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育児介護休業と賞与

 おはようございます。弁護士の檜山洋子です。

 昨日は夜遅くに帰宅すると、子どもは自分で風呂に湯をはり、自分で入った後でした。

 そんなこともできるようになったのかと感動!

 そして、子どもが自分でできることが増えていく一方で、私はできないことが増えていくのかもしれないです。
 できるだけ世話をかけないようにしたいと思い直した夜でした。

 家族はうこうやって互いに世話をしたりされたりするものですが、子どもを育てながら、あるいは親の介護をしながら働いている人を雇う時には、いろいろ配慮しなければならないことがあります。

不利益取扱いの禁止

 育児や介護をするために、労働者は一定の条件の下、育児介護休業を取ることができます。

 その休業をもっと取りやすくするため、令和3年6月、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(育児介護休業法)が改正されました。
 改正のポイントは以下のとおりです。詳しくは既に説明したこともありますが、今年施行のものもあるので、後日再度説明しようと思います。

1 男性の育児休業取得促進のための子の出生直後の時期における柔軟な育児休業の枠組みの創設(2022年10月1日施行)
2 育児休業を取得しやすい雇用環境整備及び妊娠・出産の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置の義務付け(2022年4月1日施行)
3 育児休業の分割取得(2022年10月1日施行)
4 育児休業の取得の状況の公表の義務付け(2023年4月1日施行) 
5 有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和(2022年4月1日施行)

 育児介護休業法は、育児介護休業を取得したことを理由とする不利益取扱いを禁じています(育児介護休業法10条、16条、23条の2)。

賞与の不支給は不利益取扱いか

 育児介護休業を取得した従業員は、その休業期間の日数分働いていません。
 賞与は、働いた期間における評価を元に支給するものなので、そもそも働いていない従業員に払わなくていいのではないか、と思えます。

 しかし、育児介護休業を取ったことを理由として賞与を支払わないのは、法律で禁じられた不利益取扱いに該当するのではないか、という疑問も・・・

子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針(平成21年厚生労働省告示第509号)

 厚生労働省が出している指針によれば、禁じられている不利益処分は、「労働者が育児休業等の申出等をしたこととの間に因果関係がある行為」です。

 具体的には、以下のような行為が不利益処分とされます。

イ 解雇すること。
ロ 期間を定めて雇用される者について、契約の更新をしないこと。
ハ あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に、当該回数を引き下げること。
ニ 退職又は正社員をパートタイム労働者等の非正規社員とするような労働契約内容の変更の強要を行うこと。
ホ 自宅待機を命ずること。
へ 労働者が希望する期間を超えて、その意に反して所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限又は所定労働時間の短縮措置等を適用すること。
ト 降格させること。
チ 減給をし、又は賞与等において不利益な算定を行うこと。
リ 昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと。
ヌ 不利益な配置の変更を行うこと。
ル 就業環境を害すること。

 この中に、「チ 減給をし、又は賞与等において不利益な算定を行うこと」という項目がありますが、これに該当するものは以下の場合であることが示されています。

(イ) 育児休業若しくは介護休業の休業期間中、子の看護休暇若しくは介護休暇を取得した日又は所定労働時間の短縮措置等の適用期間中の現に働かなかった時間について賃金を支払わないこと、退職金や賞与の算定に当たり現に勤務した日数を考慮する場合に休業した期間若しくは休暇を取得した日数又は所定労働時間の短縮措置等の適用により現に短縮された時間の総和に相当する日数を日割りで算定対象期間から控除すること等専ら当該育児休業等により労務を提供しなかった期間は働かなかったものとして取り扱うことは、不利益な取扱いには該当しない。一方、休業期間、休暇を取得した日数又は所定労働時間の短縮措置等の適用により現に短縮された時間の総和に相当する日数を超えて働かなかったものとして取り扱うことは、(2)チの「不利益な算定を行うこと」に該当すること。
(ロ) 実際には労務の不提供が生じていないにもかかわらず、育児休業等の申出等をしたことのみをもって、賃金又は賞与若しくは退職金を減額すること。

 育児休業等の申出をしただけで実際には休んでいない場合に、賃金や賞与等を減額することが、「不利益な算定」として許されないことは疑いないでしょう。

 他方、実際に休んだ場合には、その休んだ日数分の賃金を支払わないとか、退職金や賞与の算定に当たって休んだ日数や時間の総和に相当する日数を日割りで算定対象期間から控除することは許される、としています。
 したがって、休んだ日数や時間の総和に相当する日数を超えて働かなかったものとして取り扱うことは不利益な算定に該当することになります。

裁判例

 産前産後休業や短時間勤務を理由とした不利益取扱いの該当性が問題となった裁判例もあります(東朋学園事件(最高裁判所平成15年12月4日判決))。

 この学園では、就業規則で、賞与の支給条件を出勤率90%以上であること、出勤率算定の基礎となる出勤日に産前産後休業日数と勤務時短措置による短縮時間分も含めることとする旨が定められていました。

 最高裁判所は、この就業規則の定めは、労働基準法が産前産後休業の権利を保障した趣旨を実質的に失わせるものであって公序良俗に違反して無効であるとしました。産前産後休業を取得すれば、確実に出勤率90%以上という条件をクリアすることができなくなり、結果として、産前産後休業を取得したことにより不利益な結果を受けることになるからです。

 その上で、賞与の金額を計算するにあたり、産前産後休業の日数を欠勤日数に算入することは適法であるとしました。

 

 育児介護休業についても、この裁判例と同様の理論は当てはまると言えますので、その扱いには注意するようにしましょう。

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