違法な時間外労働にも割増賃金支払義務
おはようございます。弁護士の檜山洋子です。
子供が生まれてからは自宅が半分職場になり、仕事とそれ以外の時間の境がなくなりました。
しかし、それは自営だからできること。
人を雇用して働いてもらうときは、労働時間を管理して、法律に違反しないようにしなければなりません。
違法な時間外労働・休日労働
労働時間は法律で、原則として週40時間、1日8時間までと定められています。
(労働時間)
第32条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。
② 使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない。
これを超えて労働時間を延長し、または休日に労働させるには、非常事由があり許可を得るか、三六協定を締結して労基署に届け出る必要があります。
そして、2018年6月に成立した働き方改革関連法により、時間外労働の罰則付上限が法律で定められました。
それまでは、時間外労働の上限時間は月45時間かつ年360時間(1年単位の変形労働時間制を適用する場合は、月42時間かつ年320時間)で、これを超える残業は原則として違法でした。しかし、特別条項付き三六協定を締結すれば、この原則の上限時間を超過することができ、特別条項で定める時間内であれば上限なく時間外労働を行わせることが可能でした。
しかし、2018年法改正により、時間外労働の上限が罰則付で規定され、さらに特別条項を締結する場合も、「年720時間」という上限が設けられました。また、年720時間以内であっても、一時的な繁忙期などにより単月で大幅な時間外労働が発生する可能性があるため、次の3つの上限規制が設けられました。
① 単月で月100時間未満とする(休日労働を含む)
② 連続する2か月から6か月平均で月80時間以内とする(休日労働を含む)
③ 原則の月45時間(変則労働時間制の場合は42時間)を上回るのは年間で6回までとする
また、2か月平均、3か月平均、4か月平均、5か月平均、6か月平均がすべて1か月あたり80時間以内、月45時間超は年6回までとされました。
これらの規制に違反した場合、事業主には、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます(労働基準法119条1号)。
違法な時間外・休日労働に対する割増賃金
以上のように、違法に時間外・休日労働をさせた場合は、罰則を科せられます。
では、そのような違法な時間外・休日労働に対しても割増賃金を支払う義務があるのでしょうか。
時間外・休日労働や、午後10時から午前5時までの深夜労働に対しては、通常の労働時間や労働日の賃金の計算額に一定の割増率を乗じた割増賃金を支払わなければなりません(労働基準法第37条)。
(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
第37条 使用者が、第33条又は前条第1項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の2割5分以上5割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が1箇月について60時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の5割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
② 前項の政令は、労働者の福祉、時間外又は休日の労働の動向その他の事情を考慮して定めるものとする。
③ 使用者が、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、第1項ただし書の規定により割増賃金を支払うべき労働者に対して、当該割増賃金の支払に代えて、通常の労働時間の賃金が支払われる休暇(第39条の規定による有給休暇を除く。)を厚生労働省令で定めるところにより与えることを定めた場合において、当該労働者が当該休暇を取得したときは、当該労働者の同項ただし書に規定する時間を超えた時間の労働のうち当該取得した休暇に対応するものとして厚生労働省令で定める時間の労働については、同項ただし書の規定による割増賃金を支払うことを要しない。
④ 使用者が、午後10時から午前5時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後11時から午前6時まで)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の2割5分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
⑤ 第1項及び前項の割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しない。
最高裁判所は、違法な時間外・休日労働についても、この割増賃金の支払義務があると判断しています(小島撚糸事件(最高裁判所第一小法廷昭和35年7月14日判決))。
・・・適法な時間外労働等について割増金支払義務があるならば、違法な時間外労働等の場合には一層強い理由でその支払義務あるものと解すべきは事理の当然とすべきであるから法37条1項は右の条件が充足された場合たると否とにかかわらず、時間外労働等に対し割増賃金支払義務を認めた趣意と解するを相当とする。果して、そうだとすれば、右割増賃金の支払義務の履行を確保しようとする法119条1号の罰則は時間外労働等が適法たると違法たるとを問わず、適用あるものと解すべきは条理上当然である。
適法な時間外労働の時に割増賃金の支払義務があるのに、違法な時間外労働に割増賃金の支払義務がないのはおかしい、として、それと反対の判断をした原審の名古屋高等裁判所に事件を差し戻しました。
何もいいことがない違法な時間外労働
違法な時間外労働に対しては罰則がありますが、それだけでなく労働者に対する割増賃金の支払義務を免れることもできません。
つまり、違法な時間外労働は、労働者に過酷な労働環境となるのは当然、使用者にとってもその分の支払いが求められるのであって、何も特をすることはないということです。
働き方改革で労働者の地位がどんどん向上しています。
使用者も意識を高く持ち、パラダイムをシフトするくらいの気持ちで労働環境の整備に取り組みましょう。
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