映画クレヨンしんちゃんの歴史と脚本の傾向
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映画クレヨンしんちゃんの歴史と脚本の傾向

街河ヒカリ

歴代の映画クレヨンしんちゃんの原恵一監督作品とうえのきみこ脚本作品のおもしろさに注目します。つまらなかった作品には『君の名は。』と共通点があったことを考察します。興行収入とレビューの点数をグラフにします。これがこの記事の要点です。この記事は全文が無料で約6000字あります。名乗り遅れましたが、街河ヒカリと申します。

第1作(1993年)~第4作(1996年)・「初期」

第1作/1993年/アクション仮面VSハイグレ魔王
第2作/1994年/ブリブリ王国の秘宝
第3作/1995年/雲黒斎の野望
第4作/1996年/ヘンダーランドの大冒険

『アクション仮面VSハイグレ魔王』から『ヘンダーランドの大冒険』までを「初期」を呼ぶことにします。「初期」にはほのぼのとした雰囲気があり、敵との戦いでは緊張感と必死さが弱い傾向にありました。それがクレヨンしんちゃんの良さだと肯定的に評価する人たちもいます。世界の危機に直面した人物たちとしんのすけたちが偶然にも出会い(偶然と言っていいか微妙ですが)、力を合わせて世界の危機に立ち向かうというストーリーが定番でした。魔法、タイムスリップ、壺に封印された魔神のように、アニメならではの非現実的な設定がありました。

「初期」の4作すべてで本郷みつるさんが監督を務めました。第1作ではもとひら了さんが脚本を担当し、第2・3・4作では本郷みつるさんと原恵一さんが共に脚本を担当しました。

第1作『アクション仮面VSハイグレ魔王』は興行収入22.2億円を記録し、その後もクレヨンしんちゃんの映画の中で興行収入1位の座を維持しました。
2015年に『オラの引越し物語 サボテン大襲撃』が興行収入22.9億円を記録し、歴代1位の座を入れ替えました。

第5作(1997年)~第10作(2002年)・「原恵一監督黄金期」

第5作/1997年/暗黒タマタマ大追跡
第6作/1998年/電撃!ブタのヒヅメ大作戦
第7作/1999年/爆発!温泉わくわく大決戦
第8作/2000年/嵐を呼ぶジャングル
第9作/2001年/嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲
第10作/2002年/嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦

1997年の第5作『暗黒タマタマ大追跡』から2002年の第10作『嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』までは全作品において監督と脚本の両方を原恵一さんが務めました。興行収入が振るわなかった作品があったのの、この時期の映画クレヨンしんちゃんはファンから高く評価されています。よってこの時期を「原恵一監督黄金期」と呼ぶことにします。

中でも『電撃!ブタのヒヅメ大作戦』はファンから「最もクレヨンしんちゃんらしい」「最もバランスに優れている」と絶賛されています。私も同じ評価をしています。

電撃!ブタのヒヅメ大作戦large

画像出典:Amazon Prime Video( https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B019A6B5QC/ )

冒頭から飛行船と銃撃戦と肉弾戦が大迫力です。綺麗なお姉さんと筋肉ムキムキの男。絶対に子どもを探し出すみさえとひろしの執念。深刻な状況でものんびりしているしんのすけ。そんなしんのすけのペースに飲み込まれる敵。うけを狙ってすべる敵。かすかべ防衛隊のみんなに方向性を示す賢いボーちゃん。毎度お決まりの「かすかべ防衛隊、ファイヤー!」。突然現れた変なおじさん。

魔法や超能力に頼らず生身の体を動かして闘うからこそ、登場人物の個性と創意工夫が輝きました。

『電撃!ブタのヒヅメ大作戦』には映画クレヨンしんちゃんのすべての要素があります。家族愛、友情、アクション、くだらなさ、笑い、感動。

ところで、『電撃!ブタのヒヅメ大作戦』に登場する組織の名前は「SML」で、これは「せいぎの みかた ラブ」の略称です。終盤ではぶりぶりざえもんがストーリーを大きく動かします。ぶりぶりざえもんは「救いのヒーロー」です。「正義」と「救い」の対比が興味深い。しかしこれについて考え始めると膨大な字数になるので、書かないでおこう。

クレヨンしんちゃんのファンでない方々からも広く知られている『嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』と『嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』の2作も原恵一監督によって作られました。歴代の映画クレヨンしんちゃんで最高傑作と名高い2作ですが、『嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』はファンからは例外視される傾向にあります。

嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲

画像出典:Amazon Prime Video( https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B019A6BWEM/ )

『嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』は、くだらなさと感動の両方の要素がありますが、『嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』はくだらなさが抑えられ、感動に振り切っています。テレビアニメのメインキャラの中で『嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』のメインキャラとなったキャラは野原一家だけであり、野原一家であるひまわりとシロさえもストーリーに深く関わりませんでした。かすかべ防衛隊の登場場面はほとんどありませんでした。

私も『嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』を高く評価していますが、クレヨンしんちゃんらしさは薄いと考えています。

原恵一さんは『嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦』を最後に、映画クレヨンしんちゃんの監督・脚本から退きました。

嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦

画像出典:Amazon Prime Video( https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B019A6BYYK/ )

第11作(2003年)~第20作(2012年)・「設定拡大期」

第11作/2003年/嵐を呼ぶ 栄光のヤキニクロード
第12作/2004年/嵐を呼ぶ!夕陽のカスカベボーイズ
第13作/2005年/伝説を呼ぶブリブリ 3分ポッキリ大進撃
第14作/2006年/伝説を呼ぶ 踊れ!アミーゴ!
第15作/2007年/嵐を呼ぶ 歌うケツだけ爆弾!
第16作/2008年/ちょー嵐を呼ぶ 金矛の勇者
第17作/2009年/オタケベ!カスカベ野生王国
第18作/2010年/超時空!嵐を呼ぶオラの花嫁
第19作/2011年/嵐を呼ぶ黄金のスパイ大作戦
第20作/2012年/嵐を呼ぶ!オラと宇宙のプリンセス

この時期の特徴は、設定の幅を広げたことです。クレヨンしんちゃんのキャラが映画の世界に迷い込んだ『嵐を呼ぶ!夕陽のカスカベボーイズ』、ホラー路線の『伝説を呼ぶ 踊れ!アミーゴ!』、シロが中心になった『嵐を呼ぶ 歌うケツだけ爆弾!』、他にも多数の作品で新しい設定が使われました。

よってこの時期を「設定拡大期」と呼ぶことにします。

「設定拡大期」は、原恵一さんが監督と脚本から退いた後の時期に相当します。原恵一さんが退いてから映画クレヨンしんちゃんは停滞しました。この記事はクレヨンしんちゃん制作者の方々にも読まれるかもしれませんし、制作者を名指しで批判することは避けますが、私はこの時期の映画クレヨンしんちゃんがつまらないと思いました。

映画クレヨンしんちゃんのグラフの画像

グラフ編集・街河ヒカリ。興行収入の出典はWikipediaの「クレヨンしんちゃん (アニメ)」。評価の点数として使用したデータはAmazon Prime Videoのカスタマーレビューの平均点数のため、DVDまたはBlu-rayのカスタマーレビューの点数ではありません。2020年5月5日時点のデータを使用しました。私のグラフを使用したい方は事前に連絡をお願いします。

興行収入だけを見ると「設定拡大期」の作品が「原恵一監督黄金期」の作品を上回ったことがあったものの、やはりAmazon Primeのカスタマーレビューでは低い点数を付けられました。他のレビューでも同様です。

設定の幅を広げたことは悪くありませんが、設定が曖昧で説明不足でした。敵は何を目指しているのか?なぜ敵を倒すことができたのか?その世界はどのように成り立っているのか?それらが分からないまま終わってしまった作品がありました。

敵を倒したことがただの偶然だったこともありました。それではしんのすけたちが自分の力で倒したことにはなりません。

キャラの個性がきちんと活かさせていないことも、つまらなさの原因でした。一人一人の性格や長所や短所がストーリーの駆動力になればもっと面白くなったはずです。敵の性格が悪すぎたため、私は観ていてイライラしたこともありました。「しんのすけやひろしやみさえはこんな性格だった?」と違和感を抱いたこともありました。

ここまで私は「設定拡大期」の作品がつまらなかった理由を長々と書きましたが、もっと短い語句でまとめることができます。

つまらなかった理由は、「カタワレ系」だからです。

「カタワレ系」は、私が作った言葉です。私は映画『君の名は。』の性質に「カタワレ系」と名前をつけました。そして「カタワレ系」が他の作品にもあることを考察しました。

「カタワレ系」は次の4件をすべて満たす性質、または性質を有する作品です。

1件目に、根拠や理由の解明を目指さない。2件目に、論理性、合理性、人の個性を重視せず、状況を重視する。3件目に、その状況内だけで成立する前提を無抵抗に受け入れる。4件目に、その状況に対応した感情を抱く。

さらに詳しく知りたい方は私の記事「君の名は。がヒットした理由である状況重視と非論理性と無個性を「カタワレ系」と名づけた。」をお読みになってください。

「カタワレ系」には良い面と悪い面がありますが、「設定拡大期」の映画クレヨンしんちゃんでは悪い面ばかりが現れたためつまらなかったのだと私は解釈しました。

第21作(2013年)~第27作(2019年)・「再興期」

第21作/2013年/バカうまっ!B級グルメサバイバル!!
第22作/2014年/ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん
第23作/2015年/オラの引越し物語 サボテン大襲撃
第24作/2016年/爆睡!ユメミーワールド大突撃
第25作/2017年/襲来!!宇宙人シリリ
第26作/2018年/爆盛!カンフーボーイズ~拉麺大乱~
第27作/2019年/新婚旅行ハリケーン~失われたひろし~

2013年の第21作『クレヨンしんちゃん バカうまっ!B級グルメサバイバル!!』から盛り返しました。もう一度グラフをご覧ください。

2013年から2019年までを「再興期」と呼ぶことにします。「最高」の変換ミスではありません。「再興期」ではキャラ一人一人の個性が際立ち、ストーリーの見せ場があり、キャラが自分の力でストーリーを動かしていることが伝わってきました。感動とくだらなさの両方があり、クレヨンしんちゃんらしさがこってりと濃くなりました。余談ですが、しんちゃんは「すっかり忘れてました」を「こってり忘れてました」と言う癖があります。

バカうまっ!B級グルメサバイバル!!

画像出典:Amazon Prime Video( https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B019A6BVUM/ )

『クレヨンしんちゃん バカうまっ!B級グルメサバイバル!!』の脚本を担当した方が、浦沢義雄さんとうえのきみこさんでした。うえのきみこさんはテレビアニメのクレヨンしんちゃんの脚本も担当しています。

うえのきみこさんは2015年の第23作『オラの引越し物語 サボテン大襲撃』、2018年の第26作『爆盛!カンフーボーイズ〜拉麺大乱〜』、2019年の第27作『新婚旅行ハリケーン〜失われたひろし〜』でも脚本を担当されました。『オラの引越し物語 サボテン大襲撃』は興行収入22.9億円を記録し、歴代1位であり続けた『アクション仮面VSハイグレ魔王』を超えました。

うえのきみこさんの脚本が、停滞していた映画クレヨンしんちゃんを再興させたのだと私は解釈しています。

うえのきみこさんは、映画ではありませんがAmazonで配信された(その後DVDが発売された)2016年の『クレヨンしんちゃん外伝 エイリアン vs. しんのすけ』、2016年の『クレヨンしんちゃん外伝 おもちゃウォーズ』、2017年の『クレヨンしんちゃん外伝 家族連れ狼』でも脚本を担当されました。

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画像出典:テレビ朝日( https://www.tv-asahi.co.jp/shinchan/contents/news/0032/ )

中でも『おもちゃウォーズ』はAmazon Prime Videoのレビューで平均4.3点を獲得したほど高く評価されています。私も『おもちゃウォーズ』について記事を書いたことがありました。

クレヨンしんちゃん『おもちゃウォーズ』は『オトナ帝国の逆襲』と対を成す

もう一人、私が注目している方がいます。川辺美奈子さんです。川辺美奈子さんはテレビアニメのクレヨンしんちゃんの脚本を担当されています。川辺美奈子さんが脚本の回はおもしろかったので、私は以前から注目していました。

その脚本の魅力は、テンポの良さ、だじゃれのような言葉遊びのようなネタ、そのネタの意味が少し分かりづらいこと、かすかべ防衛隊のコントのような掛け合い、個性が活かされていること、などがあると思います。

川辺美奈子さんが映画クレヨンしんちゃんの脚本を担当されたことはありません(間違っていたら教えてください)。

私はぜひ川辺美奈子さんかうえのきみこさんに、今後の映画クレヨンしんちゃんの脚本を執筆していただきたいと思います。

さて、最新作である第28作『激突! ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』は、監督が京極尚彦さん、脚本は高田亮さんと京極尚彦さんです。2020年4月24日公開予定でしたが、新型コロナウイルスの感染拡大のため公開延期が発表されました。2020年8月1日に、公開日は9月11日であると発表されました。

【2020年9月12日に追記】

私は『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』を観たので、記事を書きました。

『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』は斬新で自由な冒険活劇


参考文献と謝辞

私はこの記事を書くにあたり、洋泉社の雑誌『映画秘宝ex 劇場アニメの新時代』(2017年4月21日発行)に掲載された記事である「『映画クレヨンしんちゃん』25年のあゆみ」を参考にしました。出版社である洋泉社は親会社である宝島社に合併吸収されたので、雑誌『映画秘宝ex 劇場アニメの新時代』の出版が終了したようです。中古であれば入手できるようです。

「はろーぐっばい」さんは、「死ぬまで生きる問題」というブログでクレヨンしんちゃんのほとんどの映画について記事を執筆されました。私は今回の記事を書くため、多くのことを学ばせていただきました。皆様もぜひお読みください。はろーぐっばいさん、ありがとうございます。

以上です。今後も街河ヒカリをよろしくお願いします。

クレヨンしんちゃんについての企画をお待ちしております。

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街河ヒカリ
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