ドレミファソーダ! タイトル先行の妙技
曲を作る時にはある程度のセオリーがあり、そのセオリー通りに作られることが多い。その中でも基本的なものとして大きく2つ。曲先と詞先と呼ばれる作風が挙げられる。
曲先はメロディー、もしくはコードから曲を作るタイプ。まだ歌詞はない状態でラ〜ラ〜ラ〜♪という感じでメロディーを作る。できたメロディーに後から歌詞を載せていくのだ。
詞先は歌詞をまず作る。言いたいこと、書きたいこと、伝えたいことがある場合はこのタイプになるであろう。できた歌詞をうまく伝えるためのコードやメロディーを後から載せていき曲を完成させていく。
ここからはオレの勝手な考察だが、実はこの2つの大きなパターンとはまた違うタイプがたまに存在すると思っている。それがタイトル先というタイプだ。このネーミングはオレが勝手に名づけてみたのだが、実際にこのパターンがあるのかどうかは分からない。けれど、これはおそらくタイトル先なんじゃないか?という曲がある。まず曲のタイトルありきで、そのタイトルに合った歌詞、メロディーを後ではめていくパターンだ。まず先にタイトルとしてのインパクトのあるワードが閃いた場合、まれにこのパターンで作られることがあるんじゃないかと思っている。
ちなみにオレのコラムはいつもまずタイトルから考え、その後に内容や構成を作っていくというまさにタイトル先のコラムだったりする。
ここからはオレの勝手な思い込みなので実際にはどうかは分からないが、銀蝿一家の曲達の中で、これタイトル先じゃねぇかな?と思うのはいくつかある。
例えば横浜銀蝿でいうと、「銀ばるRock'n Roll」や「おまえにピタッ!」あたりがまずはタイトルありきで作られたような気がしている。「銀ばるっきゃない!」という言葉が当時の銀蝿一家ファンの中では当たり前のように使われていたある種の流行り言葉だったわけで、この「銀ばる」をタイトルにして曲を作ってみた感じだろう。「おまえにピタッ!」は化粧品メーカー・カネボウ化粧品の1983年秋のキャンペーン「パウダーチェンジ ピタッ!」のイメージソングソングということで、元々ピタッ!というフレーズありきで曲制作が行われたことが想像できる。さらに紅麗威甦でいうと「ぶりっこRock'n Roll」。当時は松田聖子などの影響で「ぶりっこ」というワードが流行っていたので、このワードで曲にしてしまおうという考えから生まれた曲だと思う。嶋大輔でいうと「SEXY気分の夜だから」なんてのはタイトル先行の曲だと言える。
さて、今回のテーマ「タイトル先」にぴったりな曲があるので紹介しよう。それは岩井小百合のファーストアルバム「銀蝿一家中学3年7組いわいさゆり」に収録された「ドレミファソーダ!」という曲だ。なんともキャッチーなワードで、アイドルとして売り出していた岩井小百合にはぴったりの曲名である。おそらくまずはこのワードが思いつき、そのままこのタイトルに沿った歌詞を作り上げていったパターンだと思われる。では歌詞を見てみよう。
ドレミファソーダ!
二人でいると 時計の針が
いつもよりも 速くなる
どうしてかしら… どうして…
はじめて入った 白いテラス
もう少しいいねと あなたが言った
どうしようかな… どうしよう…
ドレミファソーダにそ・う・だ・ん
飲んでる間に アイ・エヌ・ジー
ドレミファソーダにそ・う・だ・ん
はっきり言って
帰りたくない 私がこわいの
一秒間の 夢の世界へ
迷う 寒い 迷う
行ったり来たりで ゴメンゴメンゴメン
やっぱり帰ると 私言ったら
あなたはどんな 顔するの
おこんないかな… ないかな…
ドレミファソーダにそ・う・だ・ん
飲んでる間に アイ・エヌ・ジー
ドレミファソーダにそ・う・だ・ん
はっきり言って
帰りたくない 私がこわいの
一秒間の 夢の世界へ
迷う 寒い 迷う
行ったり来たりで ゴメンゴメンゴメン
実にアイドルっぽい可愛らしい歌詞だ。まだこの時14歳の岩井小百合がはじめてのデートでどうしていいか分からなくてモジモジしている姿が浮かぶ。飲んでいるのはクリームソーダかなにかのソーダ系だ。14歳はまだコーヒーや紅茶は頼む年頃ではない。揺れてる少女の想いが実にうまく表現されている。サビの最後、ゴメンゴメンゴメン♪って部分が本当に可愛くて、当時キュンときたことを懐かしく思い出した。
この曲の作詞は有名な作詞家の三浦徳子さんだ。三浦徳子さんといえば歌謡曲やアイドルの作詞を数多く手掛けているレジェンドだ。吉川晃司、河合奈保子、工藤静香、小泉今日子、少年隊、田原俊彦、中森明菜、光GENJI、松田聖子などなど。ここに全部書き出すのは到底無理な程の作品を手掛けている。超大物作詞家だ。そのおかげもあって「ドレミファソーダ!」はかなり王道のアイドルポップソングとなっている。
ここからはオレのお得意の想像だけれど、三浦徳子さんはまず14歳の女の子が初デートで飲むのはクリームソーダか何かで、ドキドキしてどうしたらいいか分からずあたふたしているいる姿を想像したんだと思う。
「ドレミファソーダ!」というタイトルが浮かび、「ドレミファソーダにそ・う・だ・ん」というこのキラーフレーズに行き着いた時点でこの曲はすでにほぼ完成している。あとはソーダを想像させる泡がぶくぶくしてるような音をイントロやアウトロに混ぜて一丁あがりといったところか。
今日は曲名と歌詞ばかりを語っているが、亀井登志夫さんの作曲したこの曲の曲調やメロディーも抜群であることを付け加えておく。曲名、歌詞、メロディーと全てが岩井小百合のアイドルとしてのアーティストイメージとぴったりと合致している。
もし、オレの考えるタイトル先というものが本当に存在するのなら、この「ドレミファソーダ!」はまさにタイトル先の王道と言えるのではないか。そのくらいこの「ドレミファソーダ!」というタイトルはインパクトがあっていい。
以前書いた通り、岩井小百合は横浜銀蝿の妹分・マスコットガールという一面を背負いながらトップアイドルへの挑戦をしたというまさにパラレルガールだ。
もしかしたら、岩井小百合にはタイトル先行の曲は多かったのかもしれない。岩井小百合に合ったような可愛らしいタイトルをまず考えていく。そう考えると「ボーイフレンド作戦」や岩井小百合本人作詞の「横浜♡チ・ッ・ク」などなどタイトルから考えたような曲が多い気がする。
これが横浜銀蝿や紅麗威甦だとタイトルにRock'n Rollをつけることが容易なので、「銀ばるRock'n Roll」や「ぶりっこRock'n Roll」などのようにいくらでもタイトルは浮かぶ。「なぞなぞRock'n Roll」や「DJ Rock'n Roll」などもそうだろう。
そう考えると、曲名にRock'n Rollをつけづらい岩井小百合は曲名には特に気を使ったのではないだろうか。しかしそれが結果的にタイトル先の宝庫となったように思う。
今日の考察は、曲を作った本人に聞くしか答えが出ないような勝手な話だが、そもそもこの「タイトル先」という発想にたどり着いたのは、「ドレミファソーダ!」ってタイトルいかしてるよなぁ〜とふと思ったことから始まっている。
歌い手の気持ちを考えることは誰にでもあることかもしれないが、曲の作り手のことまで考えて曲を聞いているのは我ながらキモい。大輔と哲太に「まったくビョーキだぜ!」って言われそうである。ただ、そこまで深く考えてしまうくらい銀蝿一家との付き合いが長いということで許して欲しい。
it's only Rock'n Roll
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