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インサイト創出の為のシャーロックホームズの観察力と対話力

#シャーロックホームズ  現象学  センスメイキング アブダクション 野中郁次郎 インサイト マーケティング

<はじめに>
今年も早いもので、10月になりました。
今年に入ってからさまざまな企業の方々と話していてご依頼いただく内容に、特に顧客の【インサイト】を探りたいという話を聞きます。

今までのやり方では表層・表面の情報だけで分析してしまうことになり、戦略の計画を練っても新しいコンセプトはできないし、イノベーショナルな新製品開発はできないということでしょう。

 従来までのマーケティングの延長としてデジタル化による正確さとアビリティを重視する形にするのではなく、マーケティングの質が変化し、言葉にならない、言葉に表現できない暗黙知、人間しかできない感性、創造性が今こそ強く求められているように感じます。

 そんな中で、数多くのプロジェクトで経験してきた【インサイト】を描く作業の試行錯誤を今回書いてみます。


0.インサイトを探ることで起こること

インサイトを描いていくと途上で、参加しているプロジェクトメンバーで作業中、涙を出しながら感動する方がいます。
また、終始自分のいまだ知らなかった能力が開花されたと喜ぶ方もいます。多分、インサイトを描く作業が、自分ゴトになって、自分の知らなかった自分に気づいて、思わず感動する、共感する、共鳴に至るのではないかと私は思います。

言葉を超えて、心を震わせた何人かにプロジェクト後に、お礼の言葉をいただくこともあります。

それは、インサイトがパッションの証だからです。
インサイトのまとめ方は、KJ法で綺麗にまとめることではないのです。

そんなインサイトを探れているかを確認するための視点をこれまで実施してきて体感したことから独自に3つ作成しました。本稿の最後に提示してみます。

1.自分が参画しながら観察する

【ステップ1】"真に"「観察」をすることから始める。
ただ漠然と見ても観察にはならない。
バイアス・予定調和なく、モノを観ること。
予定調和的な分析的な姿勢ではなく、事象の場に自ら参加し観察すること。(自分ゴト観察)

 これによって、問題やテーマの深掘り、再考に繋がるケースが多々あります。

<観察方法・フィールドワークの方法>
この方法は、社会学と現象学、文化人類学の観察方法です。従来の分析的な経営や統計学ではありません。

フィールドワークとは
①現場に行く
②当事者(顧客、競合、担当者など)と話す、聞く、見る
③「参加者」になる

むやみに観察するのではなく、当事者との体験の共有化です。
従来までの論理的抽象な思考をできるだけ避けて、実践的感覚、感性的を大切にします。

ありのままを素直に取り入れる。これは、現象学的アプローチです。

現象学は、ただ主観的体験だけを分析するのでも、客観的なものを自然科学的に分析しているのでもありません。
主観と客観がいつどこで発生したり交わったりするのか、そして人はなぜ無数の「共通性」と「差異性」の本質を瞬時に洞察することができるかを探索します。

「直観の経営」野中郁次郎、山口一郎 KADO KAW A、p250、251



2.主観を客観化する作業

【観察】のキーは「主観の客観化」ここが、インサイトを創出させる最大のポイントです。

「主観の客観化」は一見矛盾に見えます。しかし、大事なことはそれを同時に行うことです。
ここが、通常の仮説を検証するようなグループインタビューやディプスインタビューとは全く異なる視点です。

例えば、店頭観察する時には、「周囲にいる顧客層に属する人々と接して、自分もその身になって見聞きする」
つまり、観察者である自分(客観的側面)と参加者である自分(主観的側面)の両面から意識するのです。これが、真に"観察する"ということだと思います。

 エスノグラフィーで、インタビュアーである"私"が顧客・対象者に向き合う時に、ある瞬間から、聞く人→聞かれる人という関係から、対等に聞く人⇔聞かれる人の関係を作る工夫を出来るだけしています。

つまりその人の心の中に入って行ったような感覚になった時、経験や場との関係や話の文脈が共有化されることがあります。それがインサイトに至る極意だと考えています。

対象者(被験者)は、最初不思議に思うみたいです。
「私に聞かれているみたいで、でも私に問いたい」この感覚です。

3.アブダクションで思考する作業

【ステップ2】仮説の作り方
アブダクション的思考と対話。

ステップ1の観察・フィールドワークで重視したのは、直接体験です。
しかし、ここで従来のロジカルシンキングの演繹的あるいは帰納的思考をしたら、観察の意味がなくなります。

直接体験した後は、観察現場に身を置いてアブダクション思考で「見る」ことです。 

さまざまなデータ・情報を思い込みで分析するのではなく、ひたすら観察し、感じたこと、思ったことを一種のアイデアとして特定の変化に結びつくような仮説として見いだすことです。
これは、シャーロック・ホームズの犯人探索術と同一の方法です。

ホームズシリーズでは、警察が初期に現場で得られた事実だけを都合よく繋げて、すぐ「論理的」に説明してしまうから思いもよらない思い込みに陥ります。
これは、今までの表面だけの形式知だけで商品開発している企業にも当てはまることではないでしょうか。

【シャーロック・ホームズのアブダクション】
 アーサー・コナン・ドイルは、シャーロック・ホームズの物語を60作書いています。その大部分が、ホームズにまつわる事件を、ワトソンが対話形式で記述するという形式で書かれています。


【ホームズの方法論ー推理分析学】
「理論家は、一滴の水から自分が見たこともない大西洋やナイヤガラの滝の存在を推測できる。
同様に人生とは大きな鎖であり、その一環を見れば全体を知ることが出来る。
他のあらゆる学問と同じく、『推理分析学』も長年の忍耐強い研鑽によって培われものである。
(中略)初学者はまず、より基礎的な問題から習得してゆくのがよいだろう。例えば人に会ったら、その人の経歴や職業、専門などをひと目で見分けられるように訓練すべきだ。
子供じみているように思えるかもしれないが、このような訓練は、【観察力】を研ぎ澄ませ、どこで何を見るべきかを教えてくれる。
指の爪、上着の袖、ブーツ、ズボンの膝、人差し指と親指の皮膚の硬くなった部分、顔の表情、ワイシャツのカフスーーこういったものひとつひとつから、
人の職業は、自ずと表れるものだ。
有能な探求者がこれらを総合すれば、必ず何かが解明されるはずだ。」
(「緋色の研究」第1部第2章)

100分de 名著 2023年9月 シャーロックホームズ・スペシャル 廣野由美子 
英文学者 京都大学大学院教授による


4.我々の相互主観へ

【ステップ3】個人の主観を超えて我々の主観から組織として共有される客観化作業へ

アブダクションによる推論は、メンバーの間で異なる場合があります。
そんな時、ダウンロードミーティングとして、互いに徹底的に対話の場を持ちます。
個人の主観は、互いの身体や五感を通して、直接の体験を通して、他者と共有されます。
対話を通して、相手の想いに触れて、メンバーと対話をすることで、新しい気づきがうまれます。
互いの意見や想いに共感し合うことで、個人の主観が我々の主観に変わります。(現象学では、相互主観といいます)

【ステップ4以降】新しい意味の生成

アブダクション作業の後に鍵になるのは、【メタファー】による新しい意味の生成と物語(ストーリーテリング)です。

「喩えていうならなんというか」、そして自分自身の体験(暗黙知)を全て形式知化しないで、暗黙知の豊かさを失わないように「内面化」する作業です。

この二つは、今まで、何回が私のnoteでも言及してきましたので今回は、割愛いまします。

<最後に>インサイトを探れているかを確認する3つの視点

ビジネスの唯一の目的はドラッカーの言うように顧客の創造です。
企業の目的は顧客のため、社会のために付加価値を創造することです。

今回のインサイトを創出する作業の説明は、前回まで提示したセンスメイキングの第1ステップである感知(Scannig 五感全体を使って物事をよく感じ、ありのままに観る)ことと同じです。

最後に、冒頭申し上げたインサイトを探れているかを確認する3つの視点をお伝えします。

①ターゲットのプロフィールをより綿密な観察によって描いているか

②そのターゲットは、現状の生活全体に満足しているのかを明確に描けているか

③そのターゲットは、未來において変化を引き起こし、新しい世界を創造するか、そのポイントは?

①〜③をチームでの対話による知的コンバットをすると、ソリューションが出易くなり、より具体的になります。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。