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【童話 #23】たっくんと金魚すくい

※これは子ども向けになります

ピーヒャラ、ピーヒャラ、ドンドンドン。

いつもしずかな商店(しょうてん)がいに大きなたいこの音ときれいなふえの音がします。

暗いよみちもちょうちんのあかりで明るく、たっくんのくつのよごれもはっきりと見えてしまいます。

大人どおしがおしゃべりしながら、おいしそうにのみものを飲んでいます。



たっくんは小学2年生で、夏やすみもおわろうとしています。

夏やすみの思い出をつくるために、ちいきのおまつりに来ました。

お祭りにはたくさんの人がいて、たっくんのお友だちが来ているかどうかまではわかりません。

たっくんは歩きながらきょろきょろとあたりを見わたします。

たっくんの好きなわたがしのお店を見つけました。

いつもはわたがしがかんたんに作れるきかいにザラメを入れて、
わりばしにくるくると白い糸のようなものをまきつけて作っていきます。

けれども今日はできあがったわたがしが売ってあります。

たっくんは何でも自分でやってみたいと思っていたので、少しざんねんな気もちでいっぱいです。

ふくろからとりだした、わたがしを口いっぱいにほうばると、あまいあまい白い糸のかたまりはすぐに小さくなりました。

かむまえに消えてしまうかんかくで、たっくんはあまい雪をたべているようにかんじました。

わたがしだけでなく、くじびきのお店やたこやきを売っているお店が仲よくかたをならべています。

お祭りにきた人もお店の人もえがおでわらっているようすを絵にっきにかくつもりです。

かき氷を売っているお店をとおりすぎたところに金魚すくいのお店がみえます。

「ねえ、あのお店はなにをうってるの?」
たっくんはパパにききました。

パパはこうこたえました。
「あれはね、小さな赤やくろ色の魚をすくってあそぶところだよ」

パパはつづけて言いました。
「ふつうにすくってもお魚さんはとれないよ。お魚をのせる白いかみが水にぬれてやぶれやすくなるんだ。だから、そっとそっとやさしくお魚をかみの上にのせないといけないんだよ。」

「えー、やってみたい。やってみたい。」
たっくんはその場ですこしジャンプしながら言いました。

たっくんのパパはいつもならすぐにいいよと言うのですが…、少しかんがえました。

そして、たっくんにこう言いました。
「このお魚はね、すくって取れたあとは持ってかえるんだよ。だから、たっくんはおうちでお魚のお世話をすることになるよ。」

たっくんはニコニコしながら言いました。
「たっくんはお世話するのだいすきだよ。お魚さんにえさをあげればいいよね?」

パパはしばらくだまってしまいました。

「たっくんさ、ここでお魚をすくうのもいいけど、あっちにあるヨーヨーをとるのをやってみない?」

「えー、お魚すくうのをやりたいよ。ちゃんとお世話できるから・・・。」

「もちろん、たっくんはお世話できると思うよ。だけど、お魚さんも生き物だから、しんでしまうこともあるよ。」


「パパ、しぬってな~に?」
たっくんは少しかおをななめにしてきいてきます。

パパはお魚がしぬことをたっくんにせつめいすることにこまりました。
なるべくわかりやすくとおもって、かんたんなことばでいいました。
「う~ん、うごかなくなって、たっくんとさよならすることだよ。」

たっくんはすこしさびしそうなかおでいいました。
「たっくん、さよならするのはヤダ。かなしいからぜったいにヤダ。」

パパは金魚すくいのお店のちかくにあるヨーヨーのお店をゆびさしました。
「あっちなら、いろんなもようのヨーヨーをとれるよ。」

つづけてこう言います。
「たっくんがね、もう少し大きくなってお魚がしぬってことがわかるようになったら、金魚すくいをやろうね。」

「うん、わかった」
たっくんはすこしだけニコッとしながらこたえました。

パパはたっくんのかたをかるくたたきながら、こう言いました。
「ようし、来年きたときは金魚すくいをやろうな。」


ちょうどあれから1年がたちました。

まちではしんがたコロナのかんせんしょうのえいきょうで、たのしみにしていた夏まつりはなくなってしまいました。

たっくんがお魚さんとバイバイすることがどういうことかわかるようになるころには、ふたたびあのにぎやかなお祭りがひらかれていることでしょう。

それまでにたっくんはどんなせいちょうをしているのかな。


【終わり】


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