見出し画像

言葉の宝箱 0761【いい大人が素直になるには恥もともなう】

画像1

『初夏の訪問者 紅雲町珈琲屋こよみ⑧』吉永南央(文藝春秋2020/8/30)

5月、草が営むコーヒー豆と和食器の店『小蔵屋』の近所のもり寿司は味が落ちた上、新興宗教や自己啓発セミナーと組んで商売を始め、評判が悪い。店舗一体型のマンションも空室が目立ち、経営する森夫妻は妻が妊娠中にも関わらず不仲の様子。それを見て、草は自らの短かった結婚生活を思い出したりしている。そんな折、紅雲町に50歳過ぎの男が現れ、新規事業の調査のためといって森マンションに短期で入居している男は親切で、街中で評判になっていた。その男が草の所にやって来た。店の売却・譲渡を求められるのかと思った草に対し、男は「自分は良一だ」と名乗る。良一とは草の息子。夫や婚家との折り合いが悪く、草が一人で家を出た後、3歳で水の事故で亡くなったはずだったが、その男によると「良一は助け出されたものの、父と後妻の間に子供が生まれ居場所がなくなり、女中だったキクの子として育てられた」という。その証拠として草と別れた夫との間で交わされた手紙や思い出の品を取り出して見せる。
男の言うことは本当なのか、本当に我が子なのか。草の心は千々に乱れる。嘘は人生の禍となるが、救いとなることもある。
甘いばかりではなく苦みを伴う。シリーズ第8弾。

・時のふるいにかけられたら、いいものしか残れないでしょう? P17

・恋愛は人を変える。身と心で否応なく学ぶからだ P19

・人を偽るのと、自分を偽るのと、どちらが難しいのだろう P23

・隠しごとは、騙していることになるのだろうか。
嘘のうちに入るのだろうか。
嘘になるのだとしたら、それは誰に対しての嘘なのだろう P40

・変な顔をしていると、声まで変になる P50

・正しさに縛られていては、味わえないものがある P88

・良きにつけ悪しきにつけ、人の口には戸は立てられない P95

・時は流れ、いいことも悪いことも永遠には続かない P98

・きちんとした服装が鎧に見えた P100

・考え抜いた末の答えだろう重みがあった。
経営が苦しいのは今なのに、一ノ瀬はその先を見据えている。
彼の態度には、自由さと、揺るがないものとが同居していた P102

・日本のテレビのあれ、ニュースかい? 天気、グルメ、芸能。
肝心なことは、ろくに報道しやしない。
御上に気を使ってるつもりかね(略)
戦争の時、ニュースが嘘だとわかっていても信じました?(略)
信じたふりをしたほうが楽だからね。あとで言い訳もできる。
騙されたんだ、私は悪くない、って P112

・離婚しようと、子を亡くそうと、
接客に集中すれば忘れていられ、客が笑顔になればうれしく、
その時間の積み重ねが傷を癒す薬になった P118

・命って、私たちが思うより、もっと自由なのかもしれないわね P190

・嘘は千里を走り、真実はおいてけぼり(略)
自分の目で確かめるのは、いいことです P196

・きっかけは嘘でもいい。
そんなことでだめになるようでは、だめなんだと思います(略)
再浮上するには、まず自分の非力を認めなくては(略)
ありのままの自分を認めれば、力は抜ける。
力が抜ければ、押し上げてくれる力に気付く(略)
いい大人が素直になるには恥もともなう P199

・夫婦は縄跳びね。
いつか女でも男でもなくなって、違う方を見て走りながら、
でも来る縄を迎えて、その時だけ息を合わせて、
手に手をとって、どうにか跳び越える。その繰り返し。
馬鹿馬鹿しいようだけど、そんなこと他の人とは無理なのよ P213

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?