士)は、社会保険労務士法で以下の業務を行うこととされています(第2条1項、第2条の2)。

① 労働社会保険諸法令に基づく申請書等の作成
② 労働社会保険諸法令に基づく申請書等の提出手続代行
③ 労働社会保険諸法令に基づく申請等の事務代理
④ 労働社会保険諸法令に基づく帳簿書類の作成
⑤ 事業における労務管理その他の労働に関する事項及び労働社会保険諸法令に基づく社会保険に関する事項についての相談又は指導
⑥ 事業における労務管理その他の労働に関する事項及び労働社会保険諸法令に基づく社会保険に関する事項について、裁判所において、補佐人として、弁護士である訴訟代理人とともに出頭し、陳述すること

 また、特定社会保険労務士(特別研修を経て紛争解決手続代理業務試験に合格し、かつその旨が社労士会連合会の登録に付記された社労士)は、さらに次の業務を行うことができます(第2条2項、3項)。

⑦ 個別労働関係紛争解決促進法によるあっせん手続、障害者の雇用の促進等に関する法律第74条の7第1項・雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律第18条第1項・育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律第52条の5第1項・短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律第25条第1項の調停手続についての代理
⑧ 都道府県労働委員会が行う個別労働関係紛争(労働関係調整法第6条に規定する労働争議に当たる紛争、行政執行法人の労働関係に関する法律第26条第1項に規定する紛争並びに労働者の募集及び採用に関する事項についての紛争を除く。)に関するあっせん手続の代理
⑨ 個別労働関係紛争(紛争の目的の価額が120万円を超える場合には、弁護士が共同受任しているものに限る。)であって、厚生労働大臣が指定するものが行うものに関する民間紛争解決手続についての代理

 これらの紛争手続代理業務には、以下の事務が含まれます。

a 上記⑦~⑨の民間紛争解決手続についての相談
b 上記⑦~⑨の民間紛争解決手続の開始から終了に至るまでの間の和解交渉
c 上記⑦~⑨の民間紛争解決手続により成立した和解における合意を内容とする契約の締結

 依頼している社労士が、特定社会保険労務士かそうでない一般の社労士かを確認し、これらの業務の範囲を超えて業務をしていないか確認してください。

 権限を超えて業務をしている場合には、違法な非弁業務として2年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処せられる可能性があります(弁護士法77条3項、72条)。

 依頼している社労士が非弁行為をしていることを知って、その業務を依頼し続けていると、共犯の罪に問われる危険性もあります。

個別労使紛争における違い

 会社にとって社労士は、毎月の経理を見てもらったり日々の労務管理の相談をしたりする身近な存在です。かくいう私も、社会保険の手続きや細かい計算方法などは、信頼できる社労士に相談したり依頼したりしています。

 その延長で、解雇問題や各種ハラスメント問題が起こった時に、身近な社労士に相談することはあるでしょう。

 しかし、上で述べたように、社労士にはできる法律業務とできない法律業務とがあります。

 特定社労士でない一般の社労士は、相手方との示談交渉やそのための相談を行うことはできません。
 特定社労士であっても、相手方との示談交渉において一方当事者の代理人として活動することやその活動のための相談を行うことができるのは、前記⑦~⑨記載の民間紛争解決手続を利用中だけですし、和解契約の締結も、民間紛争解決手続により成立した和解における合意を内容とする契約の締結しかできません。

 次に、特定社労士でない一般の社労士は、民間紛争解決手続における代理やその活動のための相談をすることができません。
 特定社労士は、前記⑦~⑨記載の民間紛争解決手続についての相談を行うことはできますが、代理ができるのはその民間紛争解決手続中に限られます。

 労働審判手続や訴訟手続においては、社労士は、事業における労務管理その他の労働に関する事項及び労働社会保険諸法令に基づく社会保険に関する事項について、裁判所において、補佐人として、弁護士である訴訟代理人とともに出頭し、陳述することができます。しかし、あくまでも、弁護士が訴訟代理人についていて出頭していることが前提ですので、単独で使用者や労働者の代理人として裁判所に出頭したり、そのための相談を受けたりすることはできません。

 弁護士は、これらの業務を全て制限なく単独で行うことができます。

集団的労使紛争における違い

 労働紛争には、労働者が個別に使用者と争うものと、労働者の集団である労働組合が使用者と争うものがありますが、後者の集団的労使紛争においても、社労士の業務範囲は限定的です。

 団体交渉の申し入れがあった時や、申し入れされそうな時、社労士は、使用者と共にその対策を練ることはできますが、団体交渉において一方当事者の代理人として活動したりその活動のための相談を行うことはできません。

 また、団体的労使関係において労働争議を予防し、または解決するための労働関係調整法上の紛争調整手続である、あっせん・調停・仲裁の手続において、社労士が一方当事者の代理人として活動したりその活動のための相談を行ったりすることはできません。

 不当労働行為を受けた労働組合又は労働組合員が、都道府県労働委員会や中央労働委員会に対して救済を申し立てる不当労働行為救済申立手続においても、社労士は、一方当事者の代理人として活動することやその活動のための相談を行うことはできません。

 不当労働行為救済申立手続における都道府県労働委員会の命令や中央労働委員会の命令に対し取消を求める訴訟手続においては、社労士は、事業における労務管理その他の労働に関する事項及び労働社会保険諸法令に基づく社会保険に関する事項について、裁判所において、補佐人として、弁護士である訴訟代理人とともに出頭し、陳述することはできますが、一方当事者の代理人として活動することやその活動のための相談を行うことはできません。

 弁護士は、これらの業務を全て制限なく単独で行うことができます。

社労士にしかできないこと

 法律上、弁護士の肩書きを持っていれば、社労士の業務を全てカバーできることにはなっています。

 しかし、実際には、労務問題は専門性が非常に高く、細かい事務処理や社会保険の問題などは、社労士でないとわからないことがたくさんあります。

 使用者は、弁護士と社労士の役割の違いを認識した上で、両者をうまく使いこなすようにしてください。

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