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スキルではなく心を育てる(2)

前回の原稿では、我が家の子どもたちが平日の午後の時間をどう過ごしているのかを紹介しながら、デンマークの子どもたちがいかに自由に遊んでいるかについて書いた。日本の幼稚園児や小学生の習い事事情も紹介したが、そこから垣間見えるのは、子どもの自由時間を何らかの「能力やスキルを育てる」ことに費やそうとしていること。それは、「子どもの能力開発の責任は親にあり」というプレッシャーから来ているようにも見える。

それと比べると、デンマークの親たちのアプローチはかなり異なっている。子どもが小さいうちからスキルや学習能力を育てることには、ほとんど関心を持っていないのだ。

じゃあ何をやろうとしているの?ということをデンマークの親にストレートに聞いても、いつもぼんやりとした話になるのだが、「心を育てようとしている」と捉えるとわかりやすい、と私は思ってきた。そしてそれが、実は合理的な考え方でもあるように見えるのである。


“ゆっくりであればあるほどいい”という価値観

私は長女の出産直前にデンマークに移住し、その後、長男もデンマークで出産した。なので、私が知る子育ての現場はデンマークだけなのだが、ここでの子育ての考え方をよく表しているなと思うのが「子どもでいられるうちは、子どもらしく」という表現である。

とにかく、子どもの成長を急がせない。むしろ、ゆっくりであればあるほどいい、と思っているようで、日本でよく感じるような、早さ=優秀さ、とは全く考えていないようだ。おむつやおしゃぶりを外すのも、日本と比べるとかなりのスローペース。日本では2歳でトイレトレーニングに取り組み始めるのは普通だと思うが、米国人の友人が2歳の息子のオムツ外しに取り組んでいたら、「無理させて子どものトラウマになったらどうするの」とデンマーク人に言われて仰天したらしい。

子どもが小さいうちから何かのスキルを身につけさせる、ということに価値を置いていないので、前回の記事で紹介した日本の習い事の状況ともかなり事情が異なっている。他人に言われてやらされるのが”お仕事”の時間だとすると、そういうお仕事時間はできるだけゼロにしよう、と考えているようなのだ。

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