時間外労働を命じる

 おはようございます。弁護士の檜山洋子です。

 今日は日曜日ですが、事務所の引っ越しの荷ほどき作業なので、事務所総出です。

 こんな時、もし従業員が、「今日は休日だから休ませていただきます」と頑なに出勤を拒んだら、使用者はどうすればいいでしょうか。ダンボール山積み状態で明日からの仕事にどう備えればいいのか、途方に暮れてしまいます(ちなみに、うちの事務員さんは、私たち使用者が出勤を命じていないうちから、自主的に出勤してくれることにしていました)。

時間外労働を命じることはできるか

 労働者は、労働契約で決められた範囲内で労働する義務を負います。

 そして、労働契約では労働時間の定めもありますから、その定められた時間を超えて労働してもらうには、別途合意が必要です。

 ただし、合意すればどれだけでも時間外労働をしてもらえるかというと、そうではありません。三六協定(労働基準法36条に定められた協定)の締結をして、労基署に届け出ておかないと、そもそも時間外労働をしてもらうことができません。

 もっとも、三六協定があれば、その範囲内で時間外労働をしてもらうことはできるのですが、三六協定さえあれば嫌がる従業員に時間外労働を命じることまでできる、というわけではありません。

 従業員に時間外労働を命じるには、従業員が個別に同意しているか、就業規則で時間外労働の合理的な定めを置いておく必要があります。

 就業規則に合理的な時間外労働の定めがあれば、使用者はその規定に従って従業員に時間外労働を命じることができますし、従業員がその命令に応じなければ業務命令違反となります。

合理的な就業規則

 ここでポイントになるのが、就業規則の定めが合理的かどうか、です。

 就業規則の規定によって時間外労働を命じることができるとした日立製作所武蔵工場事件(最高裁判所平成3年11月28日判決)は、「業務上の都合によりやむを得ない場合には、三六協定により時間外労働を命ずることがある」と定めた就業規則があり、三六協定で、以下の場合において月40時間を上限とし、緊急やむをえない事情からこれを超える場合に事前に協議することを定めていたケースで、就業規則の合理性を認めました。

① 納期に完納しないと重大な支障を起こすおそれがある場合

② 賃金締切の切迫による賃金計算、または棚卸検収・支払などに関する業務ならびにこれに関する業務

③ 配管、配線工事などのため、所定時間内に作業することが困難な場合

④ 設備機器類の移動、修理などの場合

⑤ 生産目標達成のため必要のある場合

⑥ 業務の内容によりやむを得ない場合

⑦ その他これらに準ずる理由のある場合

 時間の限定がされていること、会社の業務の必要性がある程度具体的に明示されていることが必要だといえるでしょう。

合理的な定めがあるのに時間外労働を拒否されたら?

 合理的な定めに基づいて時間外労働を命じているにもかかわらず、これを拒む行為は業務命令違反ですから、形式的には懲戒処分の対象にはなります。

 しかし、従業員側の時間外労働拒否の態様、回数、理由と、使用者側の時間外労働の必要性や緊急性などの様々な要素を比較して、懲戒処分を下すことが適切かどうか、下すとしてどの程度の懲戒処分とするか、についてはなお検討する必要があります。

 時間外労働拒否の行為に対して余りにも厳しい処分を下すと、その処分自体の違法性が争われることになりますので、注意が必要です。

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