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コロナ感染不安と会社の安全配慮義務

 こんにちは。弁護士の檜山洋子です。

 ここ数日で急に温かくなりましたね。

 花粉も飛んでいるようです。

 30歳のころには、花粉の季節には両方の鼻の穴がふさがったまま鼻水が出てくるほど酷かったのですが、なぜか急に症状が軽くなり、35歳くらいからは目のかゆみとくしゃみが出る程度になりました。しかも、目薬を一回差せばだいたい1日は持ちます。なんせ、息ができるっていうだけで随分楽に感じるものです。

 しかし、今のご時世、電車内などの人がいるところでくしゃみをするのはとても気を遣います。
 きっとコロナを疑って嫌な思いをさせているだろう、すみません、と心で謝りつつ、最大の力でマスクを押さえ、立て続けに出るくしゃみを押し殺しています。

 コロナ感染に対する恐怖心は人によってまちまちですし、かなり気を遣ってしまいますね・・・

 今日ご紹介する裁判例は、通勤により新型コロナウイルスに感染するかもしれないと不安に思う労働者につき、会社に健康配慮義務があるか、について検討されたものです。

ロバート・ウォルターズ・ジャパン事件(東京地方裁判所令和3年9月28日判決)

事案の概要

 原告は、派遣会社である被告との間で労働契約を締結し、派遣先会社に、令和2年3月2日から同月末まで、情報システム開発を業務内容とし午前9時から午後5時半まで(休憩1時間)の条件で派遣されました。

 しかし、令和2年2月下旬ころ、日本国内で新型コロナウイルスの流行が始まると、原告は通勤中に新型コロナウイルスに感染することを恐れ、派遣会社に対して、出勤時刻をずらして通勤電車の混雑時間帯を避けるようにして欲しいと共に、当面の間、在宅勤務にして欲しい旨、派遣会社と派遣先との間で調整をして欲しい旨の申し入れをしました。

 派遣先は、少なくとも最初の数日間は職場に慣れるためのサポートをする必要があり、業務用パソコンを渡したりチームメンバーを紹介するために出勤して欲しい旨伝えてきました。
 とはいえ、出勤初日は、混雑する電車を避けることができるよう午前10時に出勤していいと言われ、これについては原告も喜んでいました。

 結局その日、原告はタクシーで出勤し、タクシー代は被告から原告に後日支払われました。

 原告と派遣先は、その後も午前10時を出勤時刻とすることを確認しました。

 3月10日からは在宅勤務としてもらいましたが、原告は、始業時刻と終業時刻をいずれも3時間繰り上げて勤務しました。
 派遣先はこれを問題視し、派遣会社を通じて原告に注意しました。

 3月19日、派遣先からの要望である以下の3点が被告から原告に伝えられたところ、原告は被告の対応が不法行為であるとして慰謝料の支払いを求めました。
① 在宅勤務を辞めること
② 在宅勤務中の就業時間は、午前9時から午後5時半までであること
③ これ以上新型コロナウイルスに関する議論をしないこと
④ 原告の派遣契約を更新しないこと

判決の概要

 雇止め違法性も問題となりましたが、ここでは、被告の健康配慮義務または安全配慮義務違反の有無に関する裁判所の判断を紹介します。

 東京地方裁判所は、「被告や派遣先において、当時、原告が通勤によって新型コロナウイルスに感染することを具体的に予見できたと認めることはできない」として、被告には健康配慮義務または安全配慮義務として、派遣先に対して在宅勤務を求める義務を負っていたとは言えないとしました。

 また、以下の事実が認定できるから、仮に原告が被告に対して健康配慮義務または安全配慮義務違反を主張しているとしても、被告は原告に対して、使用者として十分な配慮をしていたから、労働契約に基づく健康配慮義務または安全配慮義務違反は認められない、としました。

・・・被告は、通勤による新型コロナウイルスへの感染への懸念を示す原告に理解を示し、本件派遣先会社に対し、原告の出勤時刻の繰り下げや在宅勤務の要望を伝え、出勤時刻の繰下げについては速やかに実現しているし、原告が本件派遣先会社のP2マネージャーと在宅勤務について協議する約束も取り付けている。原告は、被告がこのような対応をしたことについて、 「Perfect! Thanks!」 (「完璧です!ありがとう!」 )と返信し、感謝の意を表しており、原告の在宅勤務も、平成2年3月10日から実現している。

最大限の配慮

 冒頭にも書いたように、新型コロナウイルスに対する恐怖の度合いは、個人個人で大きな違いがあります。

 様々な従業員を抱える使用者は、そのことを十分理解した上で、できるだけ従業員の心配事に寄りそった対応をすることが求められているといえるでしょう。 

 本件の判決は、決して、会社は新型コロナウイルスへの感染不安に対処する必要がないとしたものではありません。

 その時に判明している具体的な危険性を会社が予測できるかいなかによって会社が配慮するべき内容は変わりますし、その中でも最大限の配慮をすることは求められているのです。


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