【過去記事】10 years after: 1996 NBA Finals①
10 years afterは、ベースボール・マガジン社から出版されていた「NBA新世紀」という雑誌の企画で、年に1回、その10年前のNBAファイナルを振り返り、当時の選手やコーチたちが10年たって何をしていて、10年前のNBAファイナルを振り返ってどう思うかを描くシリーズ。2003年から2006年まで4回続けさせてもらいました。取材は簡単ではなかったけれど、思い出深く、やりがいがあるシリーズでした。
今回は、そのシリーズの中から2006年に書いた1996年NBAファイナルシカゴ・ブルズ対シアトル・スーパーソニックスの記事を、4回(*)に分けて掲載します。
1回目の話題は1995-96シーズンのブルズの72勝10敗という記録について。この記事を書いたときから14年たった今読むと、ちょっとした運命のめぐりあわせを感じて、さらに味わい深い(?)内容になっています。そのことについては、文章の後に補足します。
* 当初3回としていましたが、4回に増やしました。
10 Years After──十年後の視点
1996 NBAファイナル
シカゴ・ブルズ対シアトル・スーパーソニックス①
「NBA新世紀」Vol.17(スポーツマガジン2006年5月号)掲載
(ベースボール・マガジン社)
「72勝」をめぐる10年後の不思議な縁
1996年のNBAファイナルを語る前に、その年にシカゴ・ブルズが送った記録的なレギュラーシーズンに触れないわけにはいかない。72勝10敗――今でも、NBAの1シーズン最多勝利として残っている記録だ。
奇しくもあれから10年後の今シーズン序盤戦、デトロイト・ピストンズが、その記録を破りそうな勢いで連勝していた。
当時、ブルズの一員だったジャド・ブシュラーは、アリゾナ大学とブルズでのチームメイトで親友、そして今もサンディエゴで近所に住むスティーブ・カーに向かって、心配そうに言った。
「スティーブ、このままだとピストンズは僕らの記録を破るんじゃないだろうか」
結局、ブシュラーの心配は単なる取り越し苦労に過ぎず、ピストンズは3月4日、シーズン59試合目で11敗目を喫し、ブルズの記録を破ることが不可能となった。
そして、このシーズン11敗目の相手は奇しくも、96年当時ブルズのヘッドコーチだったフィル・ジャクソンが率いるロサンゼルス・レイカーズだった。今季は5割前後を行ったり来たりという平凡な成績のレイカーズだが、リーグ首位のピストンズ相手に、「今季最高の出来」(ジャクソン)という試合を戦い、105対94でピストンズを下した。
おそらく、レイカーズの選手は誰もその試合の勝利と10年前のブルズの記録とのつながりには気付いていなかっただろう。でも、ジャクソンだけはその事実に気付いていた。試合後の記者会見で、そのことについて聞かれたジャクソンは、「(試合が終わって)ロッカールームに戻る廊下でそのことを考えていた」と言い、ニヤっと笑った。
その翌日、10年前のブルズの記録について、さらにジャクソンに聞いてみた。
「別に何がなんでもあの記録を守らなくてはいけないとか、そういう気持ちでいるわけではないんだ」とジャクソンは言う。
「でも、私たちにその(記録を不可能にする)機会があったということは興味深いと思った。いつの日か、誰かが私たちのあの記録を破る日は来ると思う。記録は私たちが永遠に持っているものではない」
さすがに達観しているジャクソンらしいコメントだと思っていたら、そのあとジャクソンは「でも」と言葉を続けた。
「自分たちでピストンズを記録の向こう側に追いやることができたというのは、正直言って、少し楽しいことではあったね」
ジャクソンは「いつか破られる記録」と言うが、スティーブ・カーは今季のピストンズによって、むしろあの記録が決して破られることがないという確信を深めたという。
「あの記録を達成するためには、シーズン中にほんの少しの落ち込みもあってはいけない。1試合負けただけでも、そのあと7、8連勝してペースを取り戻さなくてはいけない。あのときのブルズが成し遂げたことは、今から考えても本当に信じられないことだったと思う」とカーは言う。
(②に続く)
10 years after: 1996 NBAファイナル
①「72勝」をめぐる10年後の不思議な縁
②「成功に魔法というものはない」
③マクミランの涙、ジョーダンの涙
④再びNBA復帰を目指すケンプの今
※前文で書いた話の続き。
NBAファンの方はご存知のように、ブルズが1995-96シーズンに作った72勝10敗の最多勝利記録は、それから20年後(つまり、この記事を書いた10年後)の2015-16シーズンにゴールデンステイト・ウォリアーズが73勝9敗で書き換えました。そして、そのウォリアーズを率いていたヘッドコーチは、2006年に「72勝10敗は決して破られることがない記録」と言っていたスティーブ・カー。運命とは不思議なものです。
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