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【おくやみコーナーがあるならば】vol.1

「すべての命が、家族的なつながりの中で地域で始まり最後まで過ごしてほしい。」ナースさんとの出会いはこの言葉からだった。

2022年の冬、コロナの真っただ中で出会った人。

夫が胆管がんになり、大きな手術を受け、退院し術前の生活にできる限り近い状態を我が家の生活との距離感を自由自在に保ちながら作ってくださった方。( ※その流れはここに書き留めている。37話もあるのだが、もしご興味のある方はこちらからどうぞ。https://note.com/yoko6226/n/n352add970f31 )

夫はペースは落としつつも2023年の2月後半からは電車通勤までできるようになっていた。2月10日の彼のバースデーは、いつもお願いするケーキ屋さんに注文し美味しいケーキを家族と食べてお祝いができた。娘たちからも「来年もまたお誕生日祝いができるように、無理しないでね」と大切な言葉をもらっている。夫は娘たちからの言葉を目を閉じてかみしめるように聴き頷いている。

この頃のナースさんと夫のやり取りは、退院直後とはずいぶん違う。

ナースさん:小さいおにぎり、いくつか非常食や中間食にするのがいいです。 血糖に翻弄されやすい状態にはゆっくり吸収する糖質(炭水化物)が良くてお嫌いでなければ胚芽米、雑穀米、それにタンパク質のなにかのおにぎり鮭とか、おかかでも、好きな具なんでも。

夫:蒸しパンやおにぎりも食べています。小さなおにぎりも食べています。

ナースさん:とても良いですね。術後のからだは術前とは違い、内臓の機能に余力がない分以下の状況になる可能性があります。意識するのとしないのとでは大きく違います。

おにぎりを食べる

胃腸の仕事が忙しくなる
血液が内蔵に多く送られる

他の部位に使われにくい
脳→ねむくなる
全身→血行やや悪く
冷えやすい

内臓の忙しい時間をたすける
完全に横にならず
よりかかれる状態で
休む
うとうとしてもいい

そうしたくなるのが素直に身体の声をきくことです。軽い低血糖になりやすい可能性が高く、 自覚しにくいかもですが血糖やアドレナリンでイライラや焦燥感がでやすくなります。

夫:なるほど、わかりました。 そのような感覚に気をつけたいと思います。

この返答で夫の性格が出る。
ちょっと面倒だなと感じたことは良いお返事をして切り上げようとするのだ。彼は大きな病気をする前から自分の性格について触れられるととても嫌がっていた。自分の性格のネガティブと感じる部分を愛することがなかなか難しいようだった。「まぁ人間そういう部分もあるよね。」とゆるく受け止めることが難しい。「ダメな部分を指摘された」と反応してしまう。イライラ感の表出は病気になってから顕著に表れ始めていたので、周りの家族も対応に困っていたところだった。

ナースさん:これらのことを知っていると、対処しやすくなります。少し食べればいいんです。全てのアドバイスは生活や性格を正すためではなく、「楽になる方法」探しです。それは自分自身のためでもあり、周りともゆったりすごせるようにです。

夫:それがいいと思います😃周りとゆったり過ごしたいです😃

翌日から毎日のように『職場に無事につきました。今までは駅から10分で歩いていた道のりでしたが、途中2度休憩しおにぎりを食べて脈を測ってから状態を確認して再び移動しました。30分かかりました。でも安心して動けています。』と夫からグループLINEに届く。

まじめな性格がとても活かされている。きっちり休みきっちり食べきっちり測りきっちり仕事をする。そしてこのルーティンは苦痛ではなく安心している。ルールを守ると安心する性格がピッタリ合っている。

現状を理解しやすい言葉で伝えてもらえたり、不安な状況を回避するべく少し先に起こりうる困りごとを提示してもらうことで、気持ちを表出しやすくなっている。LINEの絵文字に余裕が感じられる。いつもの拒否の仕方とは違う。そしてその彼の心境の変化をグループLINEで家族で共有できていること(長女と私もグループ内に居る)がとても良い。安心する。

家族だけで、術後の新しい身体とマインドも持った夫を支えるのは難しい。変化に対応すべく、共に頑張り、我慢し、努力し、苦しみを続けながら生活をすることは辛い。 きっと誰かが壊れてしまう。そして関わる皆が壊れてしまう。
ナースさんの最初の言葉が身に染みる。ナースさんは家族に起こりがちなひずみに、今の世の中にはまだ無い新しい素材の柔らかくあたたかい修復液を持っているように感じる。

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