あの時間、本当は夢だったのかもしれない

「中川正子さんっていう写真家さんがいて」
瀬戸内アートブックフェアという作品集やZINEを展示販売するイベントでお手伝いをしているとき、一緒に働くスタッフさんが教えてくれた。どうやら彼女のInstagramがあるらしい。早速検索してみる。「あ、好き」と思った。写真をタップしては文章を読んでを繰り返す。

肩に力を入れることなくすっと読める文章で、中川さんの目に映ったシーンと感情の描写を追っていくと、まるで小説のように、自分がそのシーンに入ったかのように感じるから不思議だ。やわらかい言葉のなかに、彼女の人生哲学というか信念のようなものが、爽やかに、でも力強く、存在している。

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https://www.instagram.com/p/B3t2aIRDWA4/

これはもう作品を見に行くしかない。彼女のブースに行くと、いた。この方だ、と一目で分かった。女性のお客さんと話し込んでいる会話が聞こえてくる。どうやら前のイベントでも会ったことがあるらしい。「そうだよね〜」と話に聴き入る彼女は、そこにある人やものを包み込むような、そんな声のトーンだった。

作品のサンプルを手に取りしばらくの間読み込んでいると、「その作品はね…」と声をかけてくれた。どうやら他のお客さんは帰ったよう。作品のコンセプトやきっかけ、取材中に感じたことを教えてくれたのち、私が首からかけているスタッフの目印を見て「出展しているの?」と聞いてくれた。

なぜだかは分からない。でもいつも自分のことはあまり話せないのに、言葉が溢れ出ていた。写真家さんのお手伝いで来ていること、一緒に働いているスタッフが中川さんのことを教えてくれたこと、Instagramの文章が好きでここに来たこと、毎日noteで文章を書いていること。「なにか活動とかお仕事とかしたくて(書いているの)?」という問いに、いつか仕事になったらうれしいし、こういう作品やZINEをつくりたいんです、と気づいたら口が話していた。

それからは書くことについてたくさんの話をした。どれくらいの時間をかけてInstagramを更新しているか。書く気分になれないときも一旦書き出せば筆が進むこと。毎日書き続けるためには体力がいること。恥ずかしながら村上春樹さんの小説を読んだことがない私に、彼は長編を書くために毎日10km走っていることを教えてくれた。

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短編「モキク」と「Rippling」の二冊を買った私にサインを提案してくれた彼女の右手の動きを追うと、黒いペン先が「Keep on writing」と記していた。何かがわっとこみ上げてくる。

「書き続けろ!って書いてあるんだけど」とチャーミングに笑ったあと、彼女がじっと私の目を見て伝えてくれたこと。

続けることは何よりも勝ると思うから


こんなことってあるのだろうか。noteを毎日書いてますと伝えた、ただそれだけなのに、言葉の奥にある複雑にからみあった感情をすくい上げてくれる、17文字。今の私にまさに必要な言葉がふってきた。そう言っても過言ではないくらいに。

あの時間は、本当は夢だったのかもしれない。そう本気で思うくらいにふわふわとした大変幸せな時間だった。続けることは何よりも勝ると思うから。この言葉はこの先ずっと私の糧になる。中川さんと中川さんの写真と言葉に出会えたのが今でよかった。今必要だったんだと、心からそう思う。





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