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『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』は斬新で自由な冒険活劇

ぶりぶりざえもんがずるいけど大活躍!『ほぼ四人』ってそういう意味か!しんのすけはやっぱり友達想いだ。展開が速く、最後まで自由に走り抜ける。夢いっぱいのラクガキングダムが美しい。野原一家とかすかべ防衛隊が中心ではないから過去作とは違うが、これもまた良い。これが『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』を観た私の感想です。

『激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』は映画クレヨンしんちゃんの第28作であり、2020年9月11日に公開されました。監督は『ラブライブ!』の監督として有名な京極尚彦(きょうごく たかひこ)さんです。脚本は高田亮(たかだ りょう)さんと京極尚彦さんです。

『激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』はかなり評判がいいようです。

この記事では、歴代の映画クレヨンしんちゃんをすべて観た私、街河ヒカリが『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』を観て抱いた感想と分析したことを書いています。また、京極尚彦監督へのインタビュー記事からの引用もあります。この記事は約4300字あり、全文無料です。

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これ以降では映画の詳細(ネタバレ)を記述していますのでご注意ください。

ここからネタバレです。

オープニングにクレイアニメがない

映画クレヨンしんちゃんでは、オープニングソングでクレイアニメ(粘土アニメ)が使われることが定番でした。しかし『激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』は冒頭でゆずの曲「マスカット」が流れたとき、クレイアニメではない通常のアニメが使われました。

しかもクレヨンしんちゃんのアニメの作風とは違うラクガキが、宇宙に散らばる星たちのように輝いていました。

冒頭でクレヨンしんちゃんのファンは驚いたかもしれません。私は驚きました。

今回はエンディングテーマとしてレキシの曲「ギガアイシテル」が流れたとき、クレイアニメが使われました。


夢いっぱいの絵が美しい

冒頭の「マスカット」が流れた場面でマサオくんが見ていたラクガキは、現実の子どもが描いた絵です。その後もラクガキが登場します。

劇場用パンフレットによると「今回登場するたくさんのラクガキは、春日部の幼稚園、保育園、小学校にお願いをして、そこに通う児童たちに描いてもらいました。」とのことです。

映画が始まってすぐ、ラクガキングダムの姫(ラクガキ応援大使)が登場してさっそく盛り上がりました。姫が部屋から部屋へと走り、隠し階段を駆け上がり、ミラクルクレヨンに到達するまでの流れでは、アニメだからできる夢いっぱいの世界が描かれました。美しい!

姫の声優はきゃりーぱみゅぱみゅです。このキャラを演じるならきゃりーぱみゅぱみゅが世界で一番ふさわしい。きゃりーちゃんの声がかわいかった。

ラクガキングダムのエナジー大臣、魔法使い、スプレー兵士、ローラー兵士たちは、従来のクレヨンしんちゃんとは異なる絵柄で描かれています。平面的なのです。これを「チグハグだ」「クレヨンしんちゃんの雰囲気に馴染まない」と感じた人がいるかもしれませんが、ラクガキらしさを強調する効果があるので、私はチグハグでいいと思いますし、肯定的に捉えています。

ラクガキングダムのキャラクターを作った方は、ぬQさんと姫田真武(ひめだまなぶ)さんです。

ラクガキングダムのコンセプトデザイン、つまりお城のデザインは久野遥子(くのようこ)さんです。

「ラクガキワークス」を担当した方は飯塚智香(いいづかちか)さんです。ラクガキングダムでラクガキが歌って踊る場面と、冒頭のマサオくんがラクガキをするバーチャルリアリティの場面を担当したそうです(間違っていたら教えてください)。

「自由を大切にする」というテーマが、ラクガキングダムの突拍子もないカラフルな絵と、現実の子どもが描いた絵の両方によって、自己言及的に表出しています。

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画像出典:東宝オフィシャルサイト(https://www.toho.co.jp/movie/lineup/shinchan-movie2020.html)


展開が速い

『激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』の特徴はまだまだあります。一つは、展開の速さです。

前半でラクガキングダムのラクガキ兵士たちが地上に降り春日部を制圧する場面はスター・ウォーズのようでした。瞬く前に春日部が大ピンチになり、紙ヒコーキになったしんのすけは富士山麓まで飛んでしまいます。ファンたちから愛されている(愛されている?)ぶりぶりざえもんがしんのすけのラクガキとして誕生し、しんのすけたちは立ち止まらずにどんどん前へ進みます。作品全体を通し、疾走感がありました。映画を観ている私はラストまでまったく退屈しませんでした。


友達想いのしんのすけ

従来のほとんどの作品では、野原一家やかすかべ防衛隊の団結がストーリーの軸でした。しかし『激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』はしんのすけ、ブリーフ、ニセななこ、ぶりぶりざえもん、ユウマの5人がストーリーを進めていきます。

富士山麓から春日部を目指して旅をする過程をロードムービーと呼ぶのでしょうか。

しんのすけはぶりぶりざえもんとチャンバラで遊びます。みんなでびわを食べ、しんのすけはななこにびわを手渡します。みんなで夕日を眺めます。なお、劇場用パンフレットの説明によると夕日を眺めた場所は大明神展望台です。この一連の流れではセリフがなかったものの、互いの繋がりが強くなっていくことを実感できました。

次に辿り着いた相模湖畔では、おいしい匂いに釣られて居酒屋「珍珍海」(名前が下品だ)に入り、ユウマに出会います。ぶりぶりざえもんを「ブタの丸焼き」にして電車に乗るときでは映画館の観客から笑いが起きました。

野原一家やかすかべ防衛隊を中心にせず、映画のオリジナルキャラを中心にしたからこそ、初対面の人ともすぐ打ち解け、友達を大切にするしんのすけの個性が伝わってきました。

従来の作品とはストーリーと雰囲気が異なるため戸惑ったファンもいるかもしれませんが、私は納得できました。

劇場用パンフレットに京極尚彦監督へのインタビューが掲載されているので引用します。

のびのびとした子供らしさを大事に、映画1作目の『アクション仮面VSハイグレ魔王』のような雰囲気がある、しんちゃんがひとり立つ、オーソドックスな冒険活劇を作ろう。そう思ったんです。
(劇場用パンフレットから引用)


ぶりぶりざえもんが大活躍

相変わらずぶりぶりざえもんはずるい!ピンチになると逃げようとするし、裏切って敵側に付こうとする。そしてまた戻ってくる。終盤でぶりぶりざえもんはミラクルクレヨンを奪い、また敵側に付こうとする!でも結局はユウマのためにミラクルクレヨンを投げ渡し、バイクに乗って逃げた。いや、これは逃げたんじゃなくて敵をユウマたちから引き離すために囮になったのか?

最後にはしんのすけたちが描いた大きなぶりぶりざえもんが立ち上がり、春日部を救います。やはり「救いのヒーロー」だった!

こうしてみんなを救うシーンは、『映画クレヨンしんちゃん 電撃!ブタのヒヅメ大作戦』のラストでぶりぶりざえもんがみんなを救うシーンにも似ています。

ちなみに従来のぶりぶりざえもんは「お助け料100億万円ローンも可」が口癖でした(金額はいろいろですが)。それが今回は「キャッシュレスも可」に変わってました!時代を反映していますね!


『ほぼ四人の勇者』の意味

映画のタイトルは『ほぼ四人の勇者』です。映画の前半では「ブリーフ、ニセななこ、ぶりぶりざえもん、しんのすけの四人が勇者」と思わせておきながら、映画の最後でこの意味が回収されました。最後にしんのすけがななこと一緒に食事をするとき、しんのすけが描いた絵がテーブルの上にありました。その絵はしんのすけにとっての「四人の勇者」である、ブリーフ、ニセななこ、ぶりぶりざえもん、そしてユウマでした。

ここでタイトルの『ほぼ四人の勇者』の意味がやっと分かります。

しんのすけは「オラが勇者だゾ!」と自己中心的に行動する子どもじゃない。最初から最後までずっと、友達想いな子どもでした。ユウマは選ばれし者でもなく魔法も特殊能力も何もありませんが、しんのすけにとってはユウマが勇者でした。

劇場用パンフレットから監督へのインタビューを引用します。

ユウマはしんちゃんに救われる象徴なんです。最後にラクガキたちはいなくなりますが、ユウマだけは残る。つまりユウマがいることで、しんちゃんの頑張りは証明されるんです。ユウマにとって、しんちゃん、ニセななこ、ブリーフ、ぶりぶりざえもんは勇者ですけど、しんちゃんから見ると、ユウマ、ニセななこ、ブリーフ、ぶりぶりざえもんが勇者となる。それぞれに<四人の勇者>は違うんです。そういう意味では「ほぼ四人の勇者」ってすごくいいタイトルだと思います。そこにはみんながお互いを尊敬し合っている意味も込められていますから。
(劇場用パンフレットから引用)


次回作

エンディングテーマの後には次回作の予告映像があり、そこでは「青春はミステリー」と言っていました(間違っていたら教えてください)。しんのすけが登場し、地面に人型の模様が白線があり、事件現場のようでした。白線が風間くんの形に見えたような気がしました。しかしそれ以外にはタイトルも何も情報がありませんでした。次回作はいったいどんな作品なのでしょう。


以上です。ありがとうございました。

この記事のヘッダー画像には、クレヨンしんちゃん公式ポータルサイトの画像を使用しました。

『ラクガキングダム』を観る前に私は歴代の映画の変遷をまとめた記事を書いたので、皆様にお読み頂けますと幸いです。

映画クレヨンしんちゃんの歴史と脚本の傾向

私は『おもちゃウォーズ』の記事も書きました。

クレヨンしんちゃん『おもちゃウォーズ』は『オトナ帝国の逆襲』と対を成す


参考文献

本記事を執筆するにあたり、劇場用パンフレット(プログラム)と『クレヨンしんちゃん大全 2020年増補版』(双葉社)を参考にしました。

映画『激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』は、原作マンガ『クレヨンしんちゃん』に掲載された『ミラクル・マーカーしんのすけ』というわずか6ページのおはなしが元になっています。劇場用パンフレットには『ミラクル・マーカーしんのすけ』6ページすべてが掲載されています。

以上です。クレヨンしんちゃんの企画をお待ちしております。

今後も街河ヒカリをよろしくお願いします。

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