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スポーツとしてのスキーの限界

2018年、スキー人口は93年の1,800万人からスノーボードを合わせても530万人まで減っている。いまその業界にフルコミットしている身として、お金にまつわるスキーの話をまとめてみたいと思う。

スキーはマイナースポーツかメジャースポーツか。

両者の定義は難しいが、そのスポーツを専門として選手やコーチなどの職業で食べていけるかどうかをひとつの基準とするなら、スキーとスノーボードはマイナースポーツだ。

スポーツの収益には大きく分けて3つある。
チケット収入
スポンサー収入
放映権収入

まずチケット収入

スキーの大会はサッカーのように数万人が見ることは出来ない。スキー場という入場管理が非常に難しい環境でやるスポーツであり、入場料を取ることすら困難だ。

続いてスポンサー収入。オリンピックの最上位スポンサーは数百億円をIOCに支払っており、東京五輪のスポンサーは最下位でも億単位だ。

世界的にもスポンサーシップの市場は一部のグローバルメガコンテンツ(オリンピック、サッカーワールドカップ、UEFAチャンピオンズリーグ、バルセロナ、ユベントスなど)に流入する収益が中国マネーなどを元手に増えている事もあり、成長傾向だ。日本企業もサッカーには国内外のチームに楽天やサイバーエージェントが出資している。

しかし、自国開催の五輪という何十年に一度あるかないかというオリンピックは非常に特殊であり、日本におけるスポーツイベント、特にスキーという多少のサイズはあっても閉じられたファン層しか持たないスポーツには、数百万円のスポンサー協賛をする企業すらもほとんど無い。

放映権。これも、メガコンテンツのみに資金が集中している。放送すれば確実に視聴者が見込めるグローバルコンテンツや、日本で言うと甲子園や箱根駅伝などといった風物詩的なコンテンツ以外、放映権を「買う」ためにお金を払う放送局は新興のプラットフォーム、アベマやDAZN、amazonなどを含めても、無いと言って良い。

JリーグがDAZNに放映権を10年1,200億円で買ってもらった。単独のスポーツでそこまでの金額を放映権で稼げるようなスポーツは、リーグや選手も潤う。露出が増え、結果としてスポンサーにとってのメリットも大きくなり、スポンサー収入も増える。

が、今そのように、いわゆるトラディショナルな、過去30年ほどのスポーツ界のビジネスモデルで稼げているスポーツは、サッカーくらいしかないのではないだろうか。少なくともスキーはそうはなっていない。

ではどうやってスキー選手は稼げば良いのだろうか。

日本でスキーをやって稼ぐにはいくつか方法があるが、結論から言ってどれも見通しは暗い。

ひとつめ

選手としてスポンサーをつける:日本にしか無い独特の競技として、基礎スキーおよびその頂点を争う技術選という大会がある。ここで優勝するようなレベルの選手は、昔からスキーをサポートしている企業、スバルやエイブル、ICIスポーツなどから年間協賛としてお金がもらえる。

スキーメーカーからも契約金がもらえる。なぜなら、いま日本で10万円以上するスキーを買っているのはほとんど基礎スキーヤーだからだ。ここは重要なポイントである。

ただし、技術選でトップに顔を出す選手というのは、10年ほどあまり変わっていない。若い選手が多くは出てきていないし、ファンも、その間ずっと同じ人が応援し続けている。

新しい人が入って来ないということは、このままだと無くなって行くしかない。ただし、繰り返すが、いまスキーを買って産業として日本のスキー業界を支えているのは基礎スキーなのだ。

ふたつめ

インストラクターになる:日本でスキー場のインストラクターがレッスンのゴールとして定めている事は大きく分けて2つだ。
1.ジュニアやキッズがアルペンレーサーになる
2.検定で級や指導員といった資格を取る

どちらも、スキー人口激減と、少子高齢化で今後も上向くこと考えにくいから、非常に厳しい状況だ。

それに加えて1は、親が道具を揃えたりスキー場まで送迎する大きな投資が求められる。ここまで書いたように、選手として食べて行くのがたとえオリンピックに出ても厳しい世界であり、回収がほぼ出来ないため、中学校卒業時などの節目で選手を卒業してしまう。

多くは、スキー場にも戻って来ない。当然、スキーを買ったりすることも無い。

2は1を卒業した人がこちらの階段を登り始めるという位置づけで20年前は活況を呈していた。しかし、既に階段を登りきってしまった(1級などの資格を取ってしまった)人にとっては、それ以上やり続ける意味はあまりない。若い人から見ると新規性もなく、検定の階段を登ろうとする若い人は確実に減っている。

エンターテイメントは常に新しいものを出していかなくてはいけないのだ。ましてやスマホで5秒でゲームや映画のアプリが立ち上げられる時代である。

こういった状況では、スキーを続けるには、宿やレストランなど、スキーと関係無いことで稼ぐしかない。

じゃあ、スキーの未来は暗いのか、というとそんなことは無いと思っている。それは次回。

フリーライドスキー/スノーボードの国際競技連盟、Freeride World Tour(FWT)日本支部で、マネージングディレクターおよびアジア事業統括をやっています。