経営企画に異動して 「変える」ことの因数分解

社長直轄の精鋭を集めた新設経営企画になぜか紛れ込んだ、異質な40代女性の奮闘記。第三回目。

「新設の経営企画」という響きは考えてみれば少しおかしい。これまではなかったのか?と疑問をもつ人もいると思う。
実はこれまでも経営企画的な部門はあったのだが、管理業務が中心の部署だった。小規模部隊で、将来の戦略を立てるには権限も人材も不足しており、日々の売上を集計したり、販管費を管理したりするので手一杯、という状況だった。

会社を大きく変えたい社長には、それでは足りなかったのだろう。経営企画を新設したのは、会社変革の最初ののろしだった。

「人事は会社からのメッセージ」
社長が好んで使う言葉だ。これまでそんな事を思ったことはなかったが、言われてみると一つ一つの人事の意図が読み解ける。会社の方向性を強く示し、そのための体制を打ち立てる。かなり強引な配置転換も含めて、会社の本気が伝わってくる。

「人は戦略に従うのではなく、戦略が人に従う」。
とあるセミナーの人材開発コンサルタントの言葉だ。戦略を立てれば人はその通りに動くと言うのは勘違いだ。誰が実行するかで、成果は大きく変わる。

やはり人が大切、ということだ。
「ヒト、モノ、カネ、情報」という会社のリソースの中で、人の変動幅とスピードが一番大きい。かけあわせ方でも変わるし、時と共にめまぐるしく変わる。状況次第で、同じ人が浮き袋になることも重りになることもある。
そんな厄介な「人材の育成」が私の第一のミッションだ。大変ではあるが、やりがいも ある。

しかし、これまでうちの会社では全くと言っていいほど育成をしてこなかった。いや、育成はしていたが、「偉い人が自分がうまくいったやり方をひたすら下に伝承する」、名付けて「俺のクローン作り」式の育成だ。それでうまくいく部分もなくはないが、そもそもネットも携帯もなく、仕事≒接待の時代の成功体験だ。ものすごく、時代は変わっているのに。

「変える」という言葉は気軽に使ってしまうが、因数分解すると、「壊す」と「作る」から成っていると思う。壊さないで作ることは難しい。増設を繰り返してバランスを崩した建物のように。ノスタルジーは感じられるが、住み心地は悪い。住む人に無用の努力を強要する。

「うまく壊すスキル」がこれから重要になってくるのではないだろうか。
壊すことは恐ろしい。たくさんの人の地雷を踏む。でも、壊す勇気と決断力と、からりとした無邪気さで味方を作るふてぶてしさで、辛いことを明るく変換する詐欺師が必要だと思う。

今の世の中、どんどん壊れるスピードが上がってきている。私はそれを心地よいと感じる。しかし、社内の多くの人、特に上の役職の人たちは、恐れを感じている。遠い世界のことだと思おうとしている。
立ち止まることはできない。でも突っ走っても孤立する。これまで一人で猪突猛進してきた私にとって、デリケートなエンジンコントロールは苦手分野だ。

それでも、この会社を変えるチャンスを逃したくはない。私自身も、壊して作り、変わるタイミングなのだ。

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