【天気】なぜ50年に1度の大雨が毎年のように起こるのか(後編)

■ 50年に1度の大雨(解決編)

 昨日の記事では主に「50年に1度の大雨がどのように計算されているか」について書きましたが、本当に知りたいのは「なんで50年に1度の大雨が毎年のように発生しているの?」という点ですよね。今日はその理由について解説したいと思います。

 長くなったので2記事に分けましたが、前回の記事の前提があった方が理解が進むと思うので、お時間が許す方はこちらもご覧いただければ幸いです。

■ 復習:50年に1度の大雨の求め方

 「そうは言っても時間ねぇよ。読もうと思ったけどなげぇよ。」と思われた方のためにダイジェストで振り返ると、大雨特別警報の基準となる「50年に1度の大雨」はざっとこんな感じで求めています。

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 はい、以上ダイジェスト版でした。昨日結構頑張って書いたんですが要約すると4コマで終わってしまうんですね。。はかない。。

■ 「50年に1度」が頻繁に起こり過ぎではないか問題

 はい、計算方法は振り返ったので、そもそもの疑問を振り返ってみましょう。「50年に1度って滅多に起きない印象だけど、ここ数年で毎年耳にしてるよね。」という疑問ですね。事実として、2013年8月の特別警報発令開始以来、福岡県・長崎県で4回、佐賀県・沖縄で3回の大雨特別警報が発令されています。7年間で4回となると、全然50年に1度ではないですね。。

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■ 重要な質問

 ここでこの疑問を解消するのに重要な質問を一つ。

Q:2010年代と1980年代で、強い雨の回数が多いのはどちらでしょうか。


・・・これはおそらく皆様即答できるのではないかと思います。「だって明らかに最近雨の降り方が違うもん。。雹とか昔見たことなかったし、毎年のように川が氾濫する映像とか道路が冠水してバッシャーンってなる映像とか流れるやん。。。そりゃ2010年代やろう。。」


・・・正解です!!

 下の2つの図は、全国のアメダス地点で観測された1時間に50ミリ以上、1日に200ミリ以上のそれぞれの年間発生回数の変化傾向を表しています。どちらも10年で30回弱のペースで増え続けています。特に直近3年とか不安になるぐらい力強く増えていますね。。

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 という事で、1980年代より2010年代の方が強い雨の回数が多いというのは、感覚だけでなく定量的に見ても事実なんですね。

■ ここで湧いてくる違和感

 さて、ここで前の記事で触れたこの図を見てみましょう。50年確率降水量の計算の考え方ですね。この図を見るとちょっと違和感が湧いてきませんか?

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 なんとなく、こんな感じにしたくないですか?だって最近雨が強くなっていることが分かり切っているのに、律義に1900年~2019年を一緒くたにした箱から取り出すのって何か遠回りな感じがしませんか?だって最近の強い雨のサンプルの方が信頼できるに決まってるじゃないですか。昔はそんなゲリラ豪雨とか雹とか無かったし。2000年ぐらいで期間を区切って、最近のやつだけで求めた方が実際に即した値が出るでしょ。( `ー´)ノ

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■ 均質な100年

 そうです。まさに仰る通りです。ここに今回の問題の原因があるんですね。つまり現在計算されている「50年に1度の大雨」は、統計に利用した約100年間のサンプルをすべて均質に扱うようになっていて、最近の10年間は雨が強くなっているというようなトレンドを反映できていないんですね。年最大日雨量の時系列から年の概念が外れて単なるカードになっているのはそういった理由です。

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 少し言い方を変えると、以下のように言い換えられます。

現在計算されている50年に1度の大雨は、
過去約100年間の気候が変わらないという前提の元で計算されているため、
今実際に起きている気候の変化に対応できていない

 なんか「気候の変化」とか仰々しい形に言い直してますが、気候の変化に似たような単語、何か聞いたことありませんか?・・・そう、「気候変動」です。ようやくこれで新聞・TVの語彙とつながりましたね。これ以上要約すると専門の皆様からツッコミが来るかもしれませんがつまり、

現在計算されている50年に1度の大雨には
気候変動のトレンドが加味されていない

というのが、50年確率降雨が実態の雨と合わない原因だと考えられます。

■ どう変わっているか

 もう少しイメージしやすいように解説します。気候が変化しないというのは、「頻度分布を作った期間内で年最大日雨量の平均やばらつきに変化が無い」という前提を置いているんですね。だから約100年のサンプルから一つの確率分布が求められます。

 しかし実際には近年雨の降り方が変わってきていて、ここ数年で強雨の発生頻度も多くなってきており、年最大雨量も多くなっている傾向にあります。下の図は年最大日降水量の基準値(1981-2010年平均)に対する比を表しているのですが、近年明らかに増加していることが分かります。

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■ まとめ

 するとどんなことが起こるか。先ほどの赤い箱と青い箱のイメージをもう一度見てみましょう。

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 近年は強い雨が増加しているので、これまでの気候(青い箱)と近年の気候(赤い箱)だと、赤い箱の方が平均的に強い雨(大きい数字)が書いてあります。すると下の図のように、青い箱から1/50ぐらいの確率で出る数字も、赤い箱から取ると比較的当たり前に出る、という現象が起きます。

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 これが50年に1度の大雨が頻繁に起きる理由です。以前の気候ではごく稀にしか起きなかった現象が当たり前のように起きるようになる、つまり気候が変わってきているんですね。この効果を反映できていないために、滅多に起きないとされる50年に1度の現象が頻繁に起きてしまう、という事になっているんですね。

■ 半分スッキリしたけども・・・

 いや~めでたしめでたし。これで長年の疑問が解決された~(^-^) と、思う方は残念ながら半数以下ぐらいだと思います。。「そんな細かい数字の話じゃなくて、なんでこれまで降らなかった強い雨が降るようになったか、その気候の変化の中身が知りたいんよ!」という方が多くおられると思います。。

 そこは重々承知しておりますので、来週末になるかもしれないですが、おいおい解説していこうと思います。大体以下のようなテーマになると思います。

・温暖化によりなぜ強い雨が降るのか
・強い雨が降ると何がマズいのか
・どういった対策が行われているのか
・私たちは何をすれば良いのか 

それでは!(^-^)

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