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なんちゃって留学 よもやま話18     ~プロヴァンス地方への憧れ

今でも行きたいのは、南仏プロヴァンスの古い町。これは、M.パニョル原作のプロヴァンス物語と、1990年代に世界中を一世風靡した「南仏プロヴァンスの12か月」の影響を受けて、なのだ。

プロヴァンスの田舎に行きたい!

1994年の短期留学当時、ブルゴーニュ大学では日帰り旅行も含めて色々なツアーが企画されていた。私が参加したのは「ロワールのお城1泊ツアー」のみだったが、オランジュ Orange やアルル Arles、アヴィニヨン Avignon などを2泊3日でまわる「古代中世のプロヴァンスツアー」というのもあり、本当はこれに参加したかった。
しかし、留学前から計画していたモンペリエ旅行(よもやま話13と14で記載)と日程が重なってしまい、断念したのだった。

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※大学主催ツアーの案内。プロヴァンスツアーは約26,000円(1,300FF)。
2泊3日なのに、かなり安い。

2010年代に入ってから、プロヴァンス地域に属するマルセイユ Marseilleには行ったものの、猥雑な雰囲気の港町と、世界遺産にもなったル・コルビジェ設計の「ユニテ・ダビタシオン」* に行っただけで、結局、小説や映画で見たプロヴァンス的田舎町には行けなかった。
 * Unite d’habitation  一般のマンションだが、一部ホテルになっており宿泊できる

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    @pixabay

「南仏プロヴァンスの12か月」の世界

1990年代当時、イギリス人ジャーナリストのピーター・メイル氏が書いた「南仏プロヴァンスの12か月」(河出書房新社)が世界中で大ベストセラーとなり、多くの人たちがプロヴァンスに殺到した。1989年出版の本で、日本語版が出たのはそのあと(本の奥付を見てみたら、初版発行は1993年1月)、短期留学した1994年当時だと、日本ではプロヴァンスブームを迎えた頃だったのだ。

この時持って行った「1994年版 地球の歩き方・フランス」の巻頭は、プロヴァンス特集だった。石造りの狭くて古い町並みが掲載されていて、もちろんこれは「南仏プロヴァンスの12か月」を紹介しての記事だ。初めて実際の写真を見て(小説にはイラストしかない)、一層心惹かれた。
おそらくこの頃、多くの日本人がプロヴァンスへ行ったと思う。

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※一番右は「地球の歩き方」の記事。懐かしい。

短期留学の出発前に「地球の歩き方」を読みながら、プロヴァンス地方にも行ってみたいなあと胸を躍らせていたけれど、この時行ったモンペリエは、南仏ではあるがプロヴァンス地方*ではなく、オクシタニー地域圏なのだった。
 * プロヴァンス=アルプ=コート・ダジュール地域圏

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「南仏プロヴァンスの12か月」内に脳内トリップ

しかしこの本を読んだら、やはりプロヴァンス地方に行ってみたくなるのが人情でしょう!改めて読み返してみて、本当にその感覚に間違いはなく、何度読んでも、その都度やっぱり行きたくなってしまうのだ。

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            @pixabay

本の中では、プロヴァンスの自然と、そこに住む人々・食生活が本当に魅力的に描かれている。厳しい自然と向き合いながら、少し頑固で、最初は斜に構えるけれど、懐に入ればあったかい人柄の、くせのある人たち。

特に、食べ物に関する描写が最高だ。旬のものを味わいつくす、おいしいものへのあくなき追求と執念。このこだわりは、地元の人たちのアイデンティティーに違いない。本当に、生きることは、食すこと、という感じなのだ。そして実際に出てくる一皿の、おいしそうなこと!

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      @pixabay

もちろん、生活している中ではすべてがハッピーではない。困った訪問者たち、迷惑な観光客もいるし、なかなか進まない工事などでフラストレーションもたまる。 
冬はミストラルと言われる季節風が厳しく、なかなか過酷そうだ。でも「そこに根を下ろして生活する」からこそ、より深く、その素晴らしさを味わえるのだろう。

実際にこの本が出た後、プロヴァンスに人が押し寄せてしまい、中には傍若無人にメイル氏の家に入ってきてしまう人たちまで現れたらしいが、それだけ、この本にはプロヴァンスの魅力があふれていたのだと思う。

その魅力とは何なのか? 自然の、生活の、食の豊かさ。自然と共に生きている様そのもの。あわただしくて、せせこましくて、世知辛い生活をしている人たちが(私も含めて)、うらやましいと感じること・ものがたくさんあるのだ。

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  @pixabay

この本を読むと、プロヴァンスでの生活を妄想できて幸せな気持ちになるのはもちろん、今の自分の生活、こういう生き方でいいのだろうか?少し立ち止まって考えた方がいいかも、と思ってしまう。

新型コロナの世界では、図らずも少し立ち止まって考える機会を得ることにはなったものの、年がら年中嫌でも様々なニュースが耳に入ってきて、情報過多になっている状況に変わりはない。目の前にある日常の出来事、日々の食事。そういうものにゆっくり向き合う時間を作らなければ。

実際はガラッと生き方を変えることはできないし、私自身も現状をドラスティックに変えようとは思わないが、もう少し旬のものにこだわって時間をかけて食事をしてみようか、手の込んだ料理を作ってみようか、とか、たまには大自然を味わえるところに行ってゆっくり過ごしてみよう、スマホデトックスしてみよう、とか、そんな他愛もないことを思ったりした。

と、真面目なことを書いてみたが、本を読みながら常に考えていたのは「美味しいものが食べたい」!! 人間、原始的欲求には抗えないのだ。

ふと、メイル氏は今どうしているのだろう?と調べたら、2018年にお亡くなりになっていた。合掌。

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子供の頃の郷愁 ノスタルジー

一方、マルセル・パニョルの自伝小説「少年時代」
(原題: Souvenirs d’enfance Ⅰ〜Ⅲ、評論社文庫)は、映画「プロヴァンス物語」として、1作目「マルセルの夏(原題:La Gloire de Mon Pere 父の大手柄)」2作目「マルセルのお城(原題:Le Chateau de ma mere 母のお屋敷)」として、子供時代のオーバーニュ地方での思い出が中心に描かれている。この2作の映画は完全につながったお話なので、もし見ようと思う方がいれば、ぜひ続けて見ることをお勧めする。

舞台となっている時代は少し古く、20世紀に入ったばかりの頃なので、日々の生活も今よりゆったりしている。マルセル・パニョルはこの小説を自分で映画化しようとしていたらしいが、1974年に他界してしまい、その思いを知っている奥様はしばらくは映画化権を手放さず、この映画の監督の熱意に押されて、映画化権を渡したらしい。

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私がこの映画を知ったのは、フランス語の授業で教材として使用されたからだ。大人になったマルセル・パニョルが昔を回想する形で、子供の頃の美しい日々が描かれている。

とにかく、ノスタルジーに溢れていて、自分の子供の頃を思い出してしまう。子供の頃は、夏休みがとてつもなく長かった。普段できない水遊びや、新しい場所に行った時の、ちょっとした”冒険”や背伸び・・・そんなこと。
2回の世界大戦が起こる前の、のどかな古きよき時代。Au bon vieux temps… 本当にほのぼのしていて、優しさにあふれていて、心が温まる映画。マルセイユ、オーバーニュの自然の映像も素晴らしい。

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※@pixabay この写真はNice近くのヴェルドン渓谷だが、映画でマルセルたちがバカンスを過ごすところは、こんな感じで岩場の続くガルラバン  Le Garlaban 周辺だ。

2作目の最後は、グッとくる展開だ。2作を通じて、親子の愛情・友達との友情・子供の頃に感じる純粋な思いなどが描かれている。暖かくて、楽しくて、ずっと続いたらいいのにと思うが、それは永遠には続かないのだ。それが人生。C’est la vie. でも、あの思い出は絶対に忘れない。

酸いも甘いも経験した主人公マルセルは、大人になって、思い出の場所に図らずも戻ることになるのだが(2作目の映画のエンディング)、これは映画「ニューシネマ・パラダイス」の最後と重なって、心のある場所がキューっと締め付けられる感じがするのだ。

フランス語の勉強にも
プロヴァンス地方の方言は正直聞きづらいが、全体的にわかりやすいフランス語。しかも、1作目の「マルセルの夏」はシナリオブックがあるのだ!(第三書房から出ています)
日本語訳はないけれど、しっかりした注釈があり、映画を見ながら勉強になる。本当は、2作目のシナリオも欲しいのだけど、無いようだ。

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※左の、地元の少年リリとマルセルの写真の本が、シナリオブック。
右は、買いなおしたフランス語版の小説。昔の本だと表紙はマルセル・パニョル自身の写真だったが、新しい本の表紙はSempeのかわいいイラスト。フランス語学習者にはおなじみ、「Le Petit Nicolat」の挿絵で有名なSempeです。

ここまで色々と振り返ってみると、あそこに行ってみたい、と思うきっかけになるのは、やはり本や映画なのだ。作者の素晴らしい記憶や歴史を追体験し、さらに実際その場所に立って雰囲気を味わってみる。なんて幸せなことだろう!

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テーマを持って行く旅、というのは、なんだか贅沢な感じがする。以前、勝手に「ダ・ヴィンチ・コード」の旅、と銘打ちフランスーイタリアの旅をしてみて、自己満足ながらとても楽しかったので、プロヴァンスに行くときは、この上記2作品を辿る旅になることは間違いない。

さて、いつ行けるだろう?




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