見出し画像

外国人雇用の場合の準拠法

 おはようございます。弁護士の檜山洋子です。

 私は、大阪で飲食店を経営しています。といっても、実務は夫がしており、私はいろんな手続きや給与計算や資金繰りをしているだけです。

 2012年にオープンして約8年間、コロナ禍のあおりもそれほど深刻ではなく、なんとかやってきましたが、今日から5月11日まで長期の臨時休業となりました。

 うちの店のお客様は、その半数が日本で働く外国人です。みんな、日本語を駆使してがんばっていますが、やはり職場でのトラブルはあるようで、労務の法律相談をよく受けます。

 本日は、そんな外国人の労務問題に関して、どこの国の法律が適用されるのか説明します。

労働基準法・労働契約法・労働安全衛生法・最低賃金法

 まず、労働基準法・労働契約法・労働安全衛生法・最低賃金法等の、労働者を保護するための法律は、労使間の合意によっても変更することができない強行法規を含みます。

 そのような強行法規については、日本国内で雇用する人であれば、日本人だろうが外国人だろうが、全員に適用されます。

 在留資格のない違法滞在中の外国人にも適用されます。

 労災保険、雇用保険、国民年金・厚生年金、健康保険も、国籍を問わず適用されますし、不法就労者にも適用されます。

 ただし、事業主としては、雇用した人が在留資格を持っていないことを知った時は、速やかに出入国管理当局に通知する義務があります。もし、この義務を怠って雇用を継続してしまうと、出入国管理法違反(事業活動に関し、外国人に不法就労活動をさせた者、または、外国人に不法就労活動をさせるためにこれを自己の支配下に置いた者)で、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、またはその両方を課せられる可能性があります。

 その他にも、外国人を雇用する際に注意すべき点がありますので、厚生労働省のホームページなどでじっくり確認しておきましょう。

 なお、職安法の職業紹介や職業指導は、不法就労者には適用されません。

労働契約の問題についての準拠法

 以上の強行法規については、日本で働く人たちには日本の法律が適用されますが、それ以外の労働契約に関する紛争を解決するときは、どこの法律が適用されるのでしょうか。

 モデルケースは、ドイッチェ・ルフトハンザ・アクチェンゲゼルシャフト事件(東京地方裁判所平成9年10月11日判決)です。

 ドイツに本社をおく航空会社Yに雇用されていた労働者Xらは、東京ベースの客室乗務員として勤務していました。Yは従来、東京ベースの日本人客室乗務員に対して、ドイツと東京との生活費等の差額を補塡する趣旨で付加手当を支給していましたが、ドイツにおける給与所得に対する課税方法が変更され、Xらの給与の手取額が増加したため付加手当を撤回したので、Xらは、付加手当の撤回が無効であることを理由として、Yに対し同手当等の支払いを求めて訴えを提起しました。

 手当撤回の有効性を判断する前提として、Xらの労働契約には日本法とドイツ法のいずれが適用されるのかが争われました。

 裁判所は、当事者間には、ドイツ法を適用するという暗黙の合意があったとして、Xらの請求を認めませんでした。

 現在は、2006年に法の適用に関する通則法が制定され、準拠法の決定について以下のような基準が示されていますので、これに従ってどこの国の法律が適用されるかが決められます。

 つまり、まずは、法律行為がなされた時に当事者が選択した地の法が準拠法となります(7条)。
 当事者による明確な意思表示がない場合は、「当該法律行為に最も密接な関係がある地の法」が適用されます(8条1項)。
 そして、労働契約については特則が定められており、原則として、労務を提供すべき地の法が「最も密接な関係がある地の法」と推定されます(12条2項)。
 労務供給地を特定できない場合は、当該労働者を雇い入れた事業所がある地の法が「最も密接な関係がある地の法」と推定されます(12条3項)。

 もし、ドイッチェ・ルフトハンザ・アクチェンゲゼルシャフト事件がこの法律が制定された後に起こっていたとすれば、東京ベースで勤務していたXらの請求は、日本法に従って判断されていたかもしれません。

今後のダイバーシティ経営

 コロナ禍で、国と国との間の行き来がほとんどなくなっていますが、今後は、IT技術の進化で実際の体の移動がなくても外国人を雇用することが可能になるかもしれません。

 そうなると、事業所は日本なのに、労務を提供しているのは外国、なんてことにもなり、どこの法律を適用して紛争を解決するのか、混乱してきそうですね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?