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偽装請負

 おはようございます。弁護士の檜山洋子です。

 スギ花粉が少なくなって、随分過ごしやすくなりましたね。

 気づけばもうすぐ春休み。ついこの前正月を迎えた気がしていましたが、あっという間に夏になってしまいそうです。

 さて、今日は昨日の続きで、派遣労働者について書こうと思います。

業務処理請負契約による労働関係

 労働者派遣法(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律)は、「この法律又は次節の規定により適用される法律の規定の適用を免れる目的で、請負その他労働者派遣以外の名目で契約を締結し、第26条第1項各号に掲げる事項を定めずに労働者派遣の役務の提供を受けること」、つまり、偽装請負の場合には、「その時点において、当該労働者派遣の役務の提供を受ける者から当該労働者派遣に係る派遣労働者に対し、その時点における当該派遣労働者に係る労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約の申込みをしたものとみなす」こととされています(40条の6第1項5号)。

派遣労働者との間に黙示の労働契約は成立するか

 この場合、実際の指揮命令をしている派遣先の会社との間に黙示の労働契約は成立するのでしょうか。

 労働者派遣法の上記規定に違反した偽装請負のケースで、派遣先と派遣労働者との間の労働契約の成否が問題となった裁判例があります(パナソニックプラズマディスプレイ〔パスコ〕事件(最高裁判所第二小法廷平成21年12月18日判決))。

 この事件において、最高裁は、労働者派遣法に違反しても、派遣元と派遣労働者との間の雇用関係が無効になることはなく、また、本件においては派遣先と派遣労働者との間に黙示の労働契約は成立しない、と判断しました。

① 派遣元と派遣労働者の関係
 被上告人(派遣労働者)は,平成16年1月20日から同17年7月20日までの間,C(派遣元)と雇用契約を締結し,これを前提としてCから本件工場に派遣され,上告人(派遣先)の従業員から具体的な指揮命令を受けて封着工程における作業に従事していたというのであるから,Cによって上告人に派遣されていた派遣労働者の地位にあったということができる。そして,上告人は,上記派遣が労働者派遣として適法であることを何ら具体的に主張立証しないというのであるから,これは労働者派遣法の規定に違反していたといわざるを得ない。しかしながら,労働者派遣法の趣旨及びその取締法規としての性質,さらには派遣労働者を保護する必要性等にかんがみれば,仮に労働者派遣法に違反する労働者派遣が行われた場合においても,特段の事情のない限り,そのことだけによっては派遣労働者と派遣元との間の雇用契約が無効になることはないと解すべきである。そして,被上告人とCとの間の雇用契約を無効と解すべき特段の事情はうかがわれないから,上記の間,両者間の雇用契約は有効に存在していたものと解すべきである。

② 派遣先と派遣労働者の関係
 ・・・上告人(派遣先)はC(派遣元)による被上告人(派遣労働者)の採用に関与していたとは認められないというのであり,被上告人がCから支給を受けていた給与等の額を上告人が事実上決定していたといえるような事情もうかがわれず,かえって,Cは,被上告人に本件工場のデバイス部門から他の部門に移るよう打診するなど,配置を含む被上告人の具体的な就業態様を一定の限度で決定し得る地位にあったものと認められるのであって,前記事実関係等に現れたその他の事情を総合しても,平成17年7月20日までの間に上告人と被上告人との間において雇用契約関係が黙示的に成立していたものと評価することはできない

 労働者派遣法に違反するからといって、当然に派遣元と派遣労働者との間の雇用契約が無効にはならないし、派遣先と派遣労働者との間の雇用契約についても当然に黙示の雇用契約が成立することはなく、派遣先と派遣労働者との間の個別具体的な事情を考慮して判断しています。

直接雇用の申込みがあった場合の対処法

 労働者派遣法に違反する偽装請負の場合、派遣先の会社は派遣労働者に対して直接雇用の申込みをしたものとみなされますので、派遣労働者がこの申込みを受ければ、申込み時の労働条件で直接雇用契約が成立します。

 この時、派遣先の会社は、報復的な取扱いをすると不法行為責任に問われることになりますので、注意が必要です。

 派遣先の会社が、直接雇用を要求し続けていた労働者との間では約5か月の期間の雇用契約を締結し、その間、当該労働者を隔離して不要な作業に従事させて苦痛を与えた挙げ句に雇止めをしたパナソニックプラズマディスプレイ〔パスコ〕事件(最高裁判所第二小法廷平成21年12月18日判決)において、最高裁判所は、以下のように述べて、派遣先会社に対して90万円の慰謝料支払を命じました。

 リペア作業は,上告人にとってその経営上の必要性には疑問があり,むしろ被上告人に従事させるためにあえて設定されたものと推認される上,封着工程での作業に比べ長時間にわたって孤独な作業を強い,相応の肉体的,精神的負担を与えることなどからみて,被上告人が大阪労働局に偽装請負の事実を申告したことに対する報復等の不当な動機によって命じられたものと推認される。したがって,上告人が被上告人に対してした解雇又は雇止めの意思表示に加えて,上告人が被上告人にリペア作業への従事を命じたことも不法行為を構成する。

派遣労働者を受け入れる時に注意すること

 その他にも、派遣先の会社は、派遣契約の打切りについて派遣労働者に対する説明責任を果たしていないときや、派遣契約の中途解約が信義則上配慮を欠く時期や態様で行われている場合には、派遣先会社に不法行為が成立する可能性があります。

 派遣元から派遣されている労働者といえども、自社のために働いてくれている労働者ですから、直接雇用の従業員に対する配慮と同じような配慮をしたいものですね。

 そして、結局、それが回り回って会社のためになるのです。

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