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【構想力】こそが世界をつくる

#構想力 #エスノグラフィー#マーケティング#伊東豊雄#森ビル#暗黙知#文化人類学#表参道ヒルズ#森稔#コンセプト

<はじめに>
 現在、日経新聞「私の履歴書」では、建築家の伊東豊雄さんが連載されています。

 我々の生業とする経営やマーケティングの人間にとって、建築家の仕事は、極めて興味深いもので毎回楽しみに拝見しています。

今回は、私自身が体験した建築関係者との接点から今最も要求されているのは、【構想力】ではないかというお話しです。

その【構想力】をアップさせることが、従来までの課題解決アプローチでユーザビリティを高めるデザイン思考ではなく、更に目に見えない社会システムや社会価値を培う知のイノベーションに繋がるのではないかということです。

その前編になります。

①マーケッターと建築家の出会い

2010年頃だと思いますが、新しいヒルズ計画(横浜中区馬車道・北仲プロジェクト)に携わっていた頃に、伊東豊雄さんの事務所の方々にお話させていただいたことがあります。

 その横浜中区馬車道に新しく出来る横浜ヒルズに住む意向のある所謂富裕層へ、対面でリサーチして、未來の横浜ヒルズに住む人(レジデンシャル構想に途中で変わりました)のニーズやウォンツを探り出し、何案かのコンセプトを作り上げるのが、相談・依頼内容でした。

 その後、その建築家とは、更にそれを具現化する設計をするためにお会いする機会を得ました。

ヒアリング方法・・・エスノグラフィー的な(民族誌参与観察 文化人類学と現象学アプローチ)直接観察したものをベースに富裕層の言葉だけでなく、その生活を実際に体感したり、内面を探索しながら、仮説を作る作業(観察からアブダクション仮説生成する)に対して、建築業界の方々に関心を持っていただきました。
その後、竹中工務店さんや清水建設さんなど四社のゼネコン大手の設計家もプロジェクトに参加し、エスノグラフィー,ダウンロードミーティングを体感したのです。

 【エスノグラフィー的アプローチ】主観と客観を一体化しながら、対象者の内面に迫る場を作りながら、ヒアリングする。
それを基にして、様々な見解の異なるジャンルの方々が考え,対話することによって討議する。

いわゆる現象学でいう相互主観を得るまでの対話作業でした。

②森稔社長へのエスノグラフィーを使ったプレゼンテーション

 森ビルの森稔さんは、以前、表参道ヒルズを作るときは、「側道に水を流したい」と言いました。
それが明治神宮へのお清めになると考えて、建築家の安藤忠雄さんに依頼したことで有名です。
とにかく環境を観る力と思いが強い経営者です。

これを安藤忠雄さんは、森さんの【構想力】と言っていらっしゃいます。

 さて話戻りますが、新しい横浜ヒルズの構想では、ヨットを持ち、海から出入りするという従来にない新しい横浜ヒルズにしたいという森稔さんの思いが強かったと記憶しています。

 ヨットを持って、海を知る富裕層への対応です。

 私は、社長プレゼンテーションで二回ほど、森稔さんに、我々が感じた富裕層へのストーリーメイキングをベースに、コンセプトの説明を致しました。(場所は、現在の六本木ヒルズの最上階に近い社長室プレゼンテーションルームでした。)

 私が、プレゼンしたのは、100人以上の富裕層へのヒアリングをベースにして、「健康,安全、海洋文化、スポーツ、ファッション、ショッピング、食文化、オペラ、ヨット・・・」や世界のリゾート地であるマイアミビーチ、ハワイ、地中海、シドニーなどでの富裕層の好みをふんだんに取り入れてコンセプトにしたものでした。
それに横浜馬車道の明治時代の開港の歴史から紐解きながら、デザイナーを優遇する場です。(確か第1回デザイン会議は横浜でした)

 並行作業として、馬車道のそのエリアの地権者ヒアリングにも三年かけて、地権者の思い、JAZZ文化などを新しいコンセプトに内包しました。

その時の森稔社長のお言葉が、今でも記憶に残っています。

「富裕層のニーズや欲求は、あなたの実施してくれたリサーチ【エスノグラフィー】から分かりました。
しかし、私は、横浜馬車道地区は、「昼間は家族連れで、ショッピングや食事を楽しめる安心で快適な場」にしたいとは思います。
一方で、夜の横浜は、その反対で、【危険】でスリリングにしたい。昼と夜の2面(ヤーヌス)の顔を持つ都市が、私が好きな横浜だ。」

【危険な】演出などを考えてもいなかったので、私だけでなく、プレゼンに出席した副社長以下プロジェクトメンバーもかなり驚きました。

 これが森稔さんの【構想力】なんだなぁと驚きました。

「将来は上海と横浜を繋ぎたい」とも言われました。

私は,その時、即座に
「それは、中世からの海洋都市ベネチアにあるあの暗闇の中で海沿いの小道を歩きながら、レストランをやっとの思いで見つけられるような危険と安堵感を感じるような感覚でしょうか」
と問いました。

 多分それが、森稔社長には大変気に入られたようで、そのプレゼン1週間後に、森社長自らお褒めの会(森稔社長の側近取締役10人と共に)に呼ばれました。
そこで、「君は,上海に興味はないか!現在森ビルでは、上海森ビルを立ち上げるための運営で苦労しているんだ」とお声をかけていただきました。

もうひとつ記憶しているのは、

「君は、リチャード・フロリダの『クリエティブ・クラスの世紀』(ダイヤモンド社)を読んだか?」

都市や組織やコミュニティの在り方が書いてあり、常に未来を考えていらっしゃる方で、社会・経済全体を考えていらっしゃいました。
 残念ながら、その数年後、それは構想だけで、森稔さんは、お亡くなりになって実現しませんでした。

③構想力で世界をつくる

・・・徹底した【対話】と【問う力】と【共感】が市場を動かす

 話しが少し長くなりましたが、建築とマーケティングとの接点、更に顧客のニーズをベースにプレゼンしながら、経営者の熱い思いを対話により創出し、組み込めることができるかが、新しいコンセプトを生み出すことになるというのをこの時に学びました。

まさに暗黙知の形式知への変換作業ですね。

 建築とマーケティングとの重要な接点になっているのは、アナロジー(自分のアイデアに類似したものを発見し,それに基づいて発想を広げる)ことと、メタファー(未知のイノベーションアイデアをわかりやすい喩えで表現する)ことだと考えました。

 答えを求めるのではなく、考え抜いて【問う】ことが、相手の心に入っていく→共感になり、共鳴にまで至る最初の作業であることを体感しました。

 新しい市場を作っていくのは、先入観や予定調和からではなく、共に考えながら【対話】にあり、【共感】であると再認識しました。

<最後に>

 マーケティングや経営で考えなければならない課題やテーマが建築の世界にも内包されているのではないでしょうか。

 建築家の伊東豊雄さんは、大学四年の時、菊竹清竹事務所に通ったそうです。
 厳しいボスの菊竹さんが、アイデアを出すと同時に部下の10人が手足のように動いて,平面図(内井昭蔵)断面詳細図(遠藤勝勧)立面図(久慈惇)が同時に進行するスタイルだったそうです。
(かなりの激務だったようで体重は激減と本人が言ってます。)

建築の世界では建築の用・強・美を表すのは、図面です。

🔲平面図・・部屋の大きさや配置を表す用途

🔲断面図・・建物の強度,すなわち構造

🔲立面図・・建物の姿,外観,造形の美しさ

(「ここちよい建築」NHK出版 光嶋裕介より要約)

例えば、コンセプトが決まるというのは、この用・強・美の三要素が必要になります。

コンセプトとは、哲学でいう範疇・類型ではなく、
①新しい視点を提供する
②物事の本質を掴み取ることのできるような観点
と経営やマーケティングでは規定されます。

🔲(建築)平面図→
(マーケティング)アイデアを具現化する為の全体像,段取りや枠組み

🔲(建築)断面図→
(マーケティング)商品ならば機能性、構造、数量ベースで把握されます。

🔲(建築)立面図→
(マーケティング)複数のアイデアが結びつくことで理解できるレベル。     美、デザイニング、言葉を超える感性的領域
(私的な解釈ですが)

今回はここで終わります。

次回は、この後の展開 【構想力】とは何であるかをさらに考えてみます。想像力との違いは!

(次回への予告)

 現在話題になっているバルセロナのサグラダ・ファミリアの構想力への解釈を次回のnoteにしてみましょう。

現在、竹橋の国立近代美術館では、「ガウディとサグラダファミリア展」が9月10日まで開催されています。

ガウディの【構想力】は,見た目のデザインやモノとしての建築デザインに限定されていません。

 構想力として重要なことは,目に見えるハードウェアだけではなく、それを超える人間の行為や,社会システム、経済システムなど経験や事象の【構想力】です。

ガウディは,1926年に電車に轢かれて74歳で亡くなりました。完成させたのは東塔だけです。

何故,死後も建設は続いているのでしょうか。

そこには,ユーザービリティ重視で実用的で問題解決型のデザイン思考ではできないビジョン思考・エコシステムの概念を提唱する建築家の次元の異なる【構想力】が見えてきます。

今回も最後まで、おつきあいいただき、ありがとうございました。