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欠勤と賃金減額

 おはようございます。弁護士の檜山洋子です。

 今日は、欠勤と賃金減額について問題となる点を簡単に説明します。

賃金を減額できる場合 

 賃金は、働いた分だけ支払うのが原則ですから、欠勤したらその分だけ支払わなくても良いはずです。

 ただし、完全月給制の場合は、決まった一定の額を支払うものですから、原則として、欠勤を理由に減額することはできません。
 しかし、就業規則で欠勤控除できる旨を定めておけば、完全月額制の下でも欠勤した分の賃金を減額することができます。
 就業規則に欠勤控除の定めがない完全月給制の下で欠勤控除をすると、従業員との間でトラブルになるので注意しましょう。

 日給月給制や月給日給制の場合には、働いた分だけが給料として計算されますから、欠勤分は支給する必要がありません。

 いずれにしても、会社の給与制度については就業規則で明確に定めておく必要がありますから、欠勤控除できるかどうかも就業規則の定めに従うことになります。

賃金全額払いの原則

 控除できるのは賃金支払いの対象となる期間の欠勤について、というのが原則ですが、支払い手続きの関係で今月は一旦全額支払い、翌月の賃金から今月の欠勤分を差し引くことはできるでしょうか。

 払わなくていいのに払ってしまった欠勤分の賃金は、会社から従業員に不当利得として返還請求できるものです。
 ですから、従業員が任意に欠勤分を返還しなければ、会社は従業員に対して裁判を起こして判決を取り、その判決に従って給与の差押えをするなどして回収しなければなりません。

 しかし、例えば月給20万円の従業員が1日休んだ場合の欠勤分賃金額は1万円程度です。この金額を回収するために裁判を起こすなんて、なかなかハードルが高く感じられます。

 それなら、翌月分の賃金から当月の欠勤分を控除すれば簡単に回収できるように思えます。

 ところが、労働基準法24条には以下のような定めがあります。

 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。

労働基準法24条1項本文

 全額支払わなければならないというのは、働いた分に対して全額、という意味ですから、賃金支払いの対象となる期間に欠勤がなければ控除することはできないはずです。
 ということは、前の月に欠勤分を支払ってしまってその分の返還請求権があるとしても、それに相当する額を控除することはできないことになりそうです。

調整的相殺の可否

 しかし、最高裁判所は、過払い額を調整するための相殺は許される、と判断しました(最高裁判所昭和44年12月18日第一小法廷判決(福島県教組事件))。

 この事件は、欠勤から約4か月が経過した後に、欠勤分の給与と勤勉手当が過払いであるとして従業員に対してその返納を求め、応じない場合には翌月の給与から減額する旨通知した上で減額したため、従業員の1人が、そのような措置は労働基準法24条に違反するとして争ったものです。

 減額分は、少ない人で給与の7~8%、多い人で20%弱でした。

 最高裁判所は、過払い賃金分の減額も相殺であるとしつつ、以下の理由を述べて、本件のような調整的相殺は許されるとしました。

・・・適正な賃金の額を支払うための手段たる相殺は、同項但書によって除外される場合にあたらなくても、その行使の時期、方法、金額等からみて労働者の経済生活の安定との関係上不当と認められないものであれば、同項の禁止するところではないと解するのが相当である。この見地からすれば、許さるべき相殺は、過払のあった時期と賃金の清算調整の実を失わない程度に合理的に接着した時期においてされ、また、あらかじめ労働者にそのことが予告されるとか、その額が多額にわたらないとか、要は労働者の経済生活の安定をおびやかすおそれのない場合でなければならないものと解せられる。

トラブルを避けるには

 調整的相殺が許されるとしても、その額と時期には注意が必要です。
 また、あらかじめ労働者に相殺することを予告しておくことも必要です。

 「要は労働者の経済生活の安定をおびやかすおそれのない場合でなければならない」とされていますから、従業員の生活状況をできるだけ把握した上で、経済生活の安定が脅かされないかどうか確認してから相殺するようにしましょう。

 とはいえ、給与計算を正確に行うのが最も有効です。
 総務の手が足りないのであれば、専門業者に外注するなどの方法も検討しましょう。それにかかるコストなんて、最高裁判所まで争い続けるコスト(経済的・精神的・時間的コスト)に比べたら安いもんです。

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