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テレパシーの作法

「お主、悩みがあるそうだな」
「あなたは誰? なぜ姿が見えないのですか?」
「私はお主の脳に直接話しかけているのだ」
「…ということは、もしかして、あなたは神ですか?」
「なんとでも呼ぶがいい。私は私。この世の様々な事象を管理している」
「じゃぁ、神と呼ばせてください。でも、神なのに、悩みの中身までは知らないんですね?」
「お主、バカにしておるな。皆まで言うと、興ざめだろうが」
「なら、本当は知ってるんですよね?」
「だから、会話のリズムとか、コミュニケーションの作法ってのがあってな。最初に全部ネタバレしたら、会話にならないであろうが」
「なるほど。他に誰も聞いてないのに、会話のリズムとか気にするタイプなんですね。神様も意外と他人の目を気にするのかな」
「私が神かどうかは置いておいて、お主、結構失礼だぞ。それが悩みを相談する相手に言う言葉か」
「もしや、意外と神様にも上司とか管理職みたいな人がいて、この会話をモニターしてて、点数つけてたりとか?」
「……お主、だとしても口に出すもんじゃない。失礼だぞ」
「なんとなく当たってそうですね。あ、そろそろ悩みを話して良いですか?」
「さっきからそう言っておるだろうが」
「あの、好きな子ができたんです」
「そうか。どんな相手だ?」
「高校の同級生で、めっちゃかわいいんだけど、あ、画像見せられないかな? スマホ持ってないですよね?」
「私にはそんなツールは不要だ。なにせこうしてテレパシーで会話…」
「持って無いならいいです。そこで神様のプチ自慢とか聞きたくないんで」
「お主、友達少なくないか?」
「あ、そうやってすぐに決めつけるの、神様なら自重した方がいいですよ
。こう見えて、短文投稿のフォロワー千人、写真投稿SNSは5百人いるんですから」
「それは良かったな。で、悩みの続きを聞かせてくれ」
「あの、その子のタイプとか、カレシがいるか知りたいんですけど、彼女、SNSは友人同士の鍵つきアカウントしかやってないみたいで、かと言って、直接聞くのは超恥ずかしいし、学校ですれ違うくらいだから、そもそもリアルで話しかけるチャンスも少ないし…」
「なるほど。若者らしい悩みだな」
「なんか、相談に乗るとか言う割に、達観したおっさんみたいなつまんないコメントですね」
「おい、これでもあれこれ策を考えておるぞ」
「あ、得意のテレパシー的なやつで、こっそり聞いてもらえますか?」
「私はお主のパシリとか、伝言屋ではない」
「なんかいちいちヘンなプライドっぽいのが見え隠れしません?」
「そんなことはない。それではお主の悩みの本当の解決や、成長に繋がらない、と申しておる」
「なんかもっともらしい言い訳ですね。で、神様のアイディアは?」
「なんか、いちいちひっかかるな。まぁ良い。お主、近々、学校とか地元で、ちょっとしたイベントでもないか?」
「文化祭はまだ先だし、あ、そう言えば女子が好きそうな『南国スイーツまつり』が来週、割と近所であります」
「それだ。学校の出口ででも待ち伏せして、それっぽい理由で誘ってみたらどうだ?」
「むちゃくちゃベタな誘い方ですね。しかも『それっぽい理由』が思いつきません」
「それくらいお主で考えろ。『男だけでは恥ずかしくて行けない』とか『甘いものが好きって聞いたんだけど』とか。大体、最終的に交際を目指すなら、遅かれ早かれ、気持ちは伝えなくてはいけないんだ」
「そんな思い切って聞いて、玉砕したらどうすんですか。こう見えて結構傷つきやすいんで、無理です。そうならないように、いい方法がないか考えてるんですから」
「勇気を出すことや、振られることも経験だぞ」
「いえ、結構です。それなら片思いのままで。学校で周りに見られて、広められたら、かなり地獄だってわかりませんか?」
「わからなくはないが、失敗するリスクを恐れたら、何も得られないぞ。ノーリスク・ハイリターンなんて、この世に存在しない」
「やっぱり神様って言っても大したことないですね。がっかりしました」
「なんだ、がっかりとは。あんまりではないか。これでもお主の成長を…」
「今日は遅いので、もういいです。また気になったら相談します。あ、連絡先とか交換できます?」
「お主、会話の遮り方が残酷だな。いや、不安になったら、また私の方が気づいて声をかける、という寸法だ」
「それって、そちらは良くても、こっちからは相談できないシステムなんですね」
「あのな、これはそういうサービスではない。奉仕の精神だ」
「あ、テレパシーにもメールみたいにアドレスとか無いんですか? 神様同士って、スマホないのにどうやって連絡とるんですか?」
「そこまで言うとは、お主、本当は私と繋がりたいんだな。なかなか素直じゃないな。特別にお知らせしよう」 
「やった。意外と交渉ってしてみるもんだね」
「言うぞ。ワイ・エー・ピー・ピー・ワイ…」
「yappy…」
「アット、エー、アール、イー、エー、数字のさん、ドット、ジェー、ピー、ドット、ジー、オー、ディー」
「yappy@area3.jp.god ですね。あ、なるほど。神様のドメインってgodなんですね。日本の、エリア3があなたの管轄ですか」
「そう言われると、俗っぽいが、だいたいそんなところだ」
「でも、yappyって、ちょっと恥ずかしくないですか?」
「余計なお世話だ。これは見習い時代に、私の師匠が親しみを込めて私をそう呼んだんだ」
「へー、神様にも師弟制度みたいなの、あるんですね」
「まぁ、神様かどうかは別として、そんなところだ」
「でも、アドレスがわかっても、どのアプリで呼んだらいいんですか?」
「そこだがな、ここだけの話、このアドレスはテレパシー同士で使うものじゃなくてな、お主らが使うメールと交換機を通してつながるものなんだ。最近開発されたんだぞ」
「あ、だったら僕らからしたら、メールと同じじゃないですか。良かった」
「ま、そういうことだから、また悩みが深刻になったら、相談してくれ」
「はい。じゃぁ、寝ますね」
「お前は本当に… まずは悩みがあっても元気そうで良いが」
「あ、このアドレス、怪しいサイトの登録とかには使わないから安心してください」
「当たり前だ。むしろ、そんな事言われたら不安になるではないか」
「あと、彼女の写真、後でここに送っておきます。jpgファイルで読めたりします?」
「ああ… というか、お主の空想描画から既に見えているがな」
「え… 先に言ってくださいよ。ってことは、本当は彼女に交際相手がいるかとか、知ってるんじゃないですか?」
「いや、っていうか、知ってても言わない。お主の成長のためには…」
「なんだ。そういうことですか」
「どういうことだ?」
「yappy神様のクセが掴めてきました。以外と単純ですよね。彼女、フリーなんでしょ?」
「だからそれを言ったら…」
「ってことですね。安心しました。早速明日、南国スイーツまつりに誘ってみます! ありがとうございます」
「おい、お主、私はまだ何も…」
「あ、この会話、レビューとか評価欄があれば、☆5つにしておきますから、上司の方によろしくお伝え下さい」
「あのな…」
「じゃー、おやすみなさい!」

*この物語はフィクションです。